日本全国に対応しております!
受付時間:平日9:00~17:00
日本全国に対応しております!
目次
未払い残業代請求は水面下で増加しています。
厚生労働省や裁判所の統計に表れないのは、弁護士同士で訴訟前に和解して終わっているからです。
こういった状況の中で、最も相談件数の多い業種が運送業です。
これは長時間労働、時間で賃金を支払わないという業界そのものの構造が原因と考えられます。
さらに、賃金債権の消滅時効期間は現状の3年間から、いずれ5年間に延長されることが確定されています。
そのため、今後は増々未払い残業代請求の事例が増えると予想されます。
令和2年3月30日に国際自動車の賃金制度を否定する判決が出されました。
この判決の結果、歩合給から残業代を控除する仕組みは今後、否定されていくと考えられます。
タクシー会社の事件ではあるものの、業界構造が非常に似ている運送業においてもこの影響は大きいです。
今後、従来型の仕組みでは未払い残業代請求に対して太刀打ちできなくなります。
本記事ではこのような運送業における未払い残業代問題への切り札と言える完全歩合給制度についてご紹介いたします。
完全歩合給制度であれば割増賃金はかなり抑えることが出来ます。
それは歩合給(出来高給)の割増賃金算出の際の計算方式が固定給制の場合と異なるからです。
固定給制の場合の割増賃金の計算式
割増賃金=固定給÷月所定労働時間×時間外労働数×1.25
完全歩合給制の場合の割増賃金の計算式
割増賃金=歩合給÷その月の労働時間(時間外労働含む)×0.25 ×時間外労働数
となります。
・時給計算において所定労働時間のみならず残業時間を加えた数で割る
・割増賃金は×1.25ではなく×0.25を支払う
という点により割増賃金を抑えられます。
このような制度設計になったのは、歩合給において成果を上げるために、所定労働時間だけではなく残業時間も含めて仕事をする必要があるためと考えられます。
(具体的な計算例)
・固定給制の場合
固定給30万円、月所定労働時間150時間、毎月時間外(深夜・休日無し)80時間労働であれば、
割増賃金=30万円÷150×80×1.25=20万円
・完全歩合給制の場合
歩合計算の結果月給が30万円であれば、労働基準法施行規則第19条1項6号によると
割増賃金=30万円÷(150+80)時間×80×0.25=2万6086円
また、定年後再雇用問題にもこの制度の導入で対応が可能です。
定年前と定年後で同じ業務内容・責任、配置のため固定給制の場合、賃金の変更は難しいです。
完全歩合給制度の場合、マイペースに仕事をしてもらう事も出来ますし、再雇用される側としても雇用が安定する等のメリットがあります。
【定額残業代制度との比較】
過去の判例から、80時間などの長時間労働を前提とする定額残業代制度は裁判において無効と判断される恐れが高いです。
一方で短めの定額残業代制度の場合も、実際の長時間労働の残業代との差額を生産しなければ制度の実態がないとして無効とされる可能性が高いです。
また、実際の残業代と定額残業代との差額を制度の通り生産していくと、効率の悪い運転手が効率の良い運転手よりも高い賃金を得ることが出来てしまいます。
以上の理由から法的にも経済的にも完全歩合給制度を採用する方が良いと考えられます。
完全歩合給制度が違法という話は全く根拠のないものです。
使用者が根拠不明のまま勝手に自粛をしていたと考えられます。
この制度を適法とするためには「歩合給制として日給(8時間当たり)1万2500円保障」などを定めれば良いだけです。
1時間当たりの賃金(時給)が明確に分かることが重要です。
また、固定給だけで最低賃金をクリアしなければならないという事も完全な誤解と言えます。
トラック運送業の事例です。以下を、単独または複数組み合わせます。
指標からの減算を伴う方式
典型的なのは(売上-経費) ×◯%方式、もしくは売上×◯%方式です。
%の数字についてはともかく、この方式自体に異議を唱える運転手はほとんどいません。
距離で歩合給を支払う方式でも良いですが、運送業では圧倒的に売り上げを基準としている事例が多いです。
また、無事故手当に関しては残した場合、固定給として扱われ割増賃金の算定基礎単価が上がってしまうと考えられます。
