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目次
ここ近年、社会保険労務士の先生方が、関与先企業の労務紛争トラブルに関わることがますます増えてきているように思います。
特に東京の場合は、労働組合が関与するケースが多いのではないでしょうか。
本稿では、労働組合にかかわる個別労働関係紛争に関する留意点を、弁護士の立場から述べさせていただきました。実務にお役立ていただければ幸いです。
なお、次稿では、団体交渉に関する実務上の留意事項を述べる予定です。
「未払い残業代問題」解決のポイントと考え方※本稿は、向井蘭弁護士が執筆し、東京社労士会会報2011年10月号に掲載された記事を再録したものです。
今回最初に取り上げるのは、ここ近年最も頻繁に起こる「未払い残業代問題」についてです。
未払い残業代問題は、労組組合員のみならず、他の非組合員にも波及する問題であり、解決に失敗した場合は倒産の危機さえ生じてしまう、極めて重大な問題です。
それでは早速、次の事例について、問題点と解決のポイントを明らかにして行きましょう。
【事例】 A社は全社員が約30名の運送会社である。B労働組合が結成され、社員2名が加入した。社員2名は、会社管理職との人間関係のトラブルを抱え会社に敵意を抱いていた。また、個人的な理由から金銭に困っていた。B労働組合は、団体交渉の当初から残業問題を議題にあげてきた。A社は、運送会社であり、ほとんどの給料が歩合制によるものであるが、歩合制であれば残業代は発生しないものと誤解し、これまで、まったく残業代を支払わなかった。B労働組合は、他の従業員にも勧誘活動を続けており、労働組合に加入すれば残業代をもらうことができると勧誘している。 どう対応するべきか? |
このような事案では、「もう面倒なので、未払い残業代を早く支払いたい」という経営者の方もおります。
確かに、労働組合の主張するような金額を早期に提示すれば、問題の長期化も避けられるでしょう。
しかしながら、支払い方によっては、さらなる問題を生み出してしまうこともあるのです。
たとえば、残業代を請求した組合員2名のみ残業代を支払い、他の従業員(非組合員)には未払いのままだとします。
同じように働いているにもかかわらず、扱いが違うわけですから、当然ここに新たな火ダネが落とされることになります。
実際に私がこれまで扱った事案の中でも、組合員のみに残業代を支払ったところ、他の社員も新たに労働組合に加入して残業代を請求したり、退職後に弁護士に依頼して、未払い残業代を請求するケースがありました。
「組合員に支払う」のみでは紛争が解決しないのが、未払い残業代問題と労働組合問題の特徴なのです。
労働組合との団体交渉で未払い残業代を請求された場合、すでに発生した残業代のことが問題になりますが、これから発生する残業代を抑えることも非常に重要になります。
すでに発生した残業代(過去の残業代)については、本来ならば賃金請求権の消滅時効にかからない過去2年分を支払うべきなのですが、会社にその資力がない場合、私の個人的見解ではありますが、以下の4つの方法があげられます。
Ⅰ 一部期間支払プラス時効消滅を待つ
Ⅱ 一部支払(もしくは一部期間支払)プラス残額放棄
Ⅲ 全額放棄
Ⅳ 何もしない
Ⅳの「何もしない」は、一見消極的な方法にもとられるかもしれません。
しかし、時間の経過とともに、過去の未払い残業代が徐々に少なくなっていくわけですから、資金力のない会社にとっては、やむをえない手段であると割り切って考えても良いと思います。
また、Ⅱ、Ⅲの残業代の放棄については法的なリスクがあり(無効となる可能性が高いです)、あまりお勧めするものではありません。
しかし、どうしても残業代の請求を事前に防ぐ必要がある事案では、依頼者にリスクを説明した上で、放棄の書類を取らざるを得ない場合もあると思います。
残業代の請求をしている者が会社に在籍している場合、これから発生する残業代(将来の残業代)を抑える方策を導入しないと、永久に残業代を請求されることになります。
残業時間を減らしたり、未払い残業代を支払うように人件費を増やせば良いのでしょうが、中小企業の場合はいずれも困難な場合が多いものです。
従って、現在の人件費の範囲内で、一定の残業代を支払うようにすることになります。
具体的には、残業代の基礎となる部分の金額を減らして(時給を下げて)、一定額の残業代を支払う方式をとることになります。
人件費を増やさないで固定残業代制度を導入するということは、残業代の時給単価を下げることにつながります。
同じ30万円をもらっても、10万円の残業代が含まれているか否かでは残業代の時給単価は大きく異なります。
したがって、このような場合は、労働契約法第8条により、労働者との個別同意が必要です。
しかも同意文書が必要です。裁判所は、口頭による同意や黙字の同意は一切認めません。
就業規則のみで大幅な時給単価引き下げを伴う固定残業代を導入することは法的にリスクがあります。
裁判所で争われれば、おそらく労働契約法第10条の「合理性がない不利益変更」で無効であると判断されることになると思います。
最近私の経験した事案では、固定残業代制度を導入した後、退職した従業員が残業代を請求した事案で、裁判所が労働者の個別同意がないので、固定残業代制度は無効であるとの心証を開示したことがあります(和解で終了しました)。
また、従業員代表が同意していればよいと誤解している経営者もいますが、それは誤りです。
従業員代表の同意はもちろんあったほうがよいですが、個別同意がない場合は無効となる可能性が高いと思っていただいて結構です。
以下、同意文書の書式を掲載しておきます。
同意書 1 私は,株式会社●より,本日,私が勤務する株式会社●の賃金規定が添付別紙のとおり改訂されるとの説明を受けました。 2 今回の改定により、新しく固定残業手当が創設され、この固定残業手当もいわゆる残業代(所定労働時間を超える労働時間,深夜労働時間及び休日労働時間の対価)として支払われるようになることを了解致しました。 3 また,上記のいわゆる残業代として支払われる上記手当てが,実際の労働時間に基づいて法律にのっとって計算した金額を 4 賃金規定の改訂により,私の給与がどのように変化するかは,以下の通り説明を受け,了解致しました。 改定前 基本給●円、役職手当●円、資格技能手当●円、営業手当●円、扶養手当●円、住宅手当●円 5 賃金規定の改訂について,上記のとおり説明を受けその内容について承諾いたしましたので,本同意書に署名致します。 平成23年 月 日 ○印 |
団体交渉では、当然のことながら労働組合は未払い残業代を請求します。
会社は労働組合の主張の通りに未払い残業代を支払う必要があるのでしょうか?
