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大きく分けて事業撤退には通常3種類がある。解散清算、持分譲渡、拠点移転である。
解散清算の場合は、労働契約法第44条第5号を根拠に人員削減をすることになる。具体的には使用者が営業許可証を取り消され、閉鎖を命じられ、取り消された場合又は使用者が事前解散を決定したことが要件となる。事業撤退の場合、実務では、使用者が事前解散を決定し、自ら会社を清算することが多い。
労働契約法第44条第5号によると、使用者が事前解散を決定した場合、労働契約が終了することになる。しかし、外商投資企業の場合、その意思決定機関(董事会や株主会)が外商投資企業の解散を決定したとしても、法的に所管の中国商務部門に申請して行政認可を取得する必要があるので、直ちに解散にならず、所轄の中国商務部門から解散認可を取得して初めて解散が認められる。
また、外商投資企業は所轄の中国商務部門から解散認可を取得した日から営業許可の抹消まで清算手続きを行わなければならないので、営業許可が抹消されるまで清算手続きを行う一部の従業員が必要である。
ところで、労働契約法第44条第5号は、使用者が事前解散を決定した場合に労働契約が終了すると定めているが、具体的に労働契約がどの時点で終了することになるか明確に定められていない。
上述の外商投資企業の場合では、労働契約の終了日は、①外商投資企業の意思決定機関が解散を決定した日、②所轄の中国商務部門から解散認可を取得した日、③清算委員会の設立日、④営業許可が抹消された日などが考えられているが、具体的にどの日になるか、中国の各地方の労働行政部門による解釈がそれぞれ異なっているので、実際に会社は解散清算による人員削減を行う際に現地の労働局に事前に確認しておく必要がある。
上述の問題について、上海や一部の地方では、労働契約の終了日は原則として所轄の中国商務部門から解散認可を取得した日であると解釈されているが、解散認可を取得した日から営業許可が抹消された日まで清算手続きを行う従業員の雇用関係が継続するのではないかという法的問題が生じ得る。
この点について、実際にある外商投資企業が解散清算を行う際に労働契約の終了を巡って労働争議となった上海の裁判例【(2010)浦民一(民)初字第15408号】があった。この裁判例では、裁判所は、該当労働者の業務内容からしてその業務内容が解散清算業務とは関連性のないものと考え、該当外商投資企業が商務部門から解散認可を取得した時点で労働契約が終了することを認めた。この裁判例からすると、労働者の業務内容を考慮要素にして労働契約終了の合法性を判断する点が今後の実務での重要な注意点になるが、個別事案で下された結論であるため、実務に対する影響はそれほど大きくないと考えられている。
上述のように、外商投資企業が解散清算を行うに際して従業員を解雇する場合、人員削減に関する法的問題点が多く生じるため、実務では労働者と協議して合意の下で労働契約の解除又は変更を行うことが一般的である。
労働契約法第33条によると、使用者が名称、法定代表者、主たる責任者又は投資家等の事項を変更することは、労働契約の履行に影響しない。従って持分譲渡により労働者の労働条件が変更されることはない。そのため、人員削減が問題になることは、理論上はない。しかし、以下の通り、実務上は人員削減が問題になることがある。
持分譲渡により経営者が交代するため、従業員が今後の労働条件維持に不安を持ち、集団で経済補償金請求を求めることがある。このような場合、法律上は経済補償金を支払う必要はないが、現場の混乱を収めるため金銭補償を行うこともある。
また、実務では、買い手側が従業員の一部(技術者など)しか譲り受けない、従業員が不要で資産(土地と建物)のみ譲り受けたいといったことがあるため、対象会社が持分譲渡に際して人員削減を行う場合もある。この場合、対象会社の法人格が抹消されず会社自体が存続することになるので、原則として労働契約法第41条に基づき人員削減を行うことになる。
拠点移転の場合、労働契約法第40条第3号を根拠に人員削減を行うことになる。
具体的には①労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となり、②使用者と労働者が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できなかったことが要件となる。
中国の場合、雇用契約は通常勤務地を限定して締結するため、使用者に配転命令権はない。そのため、配転拒否を理由として解雇することはできないはずだが、遠隔地への事業所移転など労働契約の履行が不可能といえるような場合は、使用者と労働者との協議を条件として人員削減(解雇)をすることができると定めている。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:向井蘭弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
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