従業員に退職勧奨する方法

いきなりの解雇は危険!?悩ましい問題社員への対応方法

皆さんは「解雇」と「退職勧奨」の違いはどのような点にあるか説明できますか。

問題従業員への対応として用いられることがある「退職勧奨」も、「解雇」との違いを正しく理解していないと、思いもよらないトラブルに発展するおそれがあります。

また、退職勧奨も、従業員が明確に拒否しているにもかかわらずしつこく退職を迫る等、方法を誤ってしてしまうと、違法な退職強要であるとして慰謝料の支払いを命じられてしまったり、後から退職が無効と判断されるおそれがあります。

本ページでは、弁護士が、「退職勧奨」と「解雇」の違い、退職勧奨の方法について解説いたします。

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1. 「解雇」と「退職勧奨」の違い

  1. 「解雇」と「退職勧奨」は、従業員が退職するという点では同じですが、法的な意味は全く異なります。
    まず、「解雇」は、使用者(会社)が一方的に従業員を退職させることを意味します。
    「一方的」に従業員を退職させるため、当然のことながら「解雇」には従業員の同意は必要ありません。
    他方で、「退職勧奨」は、使用者(会社)が従業員に対し退職を勧めることを意味します。
    あくまで、退職を勧めるだけですので、退職するかどうかは従業員が決めることになります。
  2. このように「解雇」と「退職勧奨」は法的な意味合いは全く異なりますが、離職票に記載する離職理由は、どちらも「事業主の都合による離職」となります。
    なお、従業員が退職勧奨に応じて退職することになった場合、離職証明書では、「4 事業主からの働きかけによるもの」「(3)希望退職の募集又は退職勧奨」「②その他」の欄に「退職勧奨による合意退職」と記載することになります。
    従業員が退職勧奨に応じて合意によって退職する場合も、離職理由は会社都合となりますので、キャリアアップ助成金等の雇用関係の助成金を受給している会社については退職勧奨によって従業員が退職した場合に、その後の助成金の受給に影響が出ることになりますので、注意が必要です。

2. 裁判例上、退職勧奨が違法もしくは退職勧奨に基づく退職が無効と判断された場合

退職勧奨の方法について定めた法律はありません。

もっとも、過去の裁判例(日本アイ・ビー・エム(退職勧奨)事件、東京地判平成23年12月28日、労働経済速報2133号3頁)において、以下の判断が示されています。

「退職勧奨は,勧奨対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の自由な意思に委ねられるべきものである。

したがって,使用者は,退職勧奨に際して,当該労働者に対してする説得活動について,そのための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使用者による正当な業務行為としてこれを行い得るものと解するのが相当であり,労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて,当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり,又は,その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって,その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず,そのようなことがされた退職勧奨行為は,もはや,その限度を超えた違法なものとして不法行為を構成することとなる。

すなわち、退職勧奨は態様によっては、不法行為にあたると認定され、会社が従業員に対し損害賠償責任を負う可能性があります。

また、過去の裁判例では、退職勧奨に基づいてなされた退職の意思表示が無効と判断された場合もあります。

以下では、退職勧奨が違法と認められた裁判例、退職勧奨に基づく退職の意思表示が無効と判断された裁判例の一例をご紹介いたします。

  1. 全日本空輸(退職強要)事件(大阪地判平成11年10月18日、労判772号9頁)
    航空会社にキャビンアテンダントとして勤務していた従業員が、通勤途中の事故によってけがを負い休職していました。この従業員が、復職にあたって会社と面談を行う中で、会社から違法な退職勧奨を受けたと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案です。
    裁判所が認定した事実によると、会社はこの従業員との間で、約4か月間で30数回も面談や話し合いを行って退職を促しており、その中には面談時間が約8時間にもわたるものもありました。また、面談の中で、上司が、「CAとしての能力がない」、「別の道があるだろう」、「寄生虫」、「他のCAの迷惑」等と述べた他、大声を出したり、机をたたくなどしていました。
    このような退職勧奨の態様について、裁判所は、「その頻度、各面談の時間の長さ、原告に対する言動は、社会通念上許容しうる範囲をこえており、単なる退職勧奨とはいえず、違法な退職強要として不法行為となると言わざるを得ない。」と述べて、会社に慰謝料50万円の支払いを命じました。
  2. 昭和電線電纜事件(横浜地川崎支部判平成16年5月28日、労判878号40頁)
    会社は、勤務態度が思わしくない従業員に対し退職勧奨を行い、この従業員は、会社からの退職勧奨に応じて、退職手続に関する申請書を提出し、合意によって退職しました。
    もっとも、後日、この従業員は、会社が退職勧奨の際、解雇する、解雇がいやであれば自己都合退職をして欲しい等と述べたと主張し、自分は、会社の話を聞いて自己都合退職をしなければ会社から解雇されるものと誤信し退職を申し出たのであるから退職の意思表示は錯誤によって無効であると述べて、会社との間で雇用契約が存在していることの確認を求めて裁判を起こしました。
    裁判所が認定した事実によると、退職勧奨の場で、会社はこの従業員に対し、退職してもらうという選択肢しかないこと、自分の意思で退職するのであれば規定の退職金に3か月分の給与を加算すること、自分から退職する意思がないということであれば解雇の手続をすることになること、どちらを選択するか自分で決めて欲しいということを伝えていました。
    裁判所は、まず、この従業員の勤務態度に非難の余地があることは認めつつも、解雇事由があるとまでは言えないと判断しました。
    そのうえで、裁判所は、この従業員が退職の意思表示をした時点で、解雇事由は存在しなかったにもかかわらず、会社の発言によって、解雇が確実であり、これを避けるためには自己都合退職をする以外に方法がないと誤信した結果,退職合意承諾の意思表示をしたと認めるのが相当であると述べて、退職の意思表示は無効であると判断されました。

