無断欠勤が続く社員は解雇できる?対応方法や注意点を弁護士が解説

無断欠勤を続ける問題社員への対応方法とは

無断欠勤が発生する事態とは

「社員が無断欠勤をしている。仕事の放棄であり無責任なこの人をやめさせたい」というご相談は、よくあるご相談の一つです。

社員が無断欠勤をする理由は、病気や怪我、実は転職活動をしていた、上司と揉めてしまい行きにくい等、様々です。

確かに、社員は就業規則等に定められた始業時刻から終業時刻まで勤務する義務を負っているため、無断欠勤は労働契約の債務不履行になります。

しかし、ここで今ある状況を踏まえずに「出勤をしないのだから、解雇をされて当然」という考えのもと、いきなり解雇をしてしまうというのは、リスクが高く、対応としても良いものではありません。

今回は無断欠勤をする問題社員対応として、どのように対応をすることがトラブルとならない方法であるか解説をしたいと思います

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第1 いきなり解雇をすることのリスク

さて、いきなり解雇をすることはリスクが高いと説明をしましたが、解雇が無効となることで会社にはどのようなリスクがあるのでしょうか。

解雇については、労働契約法16条において「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められています。

つまり、解雇が有効となるためには、(1)解雇に客観的合理的理由があり、(2)社会通念上相当であるという要件を満たす必要があるということです。

そして、この要件の立証責任は、会社が負うことになります。

上記の要件を会社が立証できず、解雇が無効になることで会社は、①対象社員の復職、②就労がなくとも紛争期間中(裁判で判決が出て復職をするまでの期間)の賃金支払(いわゆるバックペイです)を法的に義務付けられます。

また、法的な問題の他に、不当解雇を行った会社として、会社の社会的評判にも影響が発生します(レピュテーションリスク)。これは、社員の採用等に影響を与える可能性があります。

そのため、解雇が無効となることにより、会社が負担するリスクは大きいものです。

他方で、解雇が有効となったとしても会社が得られる利益は、対象の社員が復職をしないということののみであり、得られる利益は小さいものです。

したがって、解雇は会社にとって、ハイリスク・ローリターンの紛争類型です。

併せて、解雇は会社が勝ちにくい紛争類型であることも理解をする必要があります。

無断欠勤ではなく、遅刻に関する判例ですが、寝過ごしにより2度の放送事故を起こしたアナウンサーに対する解雇が無効と判断された判例(高知放送事件・最高裁昭和52年1月31日判決)も存在します。

以上から、社員を解雇する場合であっても適切なステップを踏み、会社のリスクを最小化する必要があります。

第2 初動対応について

無断欠勤をすり社員に対する初動対応として、最も重要なことは、会社が当該社員に出勤命令を出すことです。

この点は無断欠勤をする問題社員対応マニュアルとして、会社においても準備をしてよい点かと思います。

社員の解雇が問題となる紛争類型においては、裁判官は、その社員に「改善の機会は与えたか?」「その証拠はあるか?」という点を見ます。

無断欠勤が問題となる事例において、改善の機会を与えるとは、出勤を指示することです。

したがって、初動対応としては、記録に残る形で無断欠勤をする社員に対して、出勤命令を行うということになります。

もっとも、この出勤命令を出すにあたっても、①本人に連絡が取れる状態にある出勤命令と②本人に連絡が取れない場合の出勤命令において、気をつけるべき点が異なります。

労働者(従業員)本人に連絡が取れる場合

本人に連絡が着く場合には、書面の郵送、メール、ショートメッセージ等の記録に残る方式で出勤命令を行うことが重要です。

また、郵送で書面を送付する場合には、本人に配達されたという記録を残すために特定記録郵便で送付するという対応がオススメです。

この時に避けるべき対応は、電話等の口頭で出勤命令を行うことです。

後日、紛争となった場合に、社員が「出勤命令は出されていない」と主張をしだした際に出勤命令の存在を立証できません。

裁判において、出勤命令を出したことの立証責任は会社にあるため、証拠がなければ、出勤命令を出したという認定がなされないことになります。

また、出勤命令を出す際には、欠勤がいつからあるのか、いつからの出勤を命令しているのかという点も明確にする必要があります。

以上を踏まえ、社員に出勤命令を出す際の文案としては、以下のような文案が考えられます。

●●さん
    ●●さんは、令和●年●月●日以降、正当な理由もなく、また、当社に連絡もないまま、無断で欠勤されています。
    ●●さんの次の所定労働日は令和●年●月●日のため、所定の始業時間までに、出社するよう命じます。

