弁護士が教えるセクシュアルハラスメント(セクハラ)対応と防止方法

弁護士が教えるセクシュアルハラスメント(セクハラ)対応と防止方法

職場におけるセクシュアルハラスメント(通称「セクハラ」)は、労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけるとともに、労働者の就業環境を悪化させ、能力の発揮を阻害するものです。

また、使用者にとっても職場秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える大きな問題です。

そのため、使用者においてはセクハラが生じないよう事前に対策を講じることや、セクハラが生じた場合は迅速かつ適切に対応することが、男女雇用機会均等法によって義務付けられています。

本稿では、使用者に求められるセクハラ対策やセクハラの申告があった際の対応方法いついて解説いたします。

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1. セクハラの定義及び分類

(1)セクハラの定義

セクハラとは、「職場」において行われる労働者の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件につき不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されることをいいます。

ここでいう「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を行う場所を指します。

問題となった労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、その労働者が業務を行う場所についても「職場」に含まれます。

そのため、顧客等との打ち合わせで使用した会議室や飲食店、顧客等の事業所や自宅なども、「職場」にあたります。

「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指します。「性的な内容の発言」は、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等をいい、「性的な行動」は、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつな図画を配布すること等をいいます。

使用者(事業主)、上司、同僚だけではなく、取引先、顧客、患者や学校における生徒等もセクハラの行為者となり得ます。

「性的な内容の発言」や「性的な行動」に該当する例として、以下が挙げられます。

【性的な内容の発言に該当する可能性が高い事例】

① 他人の性に関する事情を広めたり、吹聴すること

  • ▶︎ 女性従業員に対して「女性だから色目を使っているんだ」などという
  • ▶︎ 同僚が不倫していると言いふらす
  • ▶︎ 後輩に対して「恋人がいたことが無い」などと揶揄する
  • ▶︎ 部下の性生活について話のネタにする
  • ▶︎ 女性従業員が生理中であることを暴露する

② 性に関する話を積極的に行うこと

  • ▶︎ 他の従業員に聞こえる場所で風俗店の話をする
  • ▶︎ 「同性愛者だろう」と揶揄する
  • ▶︎ 新婚の女性従業員に対して「夜の生活はどう」と尋ねる
  • ▶︎ これまでの恋人の人数や性交渉をした人数を尋ねる
  • ▶︎ 結婚の時期を執拗に尋ねる(「まだ結婚しないの?」)

③ 性交渉、飲み会、宿泊に誘うこと

  • ▶︎ 男性従業員が女性従業員に対して、「やらせてくれ」などと迫る
  • ▶︎ 1人暮らしの部下に対して、泊まらせてくれと迫る
  • ▶︎ ラブホテルを指さして「ここが好きなんだよね」「一緒に行こう」などと言う
  • ▶︎ 飲み会の場で執拗に個人的な連絡先を尋ねる
  • ▶︎ 二人だけで飲みに行こうと誘う
  • ▶︎ LINEメッセージのやりとりで、一方的な報告をし続ける

④ 容姿への言及

  • ▶︎ 男性従業員が女性従業員に対して、「髪を切ったんだ、彼氏に振られたりでもしたの?」と言う
  • ▶︎ 女性従業員に対してスリーサイズや下着のサイズを尋ねる
  • ▶︎ 容姿を卑下するような発言をする

【性的な内容の発言に該当する可能性が高い事例】

① 正当な理由のない身体接触・接近

  • ▶︎ 同意なく後ろから肩を揉む
  • ▶︎ 髪を触り、「いい匂いだ」「綺麗だね」などと言う
  • ▶︎ 男性の上司が、女性従業員がパソコンのマウスの上から突然手を重ねる
  • ▶︎ カラオケで肩を組んで歌う
  • ▶︎ 女性社員の背中をなぞるようにペンで触る
  • ▶︎ 特定の部下に対してケーキなどをプレゼントし続ける

② 性的なものを見せる

  • ▶︎ 他の従業員に見えるところで、スマートフォンでアダルトサイトを閲覧する
  • ▶︎ 男性従業員が裸で写っている集合写真を社内で配布する
  • ▶︎ 水着姿のグラビアアイドルの写真が職場内に貼ってある