3. 退職勧奨の注意点

「2」においてご紹介した過去の裁判例の判断等を踏まえると、退職勧奨を行う際には、特に以下の点にご注意いただく必要があるといえます。

(1)退職勧奨の事前準備に関する注意点

①事前の注意指導

問題従業員に対し退職勧奨を行うような場合には、事前に、本人の問題点について注意指導を行っていない中で突如、退職勧奨を行ってしまうと、本人に自身に問題点があるという自覚がない中で会社から退職を促される状況となります。

本人に自身に問題点があるという自覚がない中では、なぜ自分が退職勧奨を受けなければならないのか納得できず、むしろ会社が理不尽に嫌がらせで退職勧奨を行っていると感じて、会社側への反感を強める要因になり、退職勧奨を拒否される確率が上がるおそれがあります。

そのため、問題従業員に対し退職勧奨を行うような場合には、事前にある程度時間をかけて、問題点について注意指導を行っていただくことが望ましいです。

②退職条件の検討

退職勧奨を行う場合には、合意退職に応じる場合の条件についても提示した方が、対象者が退職勧奨に応じる確率は上がります。

例えば、一時金として月額賃金の何か月分かを退職金とは別に支給する、一時金として年次有給休暇の残日数に相当する金額を支払う、退職日を少し先の日付としたうえで退職日までの就労を免除しつつ賃金は満額支払う(退職日まで働かなくても通常どおりの賃金がもらえるうえ、その間を再就職活動に利用できるという意味で対象者にメリットがある条件になっています)といった条件が考えられます。

退職条件については、口頭で説明するだけでは対象者が理解できず、会社の意図が正確に伝わらないことも考えられます。

そのため、「退職合意書」等の退職の条件をまとめた書面を作成のうえ、退職勧奨の面談当日に対象者に手渡すことが望ましいです。

(2)退職勧奨のための面談における注意点

①退職勧奨の回数

対象者が明確に退職には応じないと言っているにもかかわらず退職勧奨を続けてしまうと違法な退職勧奨となるおそれがありますので、その場合にはこれ以上の退職勧奨は中止していただく必要があります。

また、退職勧奨の回数が多くなれば多くなるほど、退職に応じるまで退職勧奨を続けるというような心理的な圧力がかけられていたとして違法な退職勧奨と認められやすくなります。

そのため、退職勧奨は何回も継続して行うのではなく、一回勝負のものと考えて臨んでいただいた方がよいでしょう。

②退職勧奨の時間数

1回の退職勧奨の面談時間数があまりに長時間であると、対象者に退職に応じるまで面談を終了させないという心理的圧力がかけられていたと評価され、違法な退職勧奨と認めれやすくなります。

基本的には、退職勧奨の面談は、数十分、長くても1時間以内で行っていただくのがよいでしょう。

③退職勧奨の会社側の参加人数

会社側があまりに大人数で退職勧奨の面談に参加してしまうと、これも対象者を心理的に圧迫していたと評価される要因の1つになり得ます。

その他の事情とも相まって違法な退職勧奨と判断されるおそれがあります。

そのため、退職勧奨の面談は、会社側の参加者は2名程として行っていただくのがよいかと思います。

④退職勧奨における具体的な言動

「2」においてご紹介した裁判例のように、退職しなければ解雇する等と発言してしまうと、対象者が退職を申し出たとしても後に退職は無効と判断されるおそれがあります。

そのため、退職勧奨を行う際は、退職勧奨に応じなければ解雇や懲戒処分等が行われると誤解させるような言動を行わないようにご注意いただく必要があります。

また、退職勧奨を行う際には、退職勧奨に応じるかどうかは本人の自由であること、解雇ではないことは明確に伝えていただいた方がよいです。

会社側からすると、退職勧奨に応じるかどうかは本人の自由であると伝えてしまうと退職勧奨に応じてこないのではないかと不安に思われる方もいらっしゃるかと思います。

もっとも、退職勧奨に応じるかどうかが本人の自由であるということを明確に伝えていないと、仮に退職の申出がなされて退職したとしても、事後的に対象者から、自分には退職以外の選択肢はないと誤解して退職を申し出てしまったのであるから退職は無効であると主張され、紛争に発展するおそれがあります。