また、忘れてはいけないのは、この出勤命令は本人が出勤をするまで、継続するということです。

改善がないならば、指導は継続しなければならないという考えによるものです。

労働者(従業員)本人に連絡が取れない場合

上記の事例と異なり、無断欠勤をする社員には、そもそも連絡が取れないという事例も少なくありません。

連絡をする内容は上記の「1」記載の内容と同じですが、この場合には、そもそもどのように出勤命令を出すべきかが問題となります。

この点に関する裁判例としてOSI事件(東京地裁令和2年2月4日・労働経済判例速報第2421号22頁)があります。

この事例では会社の就業規則「正当な理由なく欠勤が14日以上に及び,出勤の督促に応じない又は連絡が取れないことを懲戒解雇事由とする規定(72条2項1号)が」が存在する事例でした。

裁判所は会社の「就業規則中にあえて上記規定と別個に設けられた本件退職条項の趣旨は,被告が従業員に対して通常の手段によっては出勤の督促や懲戒解雇の意思表示をすることができない場合,すなわち,被告の従業員が欠勤を継続し,被告が通常の手段によっては出勤を命じたり解雇の意思表示をしたりすることが不可能となった場合に備えて,そのような事態が14日以上継続したことを停止条件として退職を合意したものと解される。

したがって,本件退職条項にいう『従業員の行方が不明となり,14日以上連絡が取れないとき』とは,従業員が所在不明となり,かつ,被告が当該従業員に対して出勤命令や解雇等の通知や意思表示をする通常の手段が全くなくなったときを指すものと解するのが相当である」と一般論を提示しました。

その上で、裁判所は、「原告は,被告に対し,本件施設に出勤しなくなった平成27年9月22日以降,同月25日から同月28日まで,連日,休暇等届と題する書面等をファクシミリを利用して送信するとともに,同月28日には,同年10月分の勤務の予定をファクシミリを利用して送信するよう求め,同年10月2日には,重ねて上記要求をし,さらに,同月20日には,電子メールを送信して,休職を申し出るとともに,電子メールアドレスを開示して電子メールで連絡をするよう求めていたことが認められる。」として、社員側から、電子の方法で連絡が来ていたことを認定しました。

なお、この裁判例では会社からは電話でしか連絡をしていませんでした。

このような状況において「被告が原告に対してファクシミリや電子メールを利用して上記通知や意思表示をすることが不可能な状況にあったとまでは認められない。」として、電子メールでの連絡をしていないにもかかわらず、行方不明と認定したことは誤りとし、自然退職の効力を否定しています。

上記の裁判例からわかることは、本人からメール等で直近に連絡がある場合には、その方法で出勤命令を出すという対応が望まれるということです。

現在はメールの他、ChatworkやSLACK等のSNSのサービスもあるため、このような媒体を用いて、出勤命令を出すことも会社は検討するべき時代となっています。

第3 解雇をする場合の対応について

無断欠勤が続く社員に対しては、上記の初動対応を行った上で、解雇をするということも視野に入ります。

この時、「何日以上無断欠勤があれば、解雇しても有効となるのか?」という点は、皆様がよく疑問を持つ箇所になります。

この点に関して、6日間の連続での無断欠勤(逮捕・勾留をされていたため欠勤)を理由に行った解雇の有効性が問題となった裁判例(東京地裁昭和48年12月7日日本気象協会事件)では、解雇が無効であると判断されています。

他方で、傷病による欠勤が非常に多い社員で断続的ではあるものの、欠勤の総日数が解雇直前5年間で2年4ヶ月に及び長期欠勤明けの出勤にも消極的で、遅刻も多かった社員に対する解雇が有効と判断された裁判例(東京海上火災保険事件・東京地裁平12月7月28日・労判797号65頁)や2週間の無断欠勤をした社員に対する解雇が有効とされた裁判例(東京地裁平成12年10月27日)もあります。