③ 性的関係の強要

  • ▶︎ 上司が部下に対して、「ホテルに行くしか選択肢がない」と迫る

【性的な発言・行動に類似し、セクハラに当たる可能性が高いもの】

  • ▶︎ 男性の上司が女性の部下に対して「女はお茶くみをしていればいい」、「女性はいつ仕事を辞めるか分からないから任せられない」等という
  • ▶︎ 飲み会に若い女性スタッフの出席を義務付ける

セクハラは、女性・男性を問わず加害者にも被害者にもなり得ます。

注意すべき点として、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも該当します。

また、相手の性的指向(人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするか)または性自認(性別に対する自己認識)にかかわらず、該当する可能性があります。

例えば、「ホモ」「オカマ」「レズ」などを含む言動は、セクハラに繋がる言動にもなり得ます。

(2)セクハラの種類

種類
セクハラは「対価型セクシュアルハラスメント」と「環境型セクシュアルハラスメント」に分けられます。
対価型セクシュアルハラスメント
「対価型セクシュアルハラスメント」とは、職場において、労働者の意思に反する性的な言動が行われ、それに対して拒否・抵抗などをしたことで、労働者が解雇・降格・減給などの不利益を受けることをいいます。
例としては、オフィスにおいて社長が労働者に対して性的な関係を要求したが、労働者に拒否されたためにその労働者を解雇するような場合や、上司が労働者の胸や腰に触れたが、労働者が抵抗したためにその労働者について不利益な配置転換を行うというような場合が挙げられます。
環境型セクシュアルハラスメント
「環境型セクシュアルハラスメント」とは、職場において、労働者の意思に反する性的な言動によって労働者の就業環境が不快なものとなり、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業上見過ごすことができない程度の支障が生じるような場合を指します。
例としては、オフィスにおいて上司が労働者の胸や腰に触れた為、その労働者が苦痛に感じて疎の就業意欲が低下した場合や、同僚が労働者に関する性的な情報を意図的に流布し、労働者が苦痛を感じて仕事が手につかないような場合が挙げられます。

2. 使用者が負うセクハラ防止措置義務

(1)男女雇用機会均等法第11条による防止措置義務の定め

男女雇用機会均等法第11条は、職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置について定めています。

第11条
第1項 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
第2項 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
第3項 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第1項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。
第4項 厚生労働大臣は、前3項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針 次項において「指針」という。)を定めるものとする。

ここでいう「必要な措置」の具体的な内容については、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第615号)【令和2年6月1日適用】」(以下「セクハラ指針」といいます)に定められています。

(2)セクハラ指針の定める「雇用管理上講ずべき措置」の内容

セクハラ指針の定める「雇用管理上講ずべき措置」の概要は次のとおりです。

① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③ セクハラ発生時の迅速かつ適切な対応

④ 上記①~③の措置と併せて講ずべき措置

① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発について

セクハラ指針は事業主に対して、セクハラとはどういうものなのか(=セクハラの内容)、セクハラを行ってはいけない旨の方針を明確に示し、管理監督者(労働基準法第41条第2号)を含む労働者に周知・啓発しなければいけないとしています。

周知・啓発が認められる具体例としては、以下が挙げられます。

  • ◆ 就業規則等の規程において、セクハラをしてはいけない旨の方針を定め、この定めと併せてセクハラの内容について労働者に周知・啓発すること
  • ◆ 社内報、パンフレット、社内ホームページ等の広報又は啓発のための資料などに、セクハラの内容やセクハラをしてはいけない旨の方針を記載して配布すること
  • ◆ セクハラの内容やセクハラをしてはいけない旨の方針を労働者に対して周知・啓発するための研修や講習等を実施すること

また、同指針は、職場で性的な言動を行った者に対しては、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則その他職場の服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発しなければいけないとも定めています。対処方針を定め、周知・啓発していると認められる具体例としては、以下が挙げられます。

  • ◆ 就業規則などの規程類に、セクハラの行為者に対する懲戒規定を設け、その内容が労働者に周知・啓発していること
  • ◆ 性的な言動をした者に対して、現行の就業規則等に照らすと懲戒処分の対象になることを明確化し、これを労働者に周知・啓発すること

