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解雇や残業代、ハラスメント問題など個別労働紛争に関して労働者から労働審判を提起されるケースも近年増えてきています。
労働審判は裁判所を介して行う手続きという点では通常訴訟と共通しますが、通常訴訟よりも迅速に審理が進むことになります。
そのため、申立てを受けた使用者は、迅速かつ的確に答弁書を準備を行う必要があります。
本コラムでは、労働者側から残業代請求の労働審判申し立てを受けた場合に、使用者としてどのような対応が必要となるか弁護士が解説します。
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目次
労働審判手続は、個別労働関係民事紛争に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会(労働審判委員会)が、当事者の申立てにより、事件を審理し、和解の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判という審判委員会の判断を行う手続であり、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的としています(労働審判法1条)。
労働者側からはこの手続きを利用して、残業代請求等の申立てがなされることがあります。
労働審判手続は、紛争の迅速な解決のため、原則として期日は3回までとされ(同15条2項)、やむを得ない事由がある場合を除き、第2回期日までに全ての主張、証拠を提出しなければならないとされています(労働審判規則27条)。
実際の運用としては第1回までに実質的な審理を終えられることが多く、第1回期日中心主義がとられています。
限られた期日を和解成立に向けた協議に充てるという観点からも、使用者としては第1回期日前に提出する答弁書において使用者側の主張を残業代計算表とともに出し尽くしておくことが望まれます。
労働審判の大きな特徴は以下のものがあげられます。
労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が行います。
労働審判員は,労働者側、使用者側の専門家として、雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識と豊富な経験を持つ者の中から任命されます。
実際の労働審判では、法律の専門である審判官(裁判官)が手続き全体を主導しています。
原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため,迅速な解決が期待できます。
平成18年から令和元年までに終了した事件について,平均審理期間は77.2日であり,70.5%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。
労働審判委員会は,まず調停という話合いによる解決を試み,話合いがまとまらない場合には,審理の結果認められた当事者間の権利関係と手続の経過を踏まえ,事案の実情に即した判断(労働審判)を行い,柔軟な解決を図ります。
労働審判に不服のある当事者は,異議申立てをすることができます。適法な異議申立てがなされた場合は,労働審判は効力を失い,訴訟手続に移行します。
使用者は労働審判手続における答弁書には、①申立ての趣旨に対する答弁、②申立書に記載された事実に対する認否、③答弁を理由づける具体的な事実、④予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実、⑤予想される争点事の証拠、⑥当事者間においてなされた交渉について記載しなければならないとされています(労審則16条1項)。
答弁書は労働審判官によって定められた期限までに提出しなければならないものとされていますが(労審則14条)、申立書の送達を受けてから答弁書提出までは1か月程度の準備期間しかなく、使用者側は答弁書準備にあたっては非常にタイトなスケジュールで対応しなければならないこととなります。
また、残業代請求が申立事項となっている労働審判において、使用者側は答弁書提出段階で残業代計算結果の具体的金額を主張するべきです。
争点となっている残業代の具体的計算額について使用者として計算結果を主張しない場合には、申立人側主張の請求金額を基調とする心証が形成され、和解での解決金額も上振れする危険性が高まるといってよいでしょう。
この点、労働時間の計算のもととなる資料の性質によっては、請求期間各日の労働日の始業終業時刻を読み解く作業に膨大な時間を要する場合があります(例として、アナログタコグラフや防犯カメラ映像の分析を要する場合等)。
このような資料に基づき始業終業時刻を主張する場合には、請求期間のうち数か月分をサンプル的に抽出し、その平均値をもって請求期間全体の始業終業時刻を主張するといった概括的な算定で主張を行うという方法も考えられます。
