近時の裁判例、紛争予防策

近時の裁判例、紛争予防策

上海市、北京市、江蘇省の無固定期間労働契約転換に関する裁判例の傾向は以下の通りである。上海市とその他の地域の取扱いが全く異なることが分かる。

上海市の裁判例の最近の傾向

①企業が二回以上固定期間労働契約を締結しても、労働契約自体は有効である。

②①の場合、労働者が無固定期間労働契約の締結を要求しても、企業は最後の労働契約を期間満了により終了させることができる。

③連続勤続期間が10年を超えた場合、企業が一方的に労働契約を期間満了により終了させることはできない。ただし、最近の上海の裁判例では連続勤続期間が10年を超えても企業による一方的な期間満了による労働契約終了を様々な理由で有効と解釈しているものが見受けられる。

北京市又は江蘇省の裁判例の最近の傾向

① 固定期間労働契約を数回更新しても労働契約自体有効であるが、企業は最後の労働契約を期間満了により終了させてはならない。

② 無固定期間労働契約の締結条件(2回以上締結もしくは連続勤続期間10年以上)に満たした従業員の労働契約を期間満了により終了させると違法解除になり、労働契約関係を回復させるか賠償金を支払うことになる。

③ 2回目以降の労働契約期間満了前、企業は無固定期間労働契約を締結する旨を従業員に十分告知したが、労働者が契約締結に応じない場合、企業は労働契約を終了させることができる。

今後の動向について

上海市以外の他の地方では、上海ルールを採用することが殆ど無く、上海市が事実上採用している上海ルールは労働契約法の主旨に反するとの意見もある。

中国政府は、労働者の権利保護を明確に打ち出しており、今後、最高裁の解釈で労働契約法第14条の適用に関する解釈を明確にするとの動きも出ている。今後の裁判例や通達に注目する必要がある。

紛争予防策

1 北京ルールが適用される場合、一回目の契約期間を3年以上とする

北京ルールの下では、契約更新を一度行なってしまえば、いずれ無固定期間労働契約を締結せざるを得なくなってしまう可能性が高くなる。
そのため、一度目の雇用契約期間を長めに設定し、二度目の雇用契約を締結するか慎重に判断する方法が考えられる。

一方で、長期間の固定期間労働契約を締結すると期間途中での解雇はなかなか難しいため、業務に適合しない従業員を長期間雇用しなければならなくなってしまう。

現在の労働契約法では期間3年以上の労働契約を締結する場合、試用期間を6か月とやや長めに設定できる。この場合、6か月という比較的長い期間の中で本人の適性を判断し、場合によっては試用期間途中・満了時に退職させることになる。試用期間途中・満了時の解雇も容易にできるものではないが、試用期間中の場合、本人との話し合いの中で合意退職を成立させやすいことは事実である。

2 契約期間の延長

固定期間労働契約を更新することで無固定期間労働契約締結のリスクが生じることから、現在の実務では、労働契約内容に労働契約期間の「自動延長」を予め約束しておくことや、労働契約期間を双方合意により途中で変更することなどにより、一度目の雇用契約期間を延長する等の対応策が取られている。

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この記事の監修者:向井蘭弁護士


護士 向井蘭(むかい らん)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)

【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数

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