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皆さんは「解雇」と「退職勧奨」の違いはどのような点にあるか説明できますか。
問題従業員への対応として用いられることがある「退職勧奨」も、「解雇」との違いを正しく理解していないと、思いもよらないトラブルに発展するおそれがあります。
また、退職勧奨も、従業員が明確に拒否しているにもかかわらずしつこく退職を迫る等、方法を誤ってしてしまうと、違法な退職強要であるとして慰謝料の支払いを命じられてしまったり、後から退職が無効と判断されるおそれがあります。
本ページでは、弁護士が、「退職勧奨」と「解雇」の違い、退職勧奨の方法について解説いたします。
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目次
退職勧奨の方法について定めた法律はありません。
もっとも、過去の裁判例(日本アイ・ビー・エム(退職勧奨)事件、東京地判平成23年12月28日、労働経済速報2133号3頁)において、以下の判断が示されています。
「退職勧奨は,勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。
したがって,使用者は,退職勧奨に際して,当該労働者に対してする説得活動について,そのための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使用者による正当な業務行為としてこれを行い得るものと解するのが相当であり,労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて,当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり,又は,その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって,その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず,そのようなことがされた退職勧奨行為は,もはや,その限度を超えた違法なものとして不法行為を構成することとなる。
すなわち、退職勧奨は態様によっては、不法行為にあたると認定され、会社が従業員に対し損害賠償責任を負う可能性があります。
また、過去の裁判例では、退職勧奨に基づいてなされた退職の意思表示が無効と判断された場合もあります。
以下では、退職勧奨が違法と認められた裁判例、退職勧奨に基づく退職の意思表示が無効と判断された裁判例の一例をご紹介いたします。
①事前の注意指導
問題従業員に対し退職勧奨を行うような場合には、事前に、本人の問題点について注意指導を行っていない中で突如、退職勧奨を行ってしまうと、本人に自身に問題点があるという自覚がない中で会社から退職を促される状況となります。
本人に自身に問題点があるという自覚がない中では、なぜ自分が退職勧奨を受けなければならないのか納得できず、むしろ会社が理不尽に嫌がらせで退職勧奨を行っていると感じて、会社側への反感を強める要因になり、退職勧奨を拒否される確率が上がるおそれがあります。
そのため、問題従業員に対し退職勧奨を行うような場合には、事前にある程度時間をかけて、問題点について注意指導を行っていただくことが望ましいです。
②退職条件の検討
退職勧奨を行う場合には、合意退職に応じる場合の条件についても提示した方が、対象者が退職勧奨に応じる確率は上がります。
例えば、一時金として月額賃金の何か月分かを退職金とは別に支給する、一時金として年次有給休暇の残日数に相当する金額を支払う、退職日を少し先の日付としたうえで退職日までの就労を免除しつつ賃金は満額支払う(退職日まで働かなくても通常どおりの賃金がもらえるうえ、その間を再就職活動に利用できるという意味で対象者にメリットがある条件になっています)といった条件が考えられます。
退職条件については、口頭で説明するだけでは対象者が理解できず、会社の意図が正確に伝わらないことも考えられます。
そのため、「退職合意書」等の退職の条件をまとめた書面を作成のうえ、退職勧奨の面談当日に対象者に手渡すことが望ましいです。
①退職勧奨の回数
対象者が明確に退職には応じないと言っているにもかかわらず退職勧奨を続けてしまうと違法な退職勧奨となるおそれがありますので、その場合にはこれ以上の退職勧奨は中止していただく必要があります。
また、退職勧奨の回数が多くなれば多くなるほど、退職に応じるまで退職勧奨を続けるというような心理的な圧力がかけられていたとして違法な退職勧奨と認められやすくなります。
そのため、退職勧奨は何回も継続して行うのではなく、一回勝負のものと考えて臨んでいただいた方がよいでしょう。
②退職勧奨の時間数
1回の退職勧奨の面談時間数があまりに長時間であると、対象者に退職に応じるまで面談を終了させないという心理的圧力がかけられていたと評価され、違法な退職勧奨と認めれやすくなります。