答えは「NO」――。団体交渉では会社として言うべきことはきちんと言うべきです。
先の事例の運送会社では、タコチャート紙や日報など、ある程度客観的に労働時間を把握することができる資料がありました。
しかし、資料があったとしても、休憩時間や荷積み・荷降ろしの時間について解釈の仕方、あるいは「○○手当などを残業代として支払っていた」などと会社が主張することもあり、新たな争いが生じます。
この結果、会社と労働組合の主張は平行線を辿ることとなり、労組側は「労働基準監督署に申告するぞ」と述べ、事態の打開を図ろうとします。
私の経験上、そう言われてもひるまずに「労働基準監督署に申告してもかまいません」と答えるようにしています。
多くの場合は、このようなやりとりの後、団体交渉は終了し(もしくは頻度が少なくなり)、訴訟になるか、一気に労働組合が金額を下げて譲歩してきます。
ここでも、紙面の都合上、詳しくは延べられませんが、労働基準監督署の調査が入ったとしても、会社として主張するべきことは主張するべきです。
私は、代理人弁護士として(時には顧問の社会保険労務士の先生と共同で)、訴訟になるかもしれないが組合員の未払い残業代は最終的には支払う意思があること、今後未払い残業代が発生しないように努力していること、労働組合の労働時間認定や残業代算定が誤っている旨の意見書を提出するようにしています。
意見書だけですと労働基準監督官の感情を害するおそれがあるので、実際に労働基準監督官に会って丁寧に説明することにしています。なかなか労働基準監督署として文書で反論することはできないので、是正勧告は出るものの事実上そこで調査が終了することもよくあります。
先に挙げた事例は、会社に在籍している従業員が労働組合に加入して残業代を請求した事例です。
私が過去に扱った事例を見ても、実際には退職した従業員が労働組合に加入して残業代を請求することが多いと思います。
このようにすでに退職した従業員が残業代を請求する場合は、他の現在在籍している従業員に与える影響は限定的ではあります。
しかし、退職した従業員が未払い残業代の支払いを受けると同時に、在籍する従業員が労働組合に加入して残業代の請求を行って来た事例もありましたので(おそらく連絡を取り合っていたのでしょう)、やはり退職した従業員が未払い残業代を請求してきた事例であっても、上記の通り、現在在籍している従業員に対する過去と将来の未払い残業代に対する対応が必要です。
続いて、こちらも企業にとっては死活問題になりかねない「解雇」や「雇い止め」に関する問題点と解決のポイントについて検証して行きましょう。
【事例】 A社は派遣会社であり、派遣社員を除いた社員は40名いる。営業を担当している正社員Bは、当初はA社の指示に従っていたものの、以下に述べるとおり、次第にA社の指示に従わなくなってきた。A社は、Bに対し、新規営業をもっと積極に行わなければ人事部に異動させる可能性があると言ったところ、「俺は営業職で入ったから嫌だ」、「給料以上の仕事はやりたくない」などと述べた。また、A社は、Bに対し、Bが果たして営業活動を行っているのか疑念を抱いたため、同行指導をすると述べたが、Bはこれを拒否した。A社はBに退職勧奨をしたところ、Bは退職することを拒否した。やむをえずA社がBを解雇したところ、Bは労働組合に加入し、解雇撤回を求めてきた。 |
まずこのような事案では、労働組合は当初の段階では、必ず解雇を撤回しろと言います。
特に第1回の団体交渉は解雇の撤回を求めることしか言わない場合が多いです。
しかし、労働組合は、2回目の団体交渉になると「いろいろな解決方法がある」とか「早期解決を図りたい」などと述べて、金銭解決をほのめかしてきます。
このような場合は、金銭解決が可能な事案であるといえます。
一方、2回目の団体交渉になっても、「解雇を撤回しろ」と述べる場合は要注意です。
本当に組合員が職場復帰にこだわっている可能性が高いので、会社が解雇撤回を拒んだ場合は、話し合いで解決することは不可能となり、訴訟になる可能性が高くなります。
最近は不況の影響なのか、解雇の事案で職場復帰にこだわる事例が増えました。
職場復帰にこだわる場合は、訴訟に移行し、深刻な紛争に発展することがあります。金銭解決が可能か否か、早期に見極めることは非常に重要です。
こう言うと身も蓋もないかもしれませんが、ほとんどの解雇事案は訴訟になっても勝てません。
解雇規制が厳しいからです。労働組合も、引き受けた解雇事案について解雇が無効となる可能性が高いと見通しを立てています。
金銭で解決するにしても、ある程度共通の認識がないと和解することはできません。
