未払い残業代: 対応事例2

「年俸制は残業代を支払わなくて良い」は誤り?

飲食業B社(店舗数約10)は、訴訟外で任意に退職者に未払い残業代を支払ったところ、それを聞いた複数の退職者が立て続けに残業代を請求するようになりました。

B社社長は、在籍者が退職する度に残業代を請求した場合、会社が倒産するのではないかと恐怖を覚えました。

この段階で、B社社長とB社の顧問社労士の先生が私の所に相談にみえました。

 

対応策の考え方

退職者が続けざまに未払い残業代を請求する場合は、未払い残業代を受け取った退職者が他の退職者に未払い残業代を受け取った経緯を話している(と思われる)場合がほとんどです。

合意書で守秘義務条項を設けても、守らない場合がほとんどですし、未払い残業代請求が守秘義務条項違反により起きたものか立証は困難です。

情報は漏れるものとして対応する必要があります。

要するに、会社のこれまでの対応が原因になっています。

思ったよりも楽に未払い残業代がもらえることが分かれば、他の退職者も未払い残業代を請求します。

会社の未払い残業代請求に対する対応を変える必要があります。

また、退職者が続けざまに未払い残業代を請求する場合は、一定の人間関係をもとにしている場合がほとんどです。

裏返して言えば、人間関係が届かない範囲では未払い残業代請求は起きにくいものです。

 

実際の対応

私は、B社社長から事情を聞きました。

一番初めに未払い残業代を請求した元社員がB社社長に退職時にトラブルを起こしていたことを聞きました。

また、未払い残業代を請求する元社員は、特定の店舗出身者に偏っていることが分かりました。

私は、今回の請求は、一番初めに未払い残業代を請求した元社員グループによるものであり、他の店舗の元社員が未払い残業代を請求する可能性は少ないのではないかとアドバイスをしました。

また、B社は、訴訟を避けるため、タイムカードで管理していない元社員について任意で未払い残業代を支払っていましたが、勤務実態をみると元社員のいう勤務実績と実態が異なる可能性があるため、任意で元社員の言い分のとおりの未払い残業代を必ずしも全て支払う必要は無く、争うべき点は争い、場合によっては訴訟も覚悟した方がよいとアドバイスをしました。

訴訟で争うことは何ら違法なことではありません。

私は、正式に代理人として受任し、元社員の方の請求に対し様々な反論を行い、結果として訴訟になりました。

訴訟になったところ、追加の請求を行う元社員はあらわれなくなりました。

訴訟は和解で解決しましたが、解決するまでに私が受任してから1年以上経過しておりました。

結果として、会社の主張はあまり通らず、和解金を支払うことになりましたが、何とか労使トラブルに歯止めを掛けることができたのではないかと思います。

 

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この記事の監修者:向井蘭弁護士


護士 向井蘭(むかい らん)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)

【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数

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