相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

セクハラ指針では、使用者は、労働者からの相談に対して、その内容や状況に応じて適切かつ柔軟に対応するために必要な対応の整備として、相談対応の窓口を予め定め、労働者に周知する必要があるとされています。相談窓口を予め定めていると認められる例としては、以下が挙げられます。

  • ◆ 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること
  • ◆ 相談に対応するための制度を設けること
  • ◆ 外部の期間に相談への対応を委託すること

また、同指針は、上記の相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにする必要があるとしています。加えて、同指針は、相談窓口においては、相談者の心身の状況や認識に配慮し、セクハラに該当するか否かを問わず広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることを定めています。相談窓口の担当者が適切に対応できるようにしていると認められる例としては、以下が挙げられます。

  • ◆ 相談を受けた場合、相談窓口の担当者と人事部門が連携を図ることができる仕組みを整えること
  • ◆ 相談対応は、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること
  • ◆ 相談窓口の担当者に対し、相談時の対応について研修を行うこと

③ セクハラ発生時の迅速かつ適切な対応

セクハラ指針は、使用者はセクハラの相談を受けた場合、事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があると定めています。同指針では、セクハラを行った者が、他の使用者に雇用されている労働者であったり、他の企業の社長である場合には、必要に応じて他の事業主に事実関係の確認の協力を求めることも、「迅速かつ適切な対応」に含まれるとされています。事実関係を迅速かつ適切に確認していると認められる例としては、以下が挙げられます。

  • ◆ 相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者と行為者の双方に対して事実関係の確認を行うこと
  • ◆ 相談者と行為者の主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者に事実関係を確認する等の措置を講ずること
  • ◆ 事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合は、その他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること

また、同指針は、セクハラの事実を確認した場合は速やかに被害者に対する配慮のための措置及び行為者に対する措置を適正に行い、再発防止の措置を取る必要があるとしています。措置を適正に行っていると認められる例としては、以下が挙げられます。

(被害者に対する措置)

  • ◆ 被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること
  • ◆ 中立な第三者期間の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずること

(行為者に対する措置)

  • ◆ 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるセクシュアルハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること
  • ◆ 中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること。

(再発防止措置)

  • ◆ 職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること
  • ◆ 労働者に対して職場におけるセクシュアルハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること

④ 上記①~③の措置と併せて講ずべき措置

セクハラ指針は、上記①~③の措置を講じる場合には、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じる必要があり、その旨を労働者に周知する必要があるとしています。プライバシー保護のために必要な措置を講じていると認められる例としては、以下が挙げられます。

  • ◆ 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応するものとすること
  • ◆ 相談者・行為者等のプライバシーの保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行うこと
  • ◆ 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に掲載し、配布等すること

また、同指針は、労働者がセクハラに関する相談をしたことや、使用者の講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助を求めたことや調停の申請を行ったことなどを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしないよう使用者が定めることを求め、その旨を周知・啓発する必要があるとしています。不利益な取扱いをしない旨を定め、労働者にその周知・啓発することについて措置を講じていると認められる例としては、以下が挙げられます。

  • ◆ 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、セクハラの相談等を理由として、当該労働者が解雇等の不利益な取扱いを受けない旨を規定し、労働者に周知・啓発をすること
  • ◆ 社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に、セクハラの相談等を理由として、当該労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること

(3) まとめ

セクハラの防止措置を検討するには、まずはどのような場合にセクハラにあたるのかを理解する必要があります。

防止措置を講ずるにあたっては、セクハラにあたるような場面をどのような観点から防ぐことができるのかを検討しつつ、セクハラ指針を参考に措置を検討していくことが求められます。

仮に、使用者が十分な措置を講じていない場合は、男女雇用機会均等法第11条違反だけではなく、セクハラ行為によって労働者に発生した損害について使用者責任が肯定される可能性が極めて高くなります。

セクハラの防止措置を講じることは、労働者だけではなく使用者を守ることにもつながります。

3. セクハラに関する関係者の責務

男女雇用機会均等法第11条の2では、職場における性的な言動に起因する問題に関して使用者(事業主)や労働者が努めるべき責務についても定められています。

第11条の2
(略)
事業主は、性的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、性的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
労働者は、性的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第1項の措置に協力するように努めなければならない。

