セクハラの評価は裁判官でも難しい?

セクハラの評価は裁判官でも難しい?

 

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1. セクハラ事案の認定、評価

セクハラ事案は、対象事実の存否そのものをめぐって争いになることが多いです。

「言っていない」「やっていない」「覚えていない」など言動そのものを否定することがあります。

一方でパワハラ事案の場合は、「業務上の注意指導だった」「部下が危険な行動をとったため、咄嗟にそのような言動をした」「部下が指導に対して反抗的な態度を取ったためつい言ってしまった」など言動を認めたうえで評価を争うケースも多いです。

セクハラ事案の場合は、業務上の注意指導の一環であるとの主張はほとんどなく、「その場を盛り上げるためにコミュニケーションとして言った」「相手も卑猥な発言、下ネタ発言をしていたのでそれに乗じて言っただけである」などの性的な意図よりもノリであったとの主張がなされます。

セクハラ事案では、このように対象事実の存否及び言動に対する評価の両方が争われることが多く、認定、評価が非常に難しいです。

 

2. みなさんが裁判官だったらどちらの判断をしますか?

もしみなさんが次の設例においてセクハラか否かを判断する裁判官だったとしたら、どちらの裁判官の判断を支持しますか?

【設例1】
歓迎会二次会のカラオケ店で、ズボンのベルトを緩めてボタンを外し、チャックを下げ、自然にズボンが脱げる状態にして歌に合わせて踊り、複数回、足の付け根辺りまでズボンがずり落ち、着用していたステテコを露出させた。

裁判官A
「本件露出行為は、自己の着衣のうちズボンのみを意図的にずり落ちるようにし、その卑猥な動作で宴会の場を盛り上げようとしたものであって、Xに対して不快感を与える不適切な行為であったというべきであるけれども、その態様がXのみに向けられたものではなく、回数は1回で、結果として下着が露出したのはごく一部で短時間にとどまっていたことを考慮すると、Xの人格権を侵害するような社会的相当性を欠く違法な行為であるとまで認めることはできない。」

裁判官B
「自己のズボンを意図的にずり落ちるようにし、下着を露出させ、その卑猥な動作で宴会の場を盛り上げようとしたものであり、しかも同様の動作を複数回にわたり繰り返して、Xに対して不快感を与えたものであるから、本件露出行為は、Xに対するセクハラ行為にほかならず、Xの人格権を違法に侵害するものである。」

【設例2】
研修後の懇親会において、Xが氷かワインを運んできてくれた際に、「ありがとう」、「Xちゃん可愛いところあるやんか」、「普段からそうしてや」と発言した。

裁判官A
「これらの発言は、性差に関する一定の価値観に基づくものであって、相手に不快感を与えるおそれがあることは否めないけれども、その発言の態様は、相手への感謝を伝える際に付け加えて述べたもので、強い口調で押し付けているものでもないから、Xの人格権を侵害するような社会的相当性を欠く違法な行為であると認めることはできない。」

裁判官B
「性差別的な一定の価値観をXに押し付ける内容の発言であって、社会通念上許容される限度を超えているといえるから、この発言により不快感を抱いたXに対しては、Xの人格権を違法に侵害するものとして、不法行為が成立するというべきである。」

 

3. 裁判所の判断

上記の設例は、Kセクハラ損害賠償事件(東京高裁令和5年9月7日判決/東京地裁令和3年10月19日判決・労経速報75巻7号)を題材に、1審判決と2審判決の判断内容を参考にしたものです。

裁判官Aは地裁判決、裁判官Bは高裁判決をベースにしたものです。

裁判官であってもこれだけ判断が異なることに驚かれたかもしれません。

ただ傾向としていえるのは、動機はともあれ、言ったことや、やったことがシンプルに相手に不快感を与えて人格を侵害するような場合にはセクハラ認定されやすいということです。

今後のセクハラ事案の認定評価の際の参考になればと思います。

以上

 

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使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:岸田 鑑彦弁護士


岸田鑑彦(きしだ あきひこ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岸田鑑彦(きしだ あきひこ)

【プロフィール】
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録。訴訟、労働審判、労働委員会等あらゆる労働事件の使用者側の代理を務めるとともに、労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
【著書】
「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)
「事例で学ぶパワハラ防止・対応の実務解説とQ&A」(共著)(労働新聞社)
「労働時間・休日・休暇 (実務Q&Aシリーズ) 」(共著)(労務行政)
【Podcast】岸田鑑彦の『間違えないで!労務トラブル最初の一手』
【YouTube】弁護士岸田とストーリーエディター栃尾の『人馬一体』

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