基本的には、退職勧奨の面談は、数十分、長くても1時間以内で行っていただくのがよいでしょう。
③退職勧奨の会社側の参加人数
会社側があまりに大人数で退職勧奨の面談に参加してしまうと、これも対象者を心理的に圧迫していたと評価される要因の1つになり得ます。
その他の事情とも相まって違法な退職勧奨と判断されるおそれがあります。
そのため、退職勧奨の面談は、会社側の参加者は2名程として行っていただくのがよいかと思います。
④退職勧奨における具体的な言動
「2」においてご紹介した裁判例のように、退職しなければ解雇する等と発言してしまうと、対象者が退職を申し出たとしても後に退職は無効と判断されるおそれがあります。
そのため、退職勧奨を行う際は、退職勧奨に応じなければ解雇や懲戒処分等が行われると誤解させるような言動を行わないようにご注意いただく必要があります。
また、退職勧奨を行う際には、退職勧奨に応じるかどうかは本人の自由であること、解雇ではないことは明確に伝えていただいた方がよいです。
会社側からすると、退職勧奨に応じるかどうかは本人の自由であると伝えてしまうと退職勧奨に応じてこないのではないかと不安に思われる方もいらっしゃるかと思います。
もっとも、退職勧奨に応じるかどうかが本人の自由であるということを明確に伝えていないと、仮に退職の申出がなされて退職したとしても、事後的に対象者から、自分には退職以外の選択肢はないと誤解して退職を申し出てしまったのであるから退職は無効であると主張され、紛争に発展するおそれがあります。
そのため、退職勧奨に応じるかどうかは本人の自由であるいう点は明確に伝えていただいた方がよいでしょう。
トラブルに発展した場合には、退職勧奨の面談において、会社側からどのような言動があったかが問題になることが非常に多いため、言った言わないの状況になることを避けるためにも、退職勧奨の面談については録音していただいた方がよいです。
対象者が退職勧奨に応じると回答した場合には、会社と対象者との間で「退職合意書」を取り交わして、合意によって退職することや、退職日、離職理由(会社都合による合意退職であること)等を明確にする必要があります。
また、事後的に対象者から損害賠償請求や残業代請求を受け、トラブルに発展することを避けるために、会社と対象者との間で何らの債権債務関係がないことを確認する条項を「退職合意書」に盛り込んだ方がよいです。
「退職合意書」については、事案によって条項として盛り込むべき内容も異なるため、「退職合意書」の作成にあたっては弁護士に相談のうえ、作成することが望ましいかと思います。
以上で述べたとおり、退職勧奨を行うにあたっては事前の入念な準備が必要となる他、退職勧奨の方法についても、後に違法と判断されたり、退職が無効と判断されないように注意を払う必要があります。
本ページでは、一般的な退職勧奨を行う際の事前準備の方法、注意点をご紹介しましたが、実際には、事案に応じて、より細かな対応が必要となる場合もあります。
そのため、後から違法な退職強要と判断されたり、退職が無効と判断されないように退職勧奨を行う、効果的な退職勧奨を行うためには、退職勧奨を行う前の段階から、弁護士に相談し、事案に応じたアドバイスを受けることが効果的です。
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【回答】 従業員自らが解雇してほしいと申し出ている場合でも、解雇にすべきではありません。
退職勧奨を行ったところ、従業員が自ら「解雇にしてほしい」と言い出すことは珍しくはありません。
もっとも、そのように言っている場合に会社が解雇としてしまうと、後日、この従業員から、弁護士名で、解雇は無効であるから直ちに復職を求めるという通知書が届き、紛争となってしまいます。
そのため、従業員が「解雇にしてほしい」と言ってきた場合にも、会社として解雇する考えはないことを明確に伝えたうえで、合意退職に応じるかどうかを検討するように求めるのがよいです。
【回答】 男女雇用機会均等法において、女性労働者が妊娠したこと、出産したことを理由に「不利益な取扱い」を行ってはならないと定められており(同法第9条3項)、この「不利益な取り扱い」には退職を強要することも含まれています。
妊娠中の女性従業員に対し退職勧奨を行うこと自体が直ちに違法となるわけではありませんが、退職勧奨の態様によっては違法な退職強要にあたるおそれがある他、マタニティーハラスメントにあたるおそれもあります。
そのため、妊娠中の女性従業員に対し退職勧奨を行うかについては、弁護士に相談のうえ、慎重に判断していただいた方がよいです。
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この記事の監修者:梅本茉里子弁護士
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