労働審判期日当日は、労働審判官(裁判官)が中心となり、出席した当事者に対して直接質問がなされます。
そして、審判体は、当事者がその場で回答した内容も踏まえて争点に対する心証を形成していきます。
当事者の主張については、通常事前に申立書や答弁書といった書面や証拠が提出されているわけですが、書面上で双方に対立や食い違いが生じている点(争点)について、審判体が直接当事者に質問して回答を得ることにより争点を判断する材料とするのです。
そのため、労働審判期日の当日に、審判体からどのような質問がくるかという点について、あらかじめ予測した上で回答の内容を準備しておくことが望ましいといえます。
令和2年度の司法統計によると、全国の裁判所の労働審判既済事件数のうち賃金手当等請求事件(解雇予告手当含む)は1428件であり、そのうち980件が和解成立により終了しています。
和解成立による終了以外では労働審判による終了が223件、24条終了(労働審判法24条「労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。」による終了)が65件となっています。
このように残業代請求労働審判事件の多くが和解成立により終了しています。
実際に代理人として残業代請求労働審判事件に関わっている立場からしても、ほとんどが和解成立により終了しています。
労働審判手続において和解で解決するメリットとしては、労働審判手続が和解による解決を目指す制度であるため、労働審判委員会による申立人側に対する説得等により、双方の譲歩による合理的な水準での解決が期待できる点があります。
これに対して、労働審判手続内で和解が成立せず、あるいは審判への異議が当事者から提出された場合には、通常訴訟に移行することになります。
この場合には、労働審判を経ており、時間もかかっていることから、申立人(原告)側も判決を視野に入れるため譲歩の余地が少なく、解決水準が上がる可能性が高いといえます。
判決になった場合には、判決が公開されるリスクもあります。
早期解決は使用者側にもメリットがありますし、労働審判委員会の心証がよほど偏っていない限り、基本的には和解での解決を目指すのが良いでしょう。
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前述の通り、労働審判手続の実務では、第1回期日までに全ての主張立証を提出することが求められ、期日で当事者双方同席の場での事情聴取が終わると、労働審判手続での主張立証はほぼ尽くされたことになります。
事情聴取が終わった後は、労働審判委員会の評議が行われ、その後当事者が個別に呼ばれ、和解の意向を確認されることになります。
労働審判委員会の進め方にもよりますが、具体的な解決金額を聞いてきたり、第1回期日での和解成立を前提と考えている場合もありますので、第1回期日を迎える前に、解決の水準・金額を確認したり、解決金の水準を検討するための試算をいくつか用意しておくのが良いでしょう。
残業代計算の試算にあたっては、全て使用者側の主張を前提とした試算、その中間の試算を行うと良いでしょう。
中間の試算というのは、例えば、労働時間については申立人側の主張を前提としつつ、固定残業代の有効性については使用者側の主張を前提とするような、双方の主張の間をとったパターンです。
中間の試算については、可能であれば何パターンか用意しておくと良いと思います。
労働審判委員会としても試算を行っている場合もありますが、必ずしも正確な計算を行っているとは限らず、大まかな計算を行っているにすぎない場合もあり得ます。
労働審判委員会は、争点についての心証を持って和解に臨みますが、それだけでなく解決金額の妥当性も考慮しているといえます。
心証の通りに試算してみると想定していたよりも高額であったり、逆に想定していたよりも低額であったりすることがありますので、労働審判委員会に試算を示すと妥当な金額をもとに当事者双方の調整がしやすくなります。
労働審判期日の出席者について、法律事務所に依頼した場合、労働審判の期日に弁護士が代理人として出席することになります。
また、労働審判手続の特徴は、使用者側の担当者も合わせて出席する必要がある点です。この点が通常訴訟と相違する点です。
裁判所は、事前に提出されている申立書や答弁書の内容や証拠からだけでなく、期日の場で出席者に対して直接質問をすることで、争点に関する心証を形成します。
使用者側の担当者は、人事担当者等が出席されることが多いと思いますが、和解の段階では特に中小企業では代表者に出席してもらうことも考えられます。
会社の経営状況や申立人の勤務状況、会社が行ってきた配慮等について代表者から語ってもらうことにより、会社の状況を労働審判委員会に理解してもらうことができ、これ応じた申立人に対する働きかけが期待できる場合があります。
