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懲戒処分手続きにおいて、労働者に対して弁明の機会を与えることは必須なのか?その手続きを欠くとそれだけで懲戒処分は無効になってしまうのか?という質問をよくいただきます。
まず前提として、自社の就業規則の懲戒処分手続きに「弁明の機会を与える」と明記されている場合には、それが社内の懲戒処分ルールということになりますから、それを欠いてしまうと手続違反の懲戒処分ということで、懲戒処分の有効性に大きく影響を与える、すなわち無効となってしまう可能性が高いと思われます。
では就業規則に、特に弁明の機会を与えることが明記されなかった場合はどうでしょうか?今回ご紹介する裁判例は、就業規則に弁明の機会を与えることが明記されていないパターンで、弁明の機会を付与せずになされた懲戒解雇の有効性が争われ、結論としては弁明の機会がなくとも懲戒解雇が有効と判断された事案です(東京高裁令和6年6月19日・労働新聞社令和6年7月8日第3456号掲載記事)。
そもそも懲戒処分を行う場合に、必ず弁明の機会を与えなければならないという法律上の規制はないので、弁明の機会を与えるかどうかは、あくまで会社の判断だと思います。そのため就業規則の懲戒処分手続きに弁明の機会を定めていなかったり、実際に弁明の機会を付与しなかったりしたからといって、それだけで直ちに懲戒処分が無効になるものではないと考えるのが自然です。
もっとも弁明の機会を与えたかどうかも含めて、実際に行った懲戒処分が最終的に懲戒権の濫用に該当しないと判断してもらえるかどうか、すなわち懲戒処分の有効性には一定の影響を与えることにはなろうかと思います。
今回ご紹介する裁判例も、地裁判決において「労働者は弁明の機会が付与されなかったことを指摘するが、上記の通り懲戒解雇事由に該当する事実が認められ、就業規則には弁明機会の付与に関する定めがないことも合わせて考慮すれば、弁明機会が付与されていなかったことが、解雇の有効性を否定しなければならないほどの瑕疵であるとはいえず、これをもって懲戒権の濫用ということにはならないというべき」というような判断がなされています。
解雇の有効性を否定しなければならないほどの「瑕疵」といっている点はやや気になります。少し瑕疵があったかのようにも読めます。
実際に別の裁判例(T事件・東京地裁令和3年9月7日判決)では、「懲戒処分に当たっては、就業規則等に手続的な規定がなくとも格別の支障がない限り当該労働者に弁明の機会を与えるべきであり、重要な手続違反があるなど手続的相当性を欠く懲戒処分は、社会通念上相当なものといえず、懲戒権を濫用したものとして無効になるものと解するのが相当である」として、弁明の機会を付与しなかったこと自体が手続き違反だと判断されています。
裁判所としては、弁明の機会の付与について就業規則に書いていなくても、懲戒処分する前には事情を聞くのが普通だよね、という考えなのかもしれません。ただ懲戒処分をするにあたっては、会社も、弁明の機会という形でなくても、何らかの形で本人から事情を確認していることがほとんどなので、会社としては「弁明の機会という形ではなくとも、本人の主張については当然のことながら聴取しており、弁明を述べる機会はあった」という反論をしていくことになるでしょう。
弁明の機会付与の規定がなくとも、丁寧な事実認定、処分決定を行ったことや、手続きの瑕疵の有無という論点を無くすという観点から、基本的には弁明の機会を付与して本人の言い分を聞いたうえで処分決定をした方がよさそうです。
特に、懲戒解雇事案の場合には、より慎重な判断が求められ、かつ、紛争になる可能性が高いため、規定が無くても弁明の機会を与えた方が無難かと思います。
また個人的には、同じようなトラブルを繰り返す従業員については、懲戒処分を実施するに先立ち、従業員本人がどのような認識なのか、反省をしているのか、改善可能性はありそうか、など今後の対応を検討するうえでの判断材料になるため、積極的に弁明の機会を与え、弁明内容を踏まえて処分決定をした方が良いと思います。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:岸田 鑑彦弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岸田鑑彦(きしだ あきひこ)
【プロフィール】
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録。訴訟、労働審判、労働委員会等あらゆる労働事件の使用者側の代理を務めるとともに、労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
【著書】
「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)
「事例で学ぶパワハラ防止・対応の実務解説とQ&A」(共著)(労働新聞社)
「労働時間・休日・休暇 (実務Q&Aシリーズ) 」(共著)(労務行政)
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