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弁護士の平野剛です。今回は定年後再雇用における賃金を定年前の6割の水準にしたことが違法とは判断されなかったケース(東京地裁令和5年5月16日判決)をご紹介します。
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目次
本件の被告法人では63歳を定年としており、原告は被告法人に30年超にわたって勤務して定年を迎えました。
原告は採用後から定年まで経理関係の業務に従事していましたが、管理職には就いていませんでした。定年退職後は嘱託社員として1年間の期間で再雇用され、1度契約を更新した後に契約期間満了で退職しました。
原告の定年前の賃金は、年収総額628万3020円、月額は基本給32万4200円、諸手当を含めて38万8630円で、年2回各90万円台の賞与を受給していました。
再雇用後の賃金は年間総額を定年退職前賃金の6割である377万0600円とされ、これを毎月の給与と賞与(5.1か月分)で割り付け、基本給は月額22万0500円とされました。
嘱託職員の賃金については嘱託細則に「報酬の額は、嘱託の経歴、従事する職務の内容等を勘案して、会長が定める。」との定めがありました。被告法人で原告よりも前に定年後再雇用された職員はいずれも管理職で、再雇用後も引き続き同様の肩書でほぼ同様の職務を委嘱し、その職務内容等を勘案して賃金を定年前の7割と定めていました。
原告については、管理職を経験していない一般職の再雇用としては被告法人で初の事例であり、再雇用後の業務を軽減することを前提に、会長決裁により定年退職前の6割と定め、再雇用後は主任の肩書を外し、定年退職時と同じ経理課に配置しました。
これに対し、原告は、定年退職前と同様にフルタイムで勤務し、業務内容も殆ど変更が無かったことから有期労働契約であることを理由とする不合理な労働条件の相違にあたり、廃止前の労働契約法20条(以下「旧労働法20条」)に違反すると主張しました。
裁判所は、旧労契法20条違反の有無の判断にあたり、以下の事情を取り上げました。
(「・」は不合理性の積極事情、「●」不合理性の消極事情)
・ 原告の職務の内容に関しては、配置部署、勤務時間、休日等の労働条件は定年前後で変化がない。
・ 定年退職時に有していた主任の肩書は、再雇用に当たり外されたものの、主任としての具体的な権限は明らかでなく、責任の範囲についても変化は窺われない。
● 業務の量ないし範囲については、従前はC課長と原告の2名で担当していた経理課の業務を、新たに入職したGを含む3名で担当することとなり、経理業務、決算業務を中心に、原告が担当していた相当範囲の業務がGに引き継がれ、再雇用後は原告が単独で担当する予定であった福利厚生関係業務も、実際にはC課長と分担していた(→「原告の業務が定年前と比べて相当程度軽減されたことは明らか」と評価)。
● 定年前の原告の給与は、年功序列の賃金体系の中で、長年の勤続ゆえに、担当業務の難易度以上に高額の設定になっていたことが推認される
● 1400万円を超える退職金も受給した
● 被告における定年は63歳であり、平成30年4月当時は男女とも特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給可能であった
● 原告の本件更新拒絶による退職後にその担当業務を引き継ぎ、定年退職時点での原告と概ね同様の業務を分担することとなったHの月給額は、再雇用後の原告の基本給と同水準である
裁判所はこれらの事情を指摘し、特段のコメントを追加することなく、「以上を総合勘案すれば、原告の定年後再雇用に当たり、賃金を定年前の6割としたことが不合理であるとは認められず」旧労契法20条に違反しないと結論付けました。
リーディングケースである長澤運輸事件最高裁判決では、年収額が定年前の概ね約76%から80%となる定年後再雇用後の賃金制度について、皆勤手当の不支給部分を除いて違法ではないと判断されています。
また、昨年7月の名古屋自動車学校事件最高裁判決では、定年後再雇用における基本給が退職時の基本給の60%を下回る部分は違法であると判断した名古屋高裁判決が破棄されて差し戻され、さらに審理が続けられることになりました。
ニュースではどうしてもこのような数字が独り歩きして、再雇用時に賃金を定年前の6割に減額しても一般的に大丈夫ではないかとの印象を抱きがちです。
しかしながら、長澤運輸最高裁判決も述べるとおり、定年後再雇用のケースにおいても「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」ことになるため、賃金総額を比較した割合の数字だけから判断するのは禁物です。
また、判決文からは明らかではないのですが、定年前の賃金として原告は基本給と通勤手当のほかにも何らかの手当を受給していたと思われます。
本件では、それらの諸手当も含めた年収総額をベースにその6割という再雇用後の年収額が決定されていました。
「それらの諸手当分も6割でよいのか?」という検討の余地もあったかと思いますが、原告側からはその点にフォーカスした主張がなされておらず、裁判所も判断を示していません。
しかし、長澤運輸事件でも皆勤手当の不支給が不合理、違法と判断されたように、通常はそうした手当の趣旨、目的等も踏まえた検討が必要になります。
本件では、年功序列賃金ゆえに定年時の原告の給与額が担当業務の難易度以上に高額であったこと、原告の担当業務が再雇用後に減ったこと、そして何より高額の退職金を受給していたことが不合理性を否定する方向に働く大きな要素であったと考えられます。
例えば、定年退職時に退職金の支給をしておらず、定年退職前と全く職務内容(業務内容、責任の程度)も変わらないようなケースにおいて、定年後再雇用であるというだけで安易に大幅に賃金を減額するのは危険ですので、ご留意ください。
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この記事の監修者:平野 剛弁護士
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