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運送業は、遠隔地までトラックを運転して荷物を届けることに加え、現地でも待機時間が発生すること等があるため、その性質上、恒常的に拘束時間(実労働時間と休憩時間を合わせた時間)が長くなりやすい業種といえます。
しかも、運送業は事業場を離れ遠隔地を回って集配を行うという性質上、使用者がドライバーの行動を完全に把握することが困難であり、使用者から待機時間に休憩時間が含まれているということを主張しようとしたときに、いつどこでどれだけ休憩できたか、具体的に明らかにしにくいという問題も抱えています。
したがって、運送業は、ドライバーの労働者から残業代請求を受けたときに、長時間の労働時間を認定されやすく、他の業種と比べて残業代請求の金額が高額になりやすい業種といえます。
本ページでは、弁護士が、特に待機時間を中心に運送業における残業代請求にどのように対応をするべきかについて解説いたします。
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目次
手待ち時間とは、現実に作業に従事はしていないが、使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならず、労働からの開放が保障されていない時間のことをいいます。
この時間は使用者の指揮命令下におかれている時間として、労働時間との評価をうけます。
運送業では、荷先ないし配送先の都合や配送時間の関係、先のトラックが荷積荷卸を完了するまで順番待ちをする必要がある等で、トラックを現場やその付近において待機させなければならないことがあるため、待機時間が恒常的に発生しやすく、またそれが長時間におよぶことも少なくありません。
そのため、運送業の未払い残業代請求の事案では、現地等での待機時間が、労働時間(手待ち時間)と休憩時間のいずれに当たるかという点がよく問題になります。
待機時間が手待時間にあたるかどうかについて、裁判所がどのように判断しているのかの参考として、次の裁判例を紹介したいと思います。
ドライバーの待機中の様子を詳細に分析をして、労働時間性を認定していることがみてとれます。
【横浜地裁相模原支部判平26・4・24判時2233号141頁―待機時間の労働時間性を肯定した例】
・(1回目の積込現場の待機の様子)「原告らは,…トラックを停車させる場所は出荷場へ向かう行列の途中であるから,行列が前に進む毎に自分の運転するトラックも前進させなければならず,そのため,原告らは,トラックを離れることはでき…ない。原告らは,伝票を受け取って自身のトラックに戻ると,荷物の積み込みのための移動をトラック内で待つことになるが,荷物の積み込みの開始される時刻は概ね午前7時とされているものの,必ずしもその時刻に積み込みが開始されるものではない。」
・(2回目の積込現場の待機の様子)「…荷物は五月雨式に出てくる上,出荷場には,4台ないし7台の被告のトラックが同数の従業員とともに待機しているほか,被告以外の運送会社のトラックも20台程度待機していることから,プラットホーム…上に荷物が滞留し,他の運送会社に迷惑をかけることがないようにするため,原告らは,荷出し担当者が出してきた荷物を即時に受け取り,自分のトラックに運ぶ作業をする必要があり,そのため,原告らは,常に荷出し担当者に注目し,自分が担当する荷物が出て来た時は,遅滞なく自分のトラックに荷物を運び,また,自分以外の被告の従業員の担当する荷物が出て来た時にも,その荷運びやラップ作業等を手伝ったりしている。また,荷物をトラックに積み込んだ後も,原告らが扱う荷物が乳製品や冷凍食品であるから,原告らは,トラックの管理のほか,トラックの冷凍機等の温度管理を厳格に行うことを要求されている。」
・(配送先での待機の様子)「…原告らの配送先においては,荷下ろしのための駐車スペースがない所もあり,そのような場合,原告らは,一旦,配送先から離れ近くの国道の側道等にトラックを駐車させ,配送先からの連絡があるまでトラック内で待機することになるが,原告らは,いつ配送先からの連絡があるか分からない状態でトラックとその中の荷物を継続的に管理保管し続けなければならないため,トラックを離れることもできず,携帯電話を手放すこともできない。」
・「上記認定の原告らトラック運転手の労働実態に照らすと,出荷場や配送先における待機時間は,いずれも待ち時間が実作業時間に当たり,使用者である被告の指揮命令下に置かれたものと評価することができるものであり,その待機時間中に原告らがトイレに行ったり,コンビニエンス・ストアに買い物に行くなどしてトラックを離れる時間があったとしても,これをもって休憩時間であると評価するのは相当ではない。」
他方で、ドライバーの待機時間の労働時間性を否定した裁判例もあります(大阪地判平18・6・15労判924号72頁〔大虎運輸事件〕)。
この裁判例では、配送先で荷卸し作業が終了すると次の仕事の指示を受けるまで自由に過ごしていたこと(具体的には、食事の際には,飲酒することもできるし,パチンコをすることもあった)、被告から突然の指示が来ても,これに応じるか応じないかは,原告らの状況に基づき,原告らが自ら応諾するかしないかを判断することが許されていたこと等を認定して、待機時間帯は,被告の指揮命令下に置かれていたと評価することはできず,いわゆる手待ち時間とはいえず,労働時間には該当しないと判断しています。
使用者としては、現場等での待機時間において当該ドライバーが労働から開放されていたという点について、どこまで具体的に主張立証できるかがポイントとなります。
裁判例の傾向からすると、主張立証のポイントとなる項目としては、次のようなものが考えられます。
【積み下ろし現場での様子等】
(荷待ちの様子)
・配送物、集荷物の時間指定の有無
…時間指定があれば労働時間性が弱まり、時間指定がなくいつ呼ばれるか分からない状況であれば労働時間性が強まる。
・待機時間の有無、程度