そのため、完全歩合給制の場合は歩合率に無事故加算を加算する事で対応する事があります。
例)歩合給=売上高×(基本歩合率25%+無事故加算2%)
経営者様の目線から考えると、先に人件費の方を設定し、それに合うように歩合率を調整したいと考える方がいるかもしれません。
ですが、この場合労基法の想定する出来高給には当てはまらず、未払い残業代問題の解決にはつながりません。
また、同様の理由から「歩合率を賃金規定に書きたくない」という事もあるかもしれません。
しかし、賃金規定・雇用契約書に歩合率を記載しなければ制度全体が無効になる可能性が高いです。
よって未払い残業代問題の解決にはつながらないと言えます。
②なぜ完全歩合給制度を提案するのかで述べた通り、完全歩合給制度を適法とするには保障給を定めなければなりません。
これを定めない場合、歩合給制度自体が無効となります。
保障給の無難な設定額は平均賃金の6割です。
これは労働基準法における最低額の設定です。最低賃金をクリアしている運送業の場合、平均賃金の6割を下回る事はほぼないと考えられます。
また、求人票や求人広告での保障給の記載には注意が必要です。
例えば「完全歩合35万~50万円、最低保障30万円」という記載をした場合、週40時間労働に対して固定給30万と解釈され訴訟等で問題になる場合があります。
法的なリスクを回避するには「最低保障時給1,200円」という表記が一番無難と言えます。(求人広告としての魅力には欠けるかもしれませんが……。)
固定給型(もしくは一部歩合給型)から完全歩合給制度に移行する場合、賃金が減る可能性があれば不利益変更にあたるという判例があります。
しかし、全体の賃金原資を減らさない制度にするのであれば、不同意者がいても労使行儀をきちんと行い、激変緩和措置を3年ほどとれば、不利益変更は合理的な労働条件として不同意者にも有効になる可能性が高いです。(過去の判例より)
激変緩和措置では旧賃金制度の賃金を一定期間保証する事になるでしょう。
この保証期間があれば従業員のほとんどが制度変更に同意することが予想されます。
しかし、実際に試算すると会社にとってかなりの重荷になると考えられます。
そのため、次に記載するような3ヶ月生産方式で経過措置を取ることをお勧めいたします。
〈各月で旧制度の賃金を保証した場合〉
緩和措置において単純に旧制度の賃金を保証した場合上記の通り、会社の負担が大きくなってしまいます。
〈3ヶ月精算方式を導入した場合〉
そこで3ヶ月単位で歩合給制に基づいて合計金額を計算し、旧制度3ヶ月分に満たない分を臨時賃金として支給する生産方式を取ります。(歩合給制合計が旧制度3ヶ月分給料を超えていた場合、臨時賃金は0円。)
この方式をとる事で、会社の負担も少なく、従業員側も旧制度の賃金を確保することが出来ます。
有給休暇の給与計算に関しては次の3つの方法の中から1つを採用します。
(1)通常の賃金
労働者が「通常の就業時間だけ労働した」と仮定した場合の1日当たりの賃金。
(2)平均賃金
過去3カ月間に支払った賃金を合計し、それを日数で割って算出した賃金。
(3)健康保険の標準報酬月額
健康保険が定めた基準により算出される賃金。
いずれの計算方法を選ぶ場合でも、あらかじめ就業規則に定めておかなければなりません。
完全歩合給制度の場合は(2)、(3)が選択肢になります。
その場合完全歩合給制度のもと出勤した場合よりも賃金が減りますが、仕方がなく違法ではありません。
完全歩合給制度に関してご相談いただけた場合には、個々のケースに応じてアドバイスをご提供することが可能です。
これにより、トラブルのリスクを最小限にとどめることが出来ます。
お悩みの際には、無用なトラブルが拡大する前に是非ご相談ください。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
まずはお気軽にお電話やメールでご相談ください。
この記事の監修者:向井蘭弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
残業代請求・未払い賃金の関連記事
キーワードから記事を探す
当事務所は会社側の労務問題について、執筆活動、Podcast、YouTubeやニュースレターなど積極的に情報発信しております。
執筆のご依頼や執筆一覧は執筆についてをご覧ください。