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職場におけるセクシュアルハラスメント(通称「セクハラ」)は、労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけるとともに、労働者の就業環境を悪化させ、能力の発揮を阻害するものです。
また、使用者にとっても職場秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える大きな問題です。
そのため、使用者においてはセクハラが生じないよう事前に対策を講じることや、セクハラが生じた場合は迅速かつ適切に対応することが、男女雇用機会均等法によって義務付けられています。
本稿では、使用者に求められるセクハラ対策やセクハラの申告があった際の対応方法いついて解説いたします。
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目次
セクハラとは、「職場」において行われる労働者の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件につき不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されることをいいます。
ここでいう「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を行う場所を指します。
問題となった労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、その労働者が業務を行う場所についても「職場」に含まれます。
そのため、顧客等との打ち合わせで使用した会議室や飲食店、顧客等の事業所や自宅なども、「職場」にあたります。
「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指します。「性的な内容の発言」は、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等をいい、「性的な行動」は、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつな図画を配布すること等をいいます。
使用者(事業主)、上司、同僚だけではなく、取引先、顧客、患者や学校における生徒等もセクハラの行為者となり得ます。
「性的な内容の発言」や「性的な行動」に該当する例として、以下が挙げられます。
【性的な内容の発言に該当する可能性が高い事例】
① 他人の性に関する事情を広めたり、吹聴すること
② 性に関する話を積極的に行うこと
③ 性交渉、飲み会、宿泊に誘うこと
④ 容姿への言及
【性的な内容の発言に該当する可能性が高い事例】
① 正当な理由のない身体接触・接近
② 性的なものを見せる
③ 性的関係の強要
【性的な発言・行動に類似し、セクハラに当たる可能性が高いもの】
セクハラは、女性・男性を問わず加害者にも被害者にもなり得ます。
注意すべき点として、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも該当します。
また、相手の性的指向(人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするか)または性自認(性別に対する自己認識)にかかわらず、該当する可能性があります。
例えば、「ホモ」「オカマ」「レズ」などを含む言動は、セクハラに繋がる言動にもなり得ます。
ア | 種類 |
セクハラは「対価型セクシュアルハラスメント」と「環境型セクシュアルハラスメント」に分けられます。 | |
イ | 対価型セクシュアルハラスメント |
「対価型セクシュアルハラスメント」とは、職場において、労働者の意思に反する性的な言動が行われ、それに対して拒否・抵抗などをしたことで、労働者が解雇・降格・減給などの不利益を受けることをいいます。 例としては、オフィスにおいて社長が労働者に対して性的な関係を要求したが、労働者に拒否されたためにその労働者を解雇するような場合や、上司が労働者の胸や腰に触れたが、労働者が抵抗したためにその労働者について不利益な配置転換を行うというような場合が挙げられます。 |
|
ウ | 環境型セクシュアルハラスメント |
「環境型セクシュアルハラスメント」とは、職場において、労働者の意思に反する性的な言動によって労働者の就業環境が不快なものとなり、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業上見過ごすことができない程度の支障が生じるような場合を指します。 例としては、オフィスにおいて上司が労働者の胸や腰に触れた為、その労働者が苦痛に感じて疎の就業意欲が低下した場合や、同僚が労働者に関する性的な情報を意図的に流布し、労働者が苦痛を感じて仕事が手につかないような場合が挙げられます。 |
男女雇用機会均等法第11条は、職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置について定めています。
第11条 | |
第1項 | 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 |
第2項 | 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。 |
第3項 | 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第1項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。 |
第4項 | 厚生労働大臣は、前3項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針 次項において「指針」という。)を定めるものとする。 |
ここでいう「必要な措置」の具体的な内容については、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第615号)【令和2年6月1日適用】」(以下「セクハラ指針」といいます)に定められています。
