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心情的には最初に従業員に撤退の事実を伝えたいところであるが、中国では取引先に先に撤退の事実、今後の生産の見通しを伝えるべきである。
そして、取引先にも優先順位をつけるべきであるし、取引先の担当者から情報が漏れることもままあるため、秘密保持対策を講じる必要がある。
たとえば、取引先の担当者ではなく、その日本人上司に伝えたほうがよい場合もある。
全面撤退の場合、特に工場では、撤退すると決まった時点で、多くの従業員が仕事をしなくなる。その結果、大量の商品が完成しないまま放置されることになり、取引先に迷惑を掛けることになり、場合によって取引先に多額な違約金を請求される可能性もある。
実務では、従業員側は、経済補償金を多く獲得するため、ストライキやボイコットなどの行為を起こして会社側を困らせるケースが最近多発している。
そのような事態が発生した場合に通常の取引先への供給体制が大きく崩れないように一定の期間は維持できる供給体制(在庫の拡充など)を事前に検討すべきである。
撤退の発表を従業員に行う時点で仕掛品や在庫が極力無くなるように調整する。
当然、一ヶ月から数ヶ月に渡り、少しずつ生産量が減少するので、従業員は異変に気づくことになるが、混乱を避けるためにはやむを得ない。撤退の発表をした後に資産やデータが破壊される可能性は皆無ではない。撤退発表前に資産やデータを移動、保管する必要がある。
また、現在、日系企業のリストラの話が話題に上る敏感な時期であるため、総経理(現地法人の社長)の動きが従業員に注目される。
撤退の打合せ、検討を行う際には、打合せの場所、情報共有対象者については、くれぐれも注意を払わないといけない。
例えば、打合せの場所は会社内ではなく、会社近所のホテル又は喫茶店でも行うことを検討する必要がある。又、弁護士に撤退及び人員削減に関する資料を郵送する場合、情報漏れを避けるため、通常業務と同じ一般の従業員に頼むのではなく、信頼できる従業員に依頼することを勧める。
また、撤退の発表を従業員に行うまで、従業員は異変に気づき総経理に直接質問してくることがある。
この場合、嘘を付くことや騒動を起こすような情報を流すことをなるべく避ける必要があり、事前に情報の流し方や想定問題への回答も考えるべきである。
撤退発表まで従業員の中でさまざまな噂が漂う敏感な時期があるので、従業員側を刺激しないように総経理や日本人スタッフの行動や発言及び本社と現地の日々の連絡などに注意を払う必要がある。
業績不振の説明をすることで却って余計に混乱する可能性がある。そもそも全面撤退も一部の人員削減も法的に業績不振の事前説明を要求していないし、仕事の量を減らすだけで充分地ならしの効果がある。従業員も生産量、在庫の減少等でおおよそのことを悟っている場合が多い。不安に思うかもしれないが、業績不振の説明はしないほうが良い。
全員に退職してもらうことより、一部の従業員に退職してもらう方がはるかに難しいと言われている。
日本であれば、一部事業部門を閉鎖するのであれば、希望退職募集に応募するか、遠隔地(多くは事業譲渡先である場合が多い)への配置転換や出向のいずれかを選ぶように示し、多くの従業員は希望退職募集に応募するため、それほど問題が起きないことが多い。
中国の場合は、そもそも希望退職募集を行うことが無いし、遠隔地への配置転換に応じる可能性がほとんどない(中国では会社の都合により転居を伴う転勤に応じることはまずない)ことから、日本式の人員削減がなじまない。
また、一事業部門の従業員を削減する場合でも、従業員全体が抗議の意を示し、事業所全体がストライキに突入する可能性もある。ストライキにより事業所全体がストライキに入ることも想定して、在庫や他事業所による生産バックアップを準備した上で、人員削減スケジュールを計画する必要がある。
そして、万一ストライキに突入することや従業員が労働局に問合せることも考えられるため、労働局の協力を得るために、企業所在地の労働局に事前に照会・情報共有することを勧める。
ただし、情報の漏洩等を防止するため、労働局への説明はあまり早く行う必要はない。現在、労働局の連絡先がネットで開示されることがあり、地元の従業員も現地労働局に知人がいることもあるので、従業員が労働局から情報を収集するための連絡ルートを確保することはそれほど難しくない。そのため、労働局への情報共有にも注意を払う必要がある。
また、労働契約法の第40条第3号によって、その事業に関わっている従業員を削減する場合、まず、会社は労働契約内容の変更につき、当該従業員達と協議を経なければならない。労働契約内容の変更につき合意に達することができない場合にのみ、会社は従業員に経済補償金を支払って、労働契約を解除することができる。
従って、労働契約内容の変更につき、協議を行い合意に至らなかった証拠(配転先の提案文書・協議の録音データ等)を書面にて残すことがとても重要である。
縮小しても業務を続ける場合は、人事総務・営業データを盗まれるなどの被害に遭う場合がある。
また、残った従業員の妨害に遭い、撤退のための資料(賃貸契約書)などが無くなってしまうことがある。
性悪説に立つわけではないが、撤退に当たって実際に被害が生じている事例があるため、最悪のケースを想定して行動しなければならない。機械を破壊されても証拠がなければ警察は操作をすることができないため監視カメラの設置は必須といえる。また、社印を悪用されて銀行預金を引き出された事例もあった。社印の確保などは必須といえる。
また、(4)と同じく、企業所在地の労働局に事前に照会することを勧める。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:向井蘭弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
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