つまり、会社が解雇は絶対有効であると思い込んでいるのであれば、解決金の水準も相当労働組合との間で開きがあり、その開きはなかなか埋まりません。
そのため、早期解決のためには、訴訟になってもなかなか解雇は有効と認めてもらえないことを依頼者に理解して貰う必要があります。
とはいえ、会社は少しでも多く有利な事実を主張して、団体交渉を行なうべきです。
特に普通解雇の場合は、解雇理由を追加、変更することができます。解雇後にわかった事実を追加してもよいのです。
たとえば、他に上司の指示に従わなかった事実はなかったか、日報に虚偽の記載をしていないか、金銭の不正行為はなかったかなどを大急ぎで調査して、調査結果を団体交渉で主張するべきです。
先の事例では、調査の結果、解雇後に金銭の不正行為が発覚し、解雇理由に追加することができました。
解雇問題を金銭により解決する場合、当然のことながら、具体的な解決金の数字を相手方に提示しなければなりません。
私の経験からしますと、労働組合はなかなか金額を提示しません。
理由はよくわかりませんが、会社が解決金の金額を提示しているだけで、労働組合が解決金の金額を提示しない場合は、解決金はどんどん釣り上がって行くことになります。
やはり、会社としては、労働組合にも早期に解決金の金額を提示するように要求するべきです。
労働裁判では、客観性の高い証拠しか意味を持ちません。裁判所は言った言わないレベルの話には興味がありません。
したがって、解雇後であっても、会社が客観性の高い証拠を探す必要があります。
メール、メモ、ノート、手帳などが残されていないか探す努力をすれば、思わぬ証拠が見つかることがあります。
設例の事案では、社員Bは解雇勧告を受けた後、労働組合に加入しましたが、解雇前、すなわち退職勧奨直後に労働組合に加入した場合はどうしたらよいでしょうか?
このケースでは、解雇する前に労働組合が団体交渉を申し入れることが想定されますが、受けるべきか受けずに解雇を強行すべきか、悩むところだと思います。
中には団体交渉開催前に解雇を強行する会社もありますが、これは避けるべきです。解雇をするにしても、団体交渉を開催して、解雇理由について協議した上で解雇するべきです。
会社が団体交渉を行わず解雇を強行した場合は、裁判所の心証は相当悪いと考えたほうがよいと思います。
むしろ、解雇を有効と認めてもらうために、団体交渉を積極的に開催するべきです。
解雇前であっても、労働組合に金銭を支払い合意退職してもらうよう提案することは可能ですし、むしろ行なうべきであると思います。
裁判所は、なるべく解雇は最後の最後に行なうべきであると考えています。会社は、解雇を避けるために努力をするべきです。
解雇が有効となるか、無効となるかわからないのであれば、解雇を行ってもよいと思いますが、無効となるのが明らかであるのに解雇をするのは得策ではないと思います。
その代わり、会社はこれまでの非違行為を文書にまとめて、警告文書を作るなどして、次に非違行為を行った場合は解雇をできるようにするなどの努力をしたほうがよいと思います。
団体交渉の解決事例として、当事務所では以下のようなものがございます。
どのようにして弁護士と共に、団体交渉に際して生じるトラブルを解決するのかのご参考にしてください。
また、労働問題で起きる代表的なトラブルや弁護士に相談すべき理由について解説した記事もございますので、ぜひご一読ください。
団体交渉については本記事でも記述したように気を付けなければいけない点が多く、労働組合側は主張を通すために専門家に相談するなど周到に準備してくることもあります。
団体交渉に不慣れな場合や有利に進めたい場合には、弁護士に相談することが重要です。
弁護士であれば、団体交渉の場に同行し、交渉の代理人として立ち合いも可能です。
当事務所でも団体交渉に対応しており、以下のような料金体系で対応を承っております。
また、団体交渉を含め労働法分野で、社会保険労務士の先生方のお手伝いをさせて頂いております。
団体交渉 |
月10万×3ヵ月 から |
日当 |
弁護士人数によらず、10万円/回 |
団体交渉についても、当事務所は社労士の先生からのご紹介によるご依頼も多数引き受けており、社労士の先生方が手に負えないようなハードな組合問題も多数経験しております。
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この記事の監修者:向井蘭弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
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