セクハラ指針の定める「雇用管理上講ずべき措置」の概要は次のとおりです。
① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ セクハラ発生時の迅速かつ適切な対応
④ 上記①~③の措置と併せて講ずべき措置
① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発について
セクハラ指針は事業主に対して、セクハラとはどういうものなのか(=セクハラの内容)、セクハラを行ってはいけない旨の方針を明確に示し、管理監督者(労働基準法第41条第2号)を含む労働者に周知・啓発しなければいけないとしています。
周知・啓発が認められる具体例としては、以下が挙げられます。
また、同指針は、職場で性的な言動を行った者に対しては、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則その他職場の服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発しなければいけないとも定めています。対処方針を定め、周知・啓発していると認められる具体例としては、以下が挙げられます。
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
セクハラ指針では、使用者は、労働者からの相談に対して、その内容や状況に応じて適切かつ柔軟に対応するために必要な対応の整備として、相談対応の窓口を予め定め、労働者に周知する必要があるとされています。相談窓口を予め定めていると認められる例としては、以下が挙げられます。
また、同指針は、上記の相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにする必要があるとしています。加えて、同指針は、相談窓口においては、相談者の心身の状況や認識に配慮し、セクハラに該当するか否かを問わず広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることを定めています。相談窓口の担当者が適切に対応できるようにしていると認められる例としては、以下が挙げられます。
③ セクハラ発生時の迅速かつ適切な対応
セクハラ指針は、使用者はセクハラの相談を受けた場合、事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があると定めています。同指針では、セクハラを行った者が、他の使用者に雇用されている労働者であったり、他の企業の社長である場合には、必要に応じて他の事業主に事実関係の確認の協力を求めることも、「迅速かつ適切な対応」に含まれるとされています。事実関係を迅速かつ適切に確認していると認められる例としては、以下が挙げられます。
また、同指針は、セクハラの事実を確認した場合は速やかに被害者に対する配慮のための措置及び行為者に対する措置を適正に行い、再発防止の措置を取る必要があるとしています。措置を適正に行っていると認められる例としては、以下が挙げられます。
(被害者に対する措置)
(行為者に対する措置)
(再発防止措置)
④ 上記①~③の措置と併せて講ずべき措置
セクハラ指針は、上記①~③の措置を講じる場合には、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じる必要があり、その旨を労働者に周知する必要があるとしています。プライバシー保護のために必要な措置を講じていると認められる例としては、以下が挙げられます。
また、同指針は、労働者がセクハラに関する相談をしたことや、使用者の講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助を求めたことや調停の申請を行ったことなどを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしないよう使用者が定めることを求め、その旨を周知・啓発する必要があるとしています。不利益な取扱いをしない旨を定め、労働者にその周知・啓発することについて措置を講じていると認められる例としては、以下が挙げられます。
セクハラの防止措置を検討するには、まずはどのような場合にセクハラにあたるのかを理解する必要があります。
防止措置を講ずるにあたっては、セクハラにあたるような場面をどのような観点から防ぐことができるのかを検討しつつ、セクハラ指針を参考に措置を検討していくことが求められます。
仮に、使用者が十分な措置を講じていない場合は、男女雇用機会均等法第11条違反だけではなく、セクハラ行為によって労働者に発生した損害について使用者責任が肯定される可能性が極めて高くなります。
セクハラの防止措置を講じることは、労働者だけではなく使用者を守ることにもつながります。
男女雇用機会均等法第11条の2では、職場における性的な言動に起因する問題に関して使用者(事業主)や労働者が努めるべき責務についても定められています。
第11条の2 | |
1 | (略) |
2 | 事業主は、性的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。 |
3 | 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、性的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。 |
4 | 労働者は、性的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第1項の措置に協力するように努めなければならない。 |
セクハラの防止には、使用者と労働者が自らの責務を認識することが重要であるため、男女雇用機会均等法は上記のような定めを設けています。
例えば、就業規則に委任の根拠規定を置いた上で、セクハラの防止について定めた規定を置くことも考えられます。
【就業規則】
第●条 セクシュアルハラスメントの禁止