セクハラの防止には、使用者と労働者が自らの責務を認識することが重要であるため、男女雇用機会均等法は上記のような定めを設けています。

4. セクハラ防止措置のための制度設計の例

例えば、就業規則に委任の根拠規定を置いた上で、セクハラの防止について定めた規定を置くことも考えられます。

【就業規則】

第●条 セクシュアルハラスメントの禁止

セクシュアルハラスメントについては、第●条(服務規律)及び第●条(懲戒)のほか、詳細は「セクシュアルハラスメントの防止に関する規定」により別に定める。

【セクシュアルハラスメントの防止に関する規定】

第1条(目的)
 本規定は、就業規則第●条および男女雇用機会均等法に基づいて、職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するために従業員が遵守するべき事項並びに性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等を定める。

第2条(定義)

  1. セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対するほかの従業員の対応等により当該従業員の労働条件に関して不利益を与えることは又は性的な言動により他の従業員の就業環境を害することをいう。
  2. 前項の職場とは、勤務部店のみならず、従業員が業務を遂行するすべての職場をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされる就業時間外の時間を含むものとする。
  3. 第1項のほかの従業員とは直接に性的な言動の相手方となった被害者に限らず、性的な言動により就業環境を害されたすべての従業員を含むものとする。

第3条(禁止行為)
 すべての従業員は、他の従業員を業務遂行上の対等なパートナーとして認め、職場における健全な秩序ならびに協力関係を保持する義務を負うとともに、職場内において次の各号に掲げる行為をしてはならない。
 ① 性的及び身体上の事柄に関する不必要な質問・発言
 ② わいせつ図画の閲覧、配布、掲示
 ③ うわさの流布
 ④ 不必要な身体への接触
 ⑤ 性的な言動により、他の従業員の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為
 ⑥ 交際・性的関係の強要
 ⑦ 性的な言動への抗議または拒否等を行った従業員に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為
 ⑧ その他、相手方及び他の従業員に不快感を与える性的な言動

2 上司は、部下である従業員がセクシュアルハラスメントを受けている事実を認めながら、これを黙認する行為をしてはならない。

第4条(懲戒)
前条に掲げる行為を行った場合、就業規則第●条に定める懲戒処分を行う。

第5条(相談及び苦情への対応

  1. セクシュアルハラスメントに関する相談及び苦情処理の相談窓口は本社および各事業所で設けることとし、その責任者は人事部長とする。人事部長は、窓口の担当者の名前を人事異動の変更の都度、周知するとともに、担当者に対する対応マニュアルの作成及び対応に必要な研修を行うものとする。
  2. セクシュアルハラスメントの被害者に限らず、すべての従業員は性的な言動に関する相談及び苦情を窓口の担当者に申し出ることができる。
  3. 対応マニュアルに沿い、相談窓口担当者は相談者からの事実確認の後、本社においては人事部長へ、各事業所においては所属長へ報告する。報告に基づき、人事部長あるいは所属長は相談者の人権に配慮したうえで、必要に応じて行為者、被害者、上司並びに他の従業員等に事実関係を聴取する。
  4. 前項の聴取を求められた授業員は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
  5. 対応マニュアルに沿い、所属長は人事部長に事実関係を報告し、人事部長は、問題解決のための措置として、第4条による懲戒の他、行為者の異動等被害者の労働条件及び就業環境を改善するために必要な措置を講じる。
  6. 相談及び苦情への対応にあたっては、関係者のプライバシーは保護されるとともに、相談をしたことまたは事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取り扱いは行わない。

第6条(再発防止の義務)
人事部長はセクシュアルハラスメントの事案が生じた時は、周知の再徹底及び研修の実施、事案発生の原因の分析と再発防止等、適切な再発防止策を講じなければならない。

出典:厚生労働省「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!
(平成27年6月版)」

5. セクハラ発生時の対応

(1)セクハラ相談があった際の対応フロー

厚生労働省作成の「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!(平成27年6月版)」では、セクハラ相談がなされた際の対応フローとして上記のフローチャートが示されています。