…現場到着後にすぐに積込、荷卸しができるのであれば労働時間性が弱まり、ある程度待機が予定されているのであれば労働時間性が強まる。
・配送物、集荷物の種類
…危険物や高価物を積んでおり常時監視しなければいけないのであれば、労働時間性が強まる。また、冷凍物や冷蔵物等、トラックの冷凍機等の温度管理を厳格に行うことを要求されているのであれば、労働時間性が強まる。
・トラックの荷台に鍵をかけられるか
…荷台の鍵をかけられれば労働時間性が弱まり、荷台の鍵をかけられないのであれば労働時間性が強まる。
・待機中の場所
…現場や近隣のコンビニ、サービスエリア等の大型駐車場で待機できるのであれば労働時間性が弱まり、路上であれば労働時間性が強まる。
・配送先でのドライバー用休憩スペースの有無
…ドライバー用休憩スペースが用意されているのであれば労働時間性が弱まる。
・現場到着後の流れ
…荷積荷卸しのために列をなして微進行の状態であれば労働時間性が強まる。
・呼び出しや連絡があればすぐに対応しなければいけないか
…呼び出しや連絡があっても拒否したり、自分の都合の良いタイミングで対応すればよいのであれば、労働時間性が弱まる。すぐに対応しなければいけないのであれば労働時間性が強まる。
(その他)
・その他、当該ドライバーの独自の事情
…近隣のパチンコ屋で目撃されていた、配送業務終了後も近隣のコンビニの駐車場にトラックを止めて寝ていた等の事情があれば、労働時間性が弱まる。
上述したように、運送業の残業代請求の特徴は、どのような配送の動き方をしているのか、現場での待機の様子がどうか等、具体的な就労の実態が客観的に分かりにくい点にあります。
特に手待ち時間は「使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならず、労働からの開放が保障されていない時間」をいうところ、比較的緩やかに労働者側有利に認定されてしまいがちです。
このような判断基準を前提にした場合、使用者から具体的な事情や証拠に基づかない抽象的な反論をしても、労働時間性を否定することは難しいといえます。
そのため、使用者側からは、ドライバーが労働から開放されているという点について、証拠に基づいて具体的に主張していかなければなりません。
タコグラフ(運行記録用計器)とは、自動車の運転席に取り付けられる運行記録用計器であり、自動車の運行時間中の走行速度、瞬間速度、走行距離、エンジンの回転数、走行時間などの変化を記録し、自動車の運行状況を把握できるようにした計器のことをいいます。
特に、データを電気的に記録するデジタルタコグラフは、紙媒体のタコグラフよりもより詳細な情報が記録されるタイプのものが多く、例えば、運行時間中の走行速度、瞬間速度、走行距離、エンジンの回転数、走行時間などの他にも、急加減速検知・ドア開閉・GPSでの位置情報・実車と空車の走行区間・給油量などの記録が可能なものも存在しています。
タコグラフは、もともとは時間管理のためのものではありませんが、タコグラフの記録からは、速度、距離、時間(さらにデジタルタコグラフではGPSでの位置情報)などが明らかになるので、労働時間の管理・認定のための重要な手がかりになります。
ドライバー労働者からは、現場等での待機時間が手待ち時間であるとして、これを労働時間に含めて請求してくることがあるのは上述のとおりです。
使用者側からは、現場等での待機時間において当該ドライバーが労働から開放されていたという点について、どこまで具体的に主張立証できるかがポイントとなります。
具体的には、「待機時間の労働時間該当性のポイント」の各項目を意識しながら主張していくことが肝要です。
その際には、タコグラフの記録から読み取れる客観的な事情も踏まえて、主張を裏付ける形で立証ができるとより説得的な内容となります(例えば、GPSでの位置情報からは、待機位置が現場の駐車場付近なのか、近隣のコンビニなのか、路上なのか等が分かることがありますし、エンジンの回転数や走行距離の推移からは、待機中にずっと停車している状態なのか、車両が列をなして微進行している状態なのか等が分かる場合があります。)。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
まずはお気軽にお電話やメールでご相談ください。
【回答】 残っているタコグラフを参考に労働時間の実態を精査して、その結果から他の期間の労働時間を推認するという主張方法が考えられます。
実際の裁判においても、和解による解決を図る場合には一定期間分の労働実態をサンプルとして精査した上でこれを参考に他の期間も含めて解決金の調整をすることが珍しくありません。
【回答】 運送業の残業代請求の特徴としては、どのような動き方をしているのか、現場での待機の様子などが分かりにくい点にあります。
そのため、客観的な記録や写真をもちいてドライバーの就労の様子が分かるよう意識することが重要です。
例えば、不自然な停車時間を主張する場合等は、実際のデジタコの写しを用いて不自然な時間帯を色分けしたりして、停車中のどの時間帯について労働時間性を争っているか分かるように主張することが考えられます。
また、実際の現場の様子を視覚的に明らかにするために、トラックの停車位置をGoogle Mapsなどを用いて画像にしたり、トラック車内の様子を写真で撮影したり、現場の駐車場の様子を撮影することも考えられます。
【回答】 当該従業員からの残業代請求が、他の従業員に波及する可能性もあるということを意識して対応に望む必要があります。
当該従業員が在籍中のドライバーであるなど、他の従業員へ波及するリスクが高い事案では、安易に早期和解をすることなく、会社として主張するべきことはしっかりと主張するという姿勢で交渉に臨むことが肝心です。
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この記事の監修者:樋口陽亮弁護士
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