セクシュアルハラスメントについては、第●条(服務規律)及び第●条(懲戒)のほか、詳細は「セクシュアルハラスメントの防止に関する規定」により別に定める。
【セクシュアルハラスメントの防止に関する規定】
第1条(目的)
本規定は、就業規則第●条および男女雇用機会均等法に基づいて、職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するために従業員が遵守するべき事項並びに性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等を定める。
第2条(定義)
第3条(禁止行為)
すべての従業員は、他の従業員を業務遂行上の対等なパートナーとして認め、職場における健全な秩序ならびに協力関係を保持する義務を負うとともに、職場内において次の各号に掲げる行為をしてはならない。
① 性的及び身体上の事柄に関する不必要な質問・発言
② わいせつ図画の閲覧、配布、掲示
③ うわさの流布
④ 不必要な身体への接触
⑤ 性的な言動により、他の従業員の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為
⑥ 交際・性的関係の強要
⑦ 性的な言動への抗議または拒否等を行った従業員に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為
⑧ その他、相手方及び他の従業員に不快感を与える性的な言動
2 上司は、部下である従業員がセクシュアルハラスメントを受けている事実を認めながら、これを黙認する行為をしてはならない。
第4条(懲戒)
前条に掲げる行為を行った場合、就業規則第●条に定める懲戒処分を行う。
第5条(相談及び苦情への対応
第6条(再発防止の義務)
人事部長はセクシュアルハラスメントの事案が生じた時は、周知の再徹底及び研修の実施、事案発生の原因の分析と再発防止等、適切な再発防止策を講じなければならない。
厚生労働省作成の「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!(平成27年6月版)」では、セクハラ相談がなされた際の対応フローとして上記のフローチャートが示されています。
調査の手法は、基本的にはパワーハラスメントが怒った場合と同様に、被害者・目撃者・加害者に対して資料の提供を依頼する、ヒアリングを行うなどして事実関係を確認し、資料やヒアリング結果から認定できた事実がセクハラにあたるかを判断します。
調査中は被害者の体調面に最大限に配慮し、加害者と行為者が顔を合わせないように配慮するなど、精神的負荷を取り除くような対応を講ずる必要があります。また、再発防止に向けた措置(社内研修など)を速やかに行う必要があります。
基本的には、「性的な内容の発言」または「性的な行動」のいずれかにあたると評価できれば、セクハラがあったと認定することになります。
裁判所は、セクハラ行為の違法性判断の基準として、「行為の態様、行為者…の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となる」(金沢セクシュアル・ハラスメント事件・名古屋高金沢支判平成8年10月30日労判707号37頁)と述べています。
L館事件(最判平成27年2月26日判時2253・107)において、裁判所は、一連の事実経過に照らして、男性が「俺のん、太くてでかいらしいねん」「この前、カー何々してん」などと言い、不倫相手との行為を赤裸々に女性従業員に話をしたり、女性従業員に対する「お局さん」「夜の仕事せえへんのか」という発言をセクハラだと認定しています。また、和歌山青果卸売会社事件(和歌山地判平成10年3月11日判タ988・239)では、「おばん、ばばあ、くそばば」といような中傷発言もセクハラにあたると判断されています。
他方、日本郵政公社(近畿郵便局)事件(第一審:大阪地判平成16年9月3日労判884号56頁、控訴審:大阪高判平成17年6月7日労判908号72頁)では、部下(男性)が局内の浴室を利用し、上半身裸で身体を乾かしていたところ、上司(女性)が入ってきて部下の上裸を見ながら「何してるの。なぜお風呂に入っているの」と発言した行為ついて、第一審ではセクハラに当たると判断されましたが、控訴審では防犯パトロールの一環でありセクハラには当たらないと判断されました。
このように、裁判所は、言動自体の相当性に加えて、その言動に至った経緯や当事者間の関係性などの諸般の事情を総合考慮して、セクハラ該当性を判断しています。そのため、実際にセクハラにあたるかどうかを判断する際は、上記基準を意識されると良いでしょう。
杜若経営法律事務所のYouTubeチャンネル(かきつばたチャンネル)にはパワハラの認定・判断の参考になる裁判例について解説した動画もありますので、ぜひご参考ください。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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【回答】 裁判所は、職場でのセクハラについては、内心で不快感を抱いていても、人間関係を考慮して嫌がっていないように装うこともあるという観点をもって判断することが多いです。
そのため、嫌がっていなかったことそれのみをもって、セクハラ該当性を否定することはできない点に注意が必要です。
【回答】 労働者の性的指向・性自認について、当該労働者の了承を得ずに他の労働者に暴露すること、いわゆるアウティングがセクハラに該当する例とされています。
【回答】 抵抗が困難な立場にあったと評価され、セクハラが認められやすくなる傾向があります。
例えば、前掲L館事件は、派遣労働者の女性社員に対するセクハラ行為が問題となった事案でしたが、裁判所は、報復や派遣会社の立場を考えると、派遣社員が勤務中に抗議することは困難だったと判断しています。
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この記事の監修者:中村景子弁護士
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