代表者や決裁権限のある人が期日に出席していればよいですが、そうでない場合には、予め金額の枠をもらっておいたり、その場で決裁権限のある人に連絡がつくようにしておく必要があります。
和解はタイミングが重要であり、今日この場であればこの金額でまとまるという場合があります。
そのような合意の機運が高まっている時に、決裁を得るために次回期日に持ち越しとなると、同じ金額ではまとまらない可能性もあります。
そのようなことがないよう、その場で金額を決めることができるような体制をとっておく必要があります。
労働審判手続内で和解することとなった場合、和解の内容については労働審判委員会の方でいくつかパターンを用意しており、それに基づいて和解条項を作成することになります。
和解条項のポイントとなるのは次の通りです。
金額の支払名目は解決金とされることが一般的です。
このような名目とすることで、残業代として金銭を支払ったという明示を避けることができます。
使用者側とすれば、残業代未払いの問題が他の従業員に波及することを一定程度防ぐ効果が期待できますので、非開示条項を入れるべきです。
非開示の対象は、和解の内容だけでなく、和解に至るまでの紛争の経緯(申立がなされたこと、それについて労働審判手続が行われたこと、当事者双方が主張した内容、労働審判委員会の心証等)についても非開示とした方が波及を防ぐためには良いでしょう。
当事者間に和解した内容以外の債権債務がないことを確認する条項を入れるべきです。
この点、清算条項には、申立てのあった債権債務関係に限定して精算をするパターンと、申立てのあった内容にかかわらず労働者と使用者間の一切の債権債務を精算するパターンがありえます。
追加の残業代請求、ハラスメントに基づく損害賠償請求等が絶対ないとも限りませんので、可能であれば完全清算条項とするのが良いと思います。
そのために事前に使用者に立替金や借金等がないか確認し、メリット、デメリットを説明したうえで、完全清算について了解をもらっておく必要があります。
以上3つが和解条項を決める際に特に注意しておくべきポイントです。
その他にも、紛争になった当事者同士が和解後に双方を誹謗中傷するような言動を行わないよう念のため、名誉や信用を害する言動等、互いに相手方の不利益となる言動をしないことを相互に約束する等といった条項を設けることもあります。
いったん和解が成立すると、当事者同士はその内容に拘束されることになるため、一方的にその内容を取り消したり修正したりすることはできません。そのため、和解条項にどのような内容が盛り込まれているのか、記載に漏れがないか等、入念に確認をしておくことが重要です。
上記の通り残業代請求等の労働審判の申立てを受けた使用者側は、迅速かつ的確に答弁書を準備し、残業代計算を行う必要があります。
また、期日における裁判官とのやり取りを想定した準備も必要不可欠です。
これらの対応を適切に行うためには専門家のサポートが必要であり、法律事務所へ依頼することをおすすめします。
当事務所ではこれまでの多数の労働審判に対応し解決してきた経験やノウハウがあります。
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【回答】 労働審判で扱われる事件は、個別労働関係民事紛争です。
例えば、労働者からの未払残業代請求や解雇無効(地位確認)請求、ハラスメントによる損害賠償請求等です。
【回答】 労働審判手続内で話がつかなかった場合、労働審判委員会から労働審判という決定がなされます。
【回答】 労働審判に対して不服がある場合には、労働審判が到達してから2週間以内に限り異議をだすことができます。
申立人・相手方どちらかから異議がだされると、当該事件は通常訴訟に移行することになります。
他方、労働審判が到達してから2週間を経過してもどちらからも異議がなければ、審判が確定します。
確定した労働審判は債務名義(強制執行ができるようになる証明)となります。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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弊事務所は、労働問題一筋、使用者側の労働問題に特化し、日頃の人事労務管理の諸問題から労働組合対応のアドバイス、労働事件争訴遂行−個別労働・団体労働・労働災害等−と、広く労働法分野のお手伝いをしてまいりました。士業の先生からのご紹介案件も多数引き受けており、今後も様々な士業の先生方とご一緒にお仕事をさせていただきたいと考えております。弊事務所では、より一層士業の先生方のニーズに応えられるよう、以下のようなリーガルサービスを提供しております。
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この記事の監修者:樋口陽亮弁護士
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