併せて、古い通達(S23.11.11基発第1637号)においては、労基法20条1項但し書きの「労働者の責めに帰すべき事由」に関する通達であるものの、「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」を労働者の責めに帰すべき事由としています。

この通達は解雇予告手当の除外認定に関するものであり、解雇の効力について直接規律するものではありませんが、参考になるべき通達と考えられます。

以上を踏まえると、解雇という最終手段に踏み切る前には、出社命令は発した上で少なくとも2週間以上連続した無断欠勤がなされている必要があります。

もちろん、2週間というのは目安に過ぎず、無断欠勤が2週間を超えれば、常に解雇が有効となるというものではありません。

あくまで個別の事案に応じて、(1)解雇に客観的合理的理由があり、(2)社会通念上相当であるという解雇の要件を満たしているかを慎重に検討をする必要があります。

第4 従業員を解雇する前に弁護士に相談するべき理由

協調性を欠いている問題社員を解雇する前に弁護士に相談するべき理由としては主に以下の3つが挙げられます。

(1)適切な手続き(ステップ)を踏まないと、解雇が無効となることも

これまでご紹介してきた通り、欠勤を理由とする場合であっても解雇に踏み切るた目には、慎重な対応が必要です。

また、適切な対応をせずに解雇した結果、裁判所からは思いがけない理由で不当解雇と判断される場合も多いです。

(2)解雇無効のリスクが現実化する

上記の第1で記載した①対象社員の復職と②バックペイが現実化し、会社にとって大きな負担となります。

(3)解雇後は弁護士ができる対応も限られる

解雇を行った後は、弁護士がついたとしても遡り、解雇に向けた対応を踏むことができず、併せて、対応を行ったことを示す資料の記録化(証拠の準備)もすることができません。

そのため、従業員に弁護士や労働組合が付いて行う交渉や労働審判・訴訟では、会社が劣勢であることを前提に対応を進めなければならなくなります。

第5 無断欠勤が続く従業員対応には専門的な知識が必要です。まずは弁護士にご相談ください

使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題従業員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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よくある質問

Q1 就業規則の解雇事由に「14日以上の無断欠勤」という事由があります。労働者が14日以上欠勤をすれば、解雇をしても有効になりますか?

【回答】 就業規則の解雇事由に該当することと、解雇が有効となることは必ずしも一致しません。

解雇が有効となるかは、個別の事案に応じて、(1)解雇に客観的合理的理由があり、(2)社会通念上相当であるという解雇の要件を満たしているかという要件から判断されます。

Q2 無断欠勤をする従業員に簡易書留で出社命令書を送付しましたが、不在とのことで返送されてきました。郵送書面が受領されないという方法を防ぐ方法はないでしょうか?

【回答】 簡易書留は本人が不在の場合や受け取りを拒否した場合には、返送をされてしまう郵便システムです。

他方で、特定記録郵便は、あくまで通常の普通郵便と同様の配達方法で、宛先の自宅郵便受けに投函されて配達が完了となるため、不在の場合や受け取り拒否の場合に、書面が到達しないという事態を防ぐことができます。

そのため、特的記録郵便を用いて郵送を行うという対応が望ましいです。

Q3 会社としては、無断欠勤に対して、懲戒解雇で対応をしたいと考えていますが、これは適切でしょうか?

【回答】 懲戒解雇は懲戒処分でも最も重い懲戒であり、これを行うためには、就業規則上に懲戒解雇の規定と懲戒解雇事由としての無断欠勤が定められていることが前提に、その性質が悪質で非違性が高いものであることを立証する必要があります。

また、懲戒処分を行うためには、弁明の機会を付与する必要もあり、普通解雇よりも手続の負担が重くなります。

そのため、解雇をするとしても普通解雇で対応をすることが穏当です。

退職勧奨には専門的な知識が必要です。

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この記事の監修者:井山貴裕弁護士


井山貴裕(いやま たかひろ)

杜若経営法律事務所 弁護士
井山貴裕(いやま たかひろ)

【プロフィール】
・慶應義塾大学法科大学院修了
・第一東京弁護士会弁護士登録、杜若経営法律事務所入所
・経営法曹会議会員

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