管理職には残業代が出ない?問題点や対策方法について弁護士が解説

名ばかり管理職の残業代

名ばかり管理職の残業代事例

レストランチェーンを営んでいるA株式会社は現在ある問題に頭を悩ませています。

B支店を任されていた佐藤元支店長が、退職後、労基署にかけこみ会社に残業代を請求したためです。

A社は、従来から支店長=管理職として残業代を支払ってきませんでした。同業他社でもそのように扱っているため、A社A社でもそのような取り扱いを永年してきました。

1. 佐藤元支店長は、自身もタイムカードを押してA社に勤怠の報告をあげていました。

2. 佐藤元支店長は、アルバイト、パートの採用権限はあるものの、正社員の採用権限はなく、正社員はすべてA社本社が採用してきました。

3. 佐藤元支店長は、A社の経営会議に参加したり、経営計画の策定に携わることはありませんでした。

4. A社は、佐藤元支店長に役職手当として月5000円を支払ってきました。

このような場合、A社は、佐藤元支店長に対し残業代を支払わなければならないのでしょうか?

労働基準法41条2号は、「監督もしくは管理の地位にある者」に対しては、労働時間、休憩、休日に関する労基法の規定は適用がないとしています。

つまり「監督もしくは管理の地位にある者」には深夜残業代を除く時間外手当、休日手当を支払う必要はないのです。

ではこの「監督もしくは管理の地位にある者」とはどのような地位にある者を指すのでしょうか?

行政通達(昭和63年3月14日基発150号)は、「労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って、管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる」としています。

さらに「職務内容、責任と権限、勤務態様に着目」するほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないとして「定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナスなどの一時金の支給率、その算定基礎賃金などについても役職者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等についても留意する必要がある」としています。

要するに、肩書きが管理職だからといって残業代を支払わなくてすむというわけではなく、実態をみて個別具体的に「監督もしくは管理の地位にある者」を判断することになります。

まず、上記「1」の佐藤元支店長がタイムカードにより勤怠の管理をされていた点についてですが、株式会社ほるぷ事件判決(東京地裁平成9年8月1日判決)、インターパシフィック事件判決(大阪地裁平成8年9月6日判決)は、タイムカードで勤怠管理を受けていたことを重視して、管理監督者性を否定していますので、A社にとっては不利な点です。

次に上記「2」の佐藤元支店長がパート・アルバイトの採用権限があるが、正社員の採用権限がない点についてですが、三栄珈琲事件判決(大阪地裁平成3年2月26日判決)は、喫茶店店長について、パート・アルバイトの採用権限があっても、管理監督者性を否定していますので、パート・アルバイトの採用権限があっても、A社に有利な事実とはなりません。

むしろ、正社員の採用権限がないことは、管理監督者性を否定することにつながりかねない事実であり、A社にとって不利な事実です。

次に上記「3」の佐藤元支店長がA社の経営会議に参加したり、経営計画の策定に携わることがなかった点についてですが、株式会社ほるぷ事件(東京地裁平成9年8月1日判決)は、支店営業方針を決定する権限や、具体的な支店の販売計画などに関して独自に課長に対して指揮命令を行う権限をもっていたと認められないことから、原告が経営方針の決定に参画する立場になかったと認定していますので、上記「3」の事実もA社にとっては不利な点です。

上記「4」のA社が佐藤元支店長に役職手当として月5000円を支払っていた点についてですが、株式会社ほるぷ事件ほるぷ事件は、原告が過去に営業所長であったとの点について、営業所長になったときの資格給が5000円しか増加していなかったことから、原告が管理監督者であったかは疑問であると述べています。したがって、上記「4」の事実もA社にとっては不利な事実です。

したがって、前号から検討してきましたが、設問の事例では、佐藤元支店長の請求が認められる可能性が高くなります。支店長の肩書きを与えていれば、残業代を支払う必要はないと考えはリスクが高いと言えます。

 

対策

①(これができたら苦労しないと言われそうですが)店長の労働時間を減らし、店長の不満が臨界点に達しないようにしてください。当たり前のことですが、週1日は完全な休日が取れるようにしてください。

②設例の事例では、役職手当が月5000円ですが、これでは少なすぎて、後に労基署などで争われたときに地位にふさわしい待遇がなされているとはみなされない可能性が高くなります。特に具体的な目安はありませんが、役職手当は、できれば20〜40時間分の時給に相当する金額は支給していただきたいものです。

③店長にも経営会議に参加させ、一定程度の人事権も与えるべきです。正社員の採用の面接などにも同席させるのは有効であると思われます。

④タイムカードなどの勤怠管理はやめ、できれば出退社についても幅を持たせるべきです。その代わり店舗運営がきちんとできていないのであれば、賞与にその点を反映させるなどするべきです。

 

当事務所の問題社員に関する解決事例

・セクハラ等を行った従業員に配転命令を行ったところ組合へ加入し、パワーハラスメントであると主張して団体交渉を要求してきたが、パワーハラスメントではないことを立証し解決に導いた事例

・営業回りの従業員から残業代請求の訴訟が提起されたが、請求額の約1割の額で和解による解決を図ることができた事例

>>その他問題社員に関する解決事例はこちら
 

残業代請求対応には専門的な知識が必要です。

使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
まずはお気軽にお電話やメールでご相談ください。

未払い残業代問題の
取り扱い分野へ

 

この記事の監修者:向井蘭弁護士


護士 向井蘭(むかい らん)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)

【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数

残業代請求・未払い賃金の関連記事

他のカテゴリの関連記事はこちら

使用者側の労務問題の取り扱い分野

当事務所は会社側の労務問題について、執筆活動、Podcast、YouTubeやニュースレターなど積極的に情報発信しております。
執筆のご依頼や執筆一覧は執筆についてをご覧ください。

「労務トラブル初動対応と
解決のテクニック」

管理職のためのハラスメント
予防&対応ブック

最新版 労働法のしくみと
仕事がわかる本

「社長は労働法をこう使え!」

向井蘭の
「社長は労働法をこう使え!」
Podcast配信中

岸田弁護士の間違えないで!
「労務トラブル最初の一手」
Podcast配信中