調査の手法は、基本的にはパワーハラスメントが怒った場合と同様に、被害者・目撃者・加害者に対して資料の提供を依頼する、ヒアリングを行うなどして事実関係を確認し、資料やヒアリング結果から認定できた事実がセクハラにあたるかを判断します。

調査中は被害者の体調面に最大限に配慮し、加害者と行為者が顔を合わせないように配慮するなど、精神的負荷を取り除くような対応を講ずる必要があります。また、再発防止に向けた措置(社内研修など)を速やかに行う必要があります。

(2)セクハラの事実認定に関する裁判例

基本的には、「性的な内容の発言」または「性的な行動」のいずれかにあたると評価できれば、セクハラがあったと認定することになります。
裁判所は、セクハラ行為の違法性判断の基準として、「行為の態様、行為者…の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となる」(金沢セクシュアル・ハラスメント事件・名古屋高金沢支判平成8年10月30日労判707号37頁)と述べています。

L館事件(最判平成27年2月26日判時2253・107)において、裁判所は、一連の事実経過に照らして、男性が「俺のん、太くてでかいらしいねん」「この前、カー何々してん」などと言い、不倫相手との行為を赤裸々に女性従業員に話をしたり、女性従業員に対する「お局さん」「夜の仕事せえへんのか」という発言をセクハラだと認定しています。また、和歌山青果卸売会社事件(和歌山地判平成10年3月11日判タ988・239)では、「おばん、ばばあ、くそばば」といような中傷発言もセクハラにあたると判断されています。

他方、日本郵政公社(近畿郵便局)事件(第一審:大阪地判平成16年9月3日労判884号56頁、控訴審:大阪高判平成17年6月7日労判908号72頁)では、部下(男性)が局内の浴室を利用し、上半身裸で身体を乾かしていたところ、上司(女性)が入ってきて部下の上裸を見ながら「何してるの。なぜお風呂に入っているの」と発言した行為ついて、第一審ではセクハラに当たると判断されましたが、控訴審では防犯パトロールの一環でありセクハラには当たらないと判断されました。

このように、裁判所は、言動自体の相当性に加えて、その言動に至った経緯や当事者間の関係性などの諸般の事情を総合考慮して、セクハラ該当性を判断しています。そのため、実際にセクハラにあたるかどうかを判断する際は、上記基準を意識されると良いでしょう。

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7.よくある質問

Q1 セクハラの調査の際、相手方(男性)から、「女性は嫌がっていなかった」という主張がありました。このような場合でもセクハラは成立するのですか。

【回答】 裁判所は、職場でのセクハラについては、内心で不快感を抱いていても、人間関係を考慮して嫌がっていないように装うこともあるという観点をもって判断することが多いです。

そのため、嫌がっていなかったことそれのみをもって、セクハラ該当性を否定することはできない点に注意が必要です。

Q2 LGBTの労働者に対するセクハラとしてどのようなものがありますか。

【回答】 労働者の性的指向・性自認について、当該労働者の了承を得ずに他の労働者に暴露すること、いわゆるアウティングがセクハラに該当する例とされています。

Q3 被害者が派遣社員や有期雇用スタッフである場合、セクハラが認められやすくなるなどありますか。

【回答】 抵抗が困難な立場にあったと評価され、セクハラが認められやすくなる傾向があります。

例えば、前掲L館事件は、派遣労働者の女性社員に対するセクハラ行為が問題となった事案でしたが、裁判所は、報復や派遣会社の立場を考えると、派遣社員が勤務中に抗議することは困難だったと判断しています。

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この記事の監修者:中村景子弁護士


中村景子(なかむら けいこ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 中村景子(なかむら けいこ)

【プロフィール】

中央大学法科大学院修了。2019年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)
使用者側の人事労務問題(問題社員対応、解雇紛争、未払残業代請求対応、労災対応、労働組合対応等etc…)を専門的に取り扱っている。使用者側の代理人として、解雇紛争事案や未払残業代事案など多数の訴訟・労働審判対応のほか、保全事件対応やハラスメント・コンプライアンス違反調査にも複数携わる。

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