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労務ネットニュース171号「突然退職した従業員に対する損害賠償請求の可否」でも同種の事例をご紹介致しましたが、本号でも、突然退職した従業員に対する損害賠償請求が認められた裁判例(知財高裁平成29年9月13日判決)を扱います。
今回は、結果として480万円の損害賠償請求が認められた事例となります。私の知る限り、突然退職した従業員に対する損害賠償請求としては最高金額になるかと思います。
また、損害の認定において特徴があるため、実務上参考になるかと思い取り上げました。
一審原告(以下、「原告」と言います)は、平成19年7月、一審被告企業(以下、「被告」と言います。パチスロ等のソフトウェア開発を業務内容としていました)に雇用され、パチスロ等に係るソフトウェア開発の業務にプログラマーとして従事していました。
ところが、被告代表者が平成25年12月28日、原告の仕事の内容やそのやり方について注意を与えると、原告は、平成25年12月29日、被告が管理する原告の連絡先情報を削除した上で、業務に関する引継ぎを何ら行うことなく失踪し、その後も被告に連絡を取らないまま、平成26年4月1日には、パチスロ等の開発を業務とするB社に就職し、平成27年11月15日に退職するまで、プログラマーとしてパチスロの開発業務に従事しました。
被告は、突然の原告の失踪による失注や外注費などの損害賠償請求を求めて提訴しました。
裁判所は以下の通り判断して、労働者には適切な引継ぎ義務があり、それを怠った場合は損害賠償義務を負うと判断しました。
ここまで詳細に明確に判断したものは珍しく、今後の実務に参考になると思われます(「よくぞここまで判断してくれた」と個人的には思います)。
「雇用契約において,労働者は,使用者に対し,上記労務提供義務に付随して,当該労務の提供を誠実に行い,使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負うものといえるところ,このような労働者の誠実義務からすれば,被控訴人が職を辞して労務の提供を停止するに当たっては,使用者である控訴人に対し,所定の予告期間を置いてその旨の申入れを行うとともに,自らが担当していた控訴人の業務の遂行に支障が生じることのないよう適切な引継ぎ(それまでの成果物の引渡しや業務継続に必要な情報の提供など)を行うべき義務を負っていたものというべきである。
しかるところ,被控訴人は,平成25年12月29日,控訴人代表者らに対し自己の担当業務に関する何らの引継ぎもしないまま突然失踪し,以後,控訴人の業務を全く行わず,控訴人に何らの連絡もしなかったのであるから,このような被控訴人の行為が,控訴人との雇用契約に基づく上記労務提供義務及び誠実義務(労務の提供を停止するに当たって,所定の手順を踏み,適切な引継ぎを行う義務)に違反し,債務不履行を構成することは明らかであり,被控訴人は,これによって控訴人に生じた損害を賠償する義務を負う。」
① 外注費用1について
被告は原告が突然失踪したことにより、200万円の外注費用を支出したことが損害に当たると請求しました。
しかし、裁判所は、被告は、原告に支払うはずであった賃金を支払っていないので、外注費から原告に支払うはずであった賃金2ヶ月分(160万円)を控除するべきであるので、損害は200万-160万円=40万円となると判断しました。
② 外注費用2について
被告は原告が突然失踪したことにより、300万円の外注費用を支出したことが損害に当たると請求しました。
しかし、裁判所は、被告は、原告に支払うはずであった賃金を支払っていないので、外注費から原告に支払うはずであった賃金2ヶ月分(160万円)を控除するべきであるので、損害は300万-160万円=140万円となると判断しました。
③ 失注額について
被告は、原告が突然失踪したことにより失注した4496万6875円が損害に当たると請求しました。
しかし、会社の実質的な損害は粗利部分であることから、失注額に対する利益率35%(4496万6875円×35%=1573万8406円)が逸失利益となり、かつ原告のみに負担が偏りバックアップ体制が十分ではなかったこと、被告代表者の原告に対する指導が幾分適切ではなかったことから、逸失利益の2割程度に当たる300万円を損害と認めるべきであると判断しました。
④ 損害合計
裁判所は、結論として、原告の債務不履行による損害額は、480万円の限度でこれを認めるのが相当であると判断しました。
外注費用1・2からそれぞれ差し引いた2ヶ月分の賃金相当額ですが、何故2ヶ月分なのかも良く分かりませんし、失注額の逸失利益の2割を損害と認めた点についても、なぜ2割なのかが分かりません。
しかし、突然の退職を理由に、これだけの損害額を認めた事例は私の知る限り他に無く、重要な裁判例になると思います。
もっとも、単に「突然退職したことでみんなが迷惑した」等の抽象的な理由では損害が認められませんので、本事例の様に明確な外注費用の増加や失注などの具体的な事実がないと認められないことに変わりはありません。
無責任な退職の事例は世の中に多く、この種の相談を受けるたびに、私は、なかなか損害賠償請求までは難しいとアドバイスをしてきましたが、事案によっては今後損害賠償請求が可能になるかもしれません。
また、退職代行業者に対しても、この裁判例を指摘して、引き継ぎを行うよう求めることも可能になると思います。
それにしても、人を雇用するということはリスクも背負うということであると痛感する事例でした。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:向井蘭弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
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