そのため、退職勧奨に応じるかどうかは本人の自由であるいう点は明確に伝えていただいた方がよいでしょう。

トラブルに発展した場合には、退職勧奨の面談において、会社側からどのような言動があったかが問題になることが非常に多いため、言った言わないの状況になることを避けるためにも、退職勧奨の面談については録音していただいた方がよいです。

4. 対象者が退職勧奨に応じた場合の進め方

対象者が退職勧奨に応じると回答した場合には、会社と対象者との間で「退職合意書」を取り交わして、合意によって退職することや、退職日、離職理由(会社都合による合意退職であること)等を明確にする必要があります。

また、事後的に対象者から損害賠償請求や残業代請求を受け、トラブルに発展することを避けるために、会社と対象者との間で何らの債権債務関係がないことを確認する条項を「退職合意書」に盛り込んだ方がよいです。

「退職合意書」については、事案によって条項として盛り込むべき内容も異なるため、「退職合意書」の作成にあたっては弁護士に相談のうえ、作成することが望ましいかと思います。

5. 退職勧奨を行う前に弁護士に相談するべき理由

以上で述べたとおり、退職勧奨を行うにあたっては事前の入念な準備が必要となる他、退職勧奨の方法についても、後に違法と判断されたり、退職が無効と判断されないように注意を払う必要があります。

本ページでは、一般的な退職勧奨を行う際の事前準備の方法、注意点をご紹介しましたが、実際には、事案に応じて、より細かな対応が必要となる場合もあります。

そのため、後から違法な退職強要と判断されたり、退職が無効と判断されないように退職勧奨を行う、効果的な退職勧奨を行うためには、退職勧奨を行う前の段階から、弁護士に相談し、事案に応じたアドバイスを受けることが効果的です。

6. 退職勧奨には専門的な知識が必要です。まずは弁護士にご相談ください。

使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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7.よくある質問

Q1 従業員に退職勧奨を行ったところ、従業員から「それであれば解雇してほしい」と言われました。退職してくれるのであれば解雇してもよいかと考えていますが、解雇してしまってよいでしょうか。

【回答】 従業員自らが解雇してほしいと申し出ている場合でも、解雇にすべきではありません。

退職勧奨を行ったところ、従業員が自ら「解雇にしてほしい」と言い出すことは珍しくはありません。

もっとも、そのように言っている場合に会社が解雇としてしまうと、後日、この従業員から、弁護士名で、解雇は無効であるから直ちに復職を求めるという通知書が届き、紛争となってしまいます。

そのため、従業員が「解雇にしてほしい」と言ってきた場合にも、会社として解雇する考えはないことを明確に伝えたうえで、合意退職に応じるかどうかを検討するように求めるのがよいです。

Q2 妊娠による体調の変化により、以前行っていた業務を行うことができなくなっている従業員がいます。できれば退職してほしいと思っているのですが、退職勧奨することは問題ないでしょうか。

【回答】 男女雇用機会均等法において、女性労働者が妊娠したこと、出産したことを理由に「不利益な取扱い」を行ってはならないと定められており(同法第9条3項)、この「不利益な取り扱い」には退職を強要することも含まれています。

妊娠中の女性従業員に対し退職勧奨を行うこと自体が直ちに違法となるわけではありませんが、退職勧奨の態様によっては違法な退職強要にあたるおそれがある他、マタニティーハラスメントにあたるおそれもあります。

そのため、妊娠中の女性従業員に対し退職勧奨を行うかについては、弁護士に相談のうえ、慎重に判断していただいた方がよいです。

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この記事の監修者:梅本茉里子弁護士


梅本茉里子(うめもと まりこ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 梅本茉里子(うめもと まりこ)

【プロフィール】
慶應義塾大学法科大学院卒業。平成30年弁護士登録、杜若経営法律事務所入所。
使用者側(会社側)の人事労務問題(問題従業員対応、ハラスメント、未払残業代請求対応、労働組合・団体交渉対応、解雇紛争、雇い止め等)を専門に取り扱っている。
近年では、企業におけるハラスメント研修の講師も行っている。

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