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会社様からよくいただくご相談のひとつに、「社員が業務指示に従わないのだけれども、どうしたらよいか」というものがあります。
社員の業務指示違反を放置することは、会社の業務に支障をきたすだけではなく、周囲の社員の業務を停滞させる、職場の雰囲気が悪くなるといった影響をもたらすため、早急な対応が必要です。
本コラムでは、業務指示に従わない社員への適切な対応方法をご紹介します。
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目次
会社と社員が労働契約を結ぶと、社員には労働契約に基づいて会社の指示に従った労働を誠実に行う義務が発生します。会社は、指示に従った労働に対してお給料を支払う義務を負います。
【図1】 業務指示と労働義務の関係
そのため、社員は業務指示にきちんと従わなければいけません。
業務指示に従わない行為は、労働契約の違反行為(=債務不履行)にあたります。
会社は、労働契約を結べばどんな業務指示もできるわけではありません。
業務指示は、業務の遂行にあたって必要な指示・命令に限られます。業務上の必要性がなく、指示の内容に合理性が認められない、または、不当な動機や目的が認められる業務指示は、違法なものとしてその効力が否定されます。
例えば、組合のマークが入っているベルトを着用して就労した社員に対して、就業規則の書き写しを命じた業務指示が教育訓練に関する業務指示(電電公社帯広局事件・最一小判昭和 61 年 3 月 13 日労判 470 号 6 頁)、視覚障害のある高校教員に対して、授業から外して教材研究だけをさせるような業務指示(学校法人須磨学園事件・神戸地判平成 28 年 5 月 26 日労判 1142 号 22 頁)は、違法なものとして効力が否定されています。
言い換えると、従業員は、業務指示に①業務上の必要性があり、②指示の内容が合理性を有し、③不当な動機や目的が無い場合には、その指示に従う必要があります。
では、社員が正当な業務指示に従わないとき、会社はどうすれば良いのでしょうか。
対応としては、まずは注意指導を行い、改善されなければ懲戒処分を行うというステップを経るというものが望ましいです。
解雇は、複数回の懲戒処分を経ても態度が改善されない場合、はじめて検討することになります。
【図2】会社の指示に従わない社員への対応ステップ
懲戒処分の有効性は、
(ⅰ)就業規則上に根拠があること
(ⅱ)懲戒事由に該当する事実があること(客観的合理性)
(ⅲ)懲戒処分が相当なものであること(社会的相当性)
の3点を満たす場合に認められます。
また、解雇の有効性は、(a) 解雇に客観的合理的理由があり、(b)社会通念上相当である場合に認められます。
注意指導をしないままいきなり懲戒処分や解雇をしてしまうと、本人に改善の機会を与えなかったとして、懲戒処分や解雇の相当性が否定される可能性があります。そのため、まずは注意指導を行い、本人に改善の機会を与える必要があります。
注意指導を行う際のポイントは以下のとおりです。
業務指示違反があった場合、その都度注意することが大切です。
違反行為から指導までに時間が空いてしまうと、社員側は「どうしていまさら注意指導をされたんだろう?」と思い、反発する可能性があります。
また、注意指導を重ねて懲戒処分や解雇に踏み切った場合に、裁判所からも「どうして注意指導まで時間が空いているのだろう?そこまで問題のある行為ではなかったのではないか」と思われてしまい、懲戒処分や解雇が重きに失すると判断される可能性もあります。
粘り強く、その都度注意していくことが大切です。
社員の業務指示違反は、労働契約の債務不履行であり、懲戒処分や解雇の客観的合理性を基礎づけるものです。
そこで、注意指導の際は、どのような指示に対してどのような指示違反があったのかを具体的に示す必要があります。
例えば、打ち合わせに遅刻したケースで、ダメな注意指導例・良い注意指導例を比べてみてみましょう。
【ダメな例】
●●さん、社会人として遅刻はしてはいけないことです。きちんとしてください。
ダメな例では、いつどこにどのくらい遅刻したか分からず、社員の業務指示違反行為が、どのくらい問題のある行為なのかが分かりません。
【良い例】
●●さんは、当社の顧客である●●会社との●月●日午前●時より顧客先で行われるMTGに出席して司会進行を行う予定でしたが、1時間遅刻して会場に到着しました。司会進行が不在のため、打ち合わせの時間全体が後ろ倒しになり、本日の議題の●●の点の検討ができませんでした。その結果、●●という影響が発生しました。遅刻によって顧客からの信頼を失うことになりますので、今後遅刻はしないようにスケジュールを確認する・手帳に書くなど徹底してください。
良い例では、遅刻した日時や遅刻の程度が具体的に特定されており、どのくらい問題のある行為なのかも分かりやすくなっています。また、社員の業務指示違反によって、会社がどのくらいの損害・影響を受けたのかも明確です。さらに、遅刻を改善するための具体的な方法も示されており、会社が社員に改善の機会を与えたことも分かります。
このように、業務指示違反の行為は具体的に特定する必要があります。特定の際には、5W1H(いつ、どこで、だれが、何を、なぜ、どのように)を意識すると良いでしょう。
注意指導が本人に改善の機会を与えるものであることは、先に述べた通りです。懲戒処分や解雇は注意指導を積み重ねて行われるものなので、注意指導は必ずメールやチャットなど記録に残る形で行う必要があります。また、業務指示違反が複数見受けられる場合は、注意指導書を交付することも有用です。
注意指導はあくまで業務指示違反に対して行うものです。注意指導を行う際は、ついつい熱が入ってしまいがちですが、社員の人格を非難する・名誉を毀損するような言動はパワー・ハラスメントに該当する可能性があるので、絶対にしてはいけません。
業務指示に従わない社員の対応は弁護士に相談すべき
以上のとおり、業務指示に従わない社員に対しては、まずは注意指導を行うことが大切です。注意指導は社員の業務態度の改善を目的とするものですが、方法を間違えると社員の態度が悪化してしまう、パワー・ハラスメントに該当してしまうこともあります。
そこで、業務指示に従わない社員への対応方法については、まずは弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
【回答】 業務指示違反の内容次第では、懲戒処分・退職勧奨を行うことも考えられます。
上述の記載は、日常的に発生する細かな業務指示違反を想定しています。
Q1のように1つの行為の悪質性が非常に大きいケースでは、その行為に対して懲戒処分や退職勧奨を検討することも可能です。
その際、違法・無効な懲戒処分や退職勧奨にならないように、弁護士に相談したうえで行うことをお勧めします。
【回答】 社員に対して、業務指示が正当なものであることを端的に示しましょう。
注意指導の際、社員の主張全てに反論する必要はありません。
業務指示に業務上の必要性・合理性があることを端的に示せば十分です。
それでもなお、社員が業務指示に従わない場合は、その態度に対して注意指導を行い、懲戒処分などを検討することになります。
社員は業務指示に従う義務を負います。
しかし、業務指示に従わないことをもって直ちに会社を辞めさせるという発想は危険です。
まずは注意指導を繰り返し、社員の勤務態度の改善を図る必要があります。
それでもなお態度が改善されない場合にはじめて、解雇・退職勧奨を検討することになるでしょう。
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この記事の監修者:中村景子弁護士
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