休職と復職を繰り返す社員に対する解雇の可否

休職と復職を繰り返す社員に対する解雇の可否

休職制度は社員にとって非常に重要なものである一方、何度も休職と復職を繰り返す社員が現れると、企業としては人員の配置や業務の進捗管理などさまざまな問題に直面します。

経営者や人事担当者は、本音では解雇したいと感じることもあるでしょう。道徳的なジレンマに加え、法的な側面も複雑に絡む問題です。

本記事では、休職・復職を繰り返す社員に対する解雇の可否や、その際の注意点について解説します。

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1.増加するメンタルヘルス不調による休職者

メンタルヘルスの問題により休職・復職を繰り返す社員が増えるのは、経営者にとって重大な問題です。

厚生労働省が行う「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、平成30年の調査では連続1カ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は6.7%でした。

ところが令和3年の調査では8.8%に、令和4年の調査では10.6%にと、年々メンタルヘルス不調による休職者が発生する事業所の割合が増加しています。

 

2.休職・復職を繰り返す社員を解雇できるのか

メンタルヘルス不調により、休職と復職を繰り返す社員が企業に増えると、企業の成長や休職している社員を支える周囲の社員の健康が損なわれる可能性が高まります。

しかし、そもそも休職・復職を繰り返すことを理由として社員を解雇することは可能なのでしょうか。

(1)休職とは

休職とは、社員が労務に従事できない、または従事することが適当ではなくなった場合に、会社と社員の間の労働契約を存続させつつ、労務への従事を免除する制度です。

本来、社員がメンタルヘルス不調等で労務に従事できないのであれば、労働契約で約束した労務提供ができないのですから、労働者の債務不履行として労働契約を終了できるとも思えます。また、休職制度を会社が設けることについて法律的な義務はありません。

しかし、実際には多くの企業が就業規則にメンタルヘルス不調等で働けなくなった社員の休職制度(私傷病休職制度)を定めており、社員に一定の解雇猶予を与えています。

休職期間を満了後、社員が治癒せず、なおも労務に従事できない状態であれば、労働契約上の債務不履行として、労働契約が終了します。

この労働契約終了の方法は就業規則等の定め方によって異なりますが、多くの企業では、「休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合」は「解雇」または「退職とする」と規定されています。

いずれの規定の場合でも、休職期間を満了後、社員が治癒せず、なおも労務に従事できない状態であれば退職事由として有効であり、規定のされ方で判断に差は生じないと解されます。

ただし、就業規則上「退職する」と規定していれば休職期間満了後、当該社員については自動退職となりますが、「解雇する」と規定している場合、普通解雇の手続きを取ることになるので注意が必要です。

(2)休職期間満了に伴う退職か復職かの判断基準

休職していた社員が復職するには、休職の原因となった病気・ケガが「治癒」している必要がありますが、この「治癒」とは、原則として休職期間前に当該社員が行っていた業務に従事できることを基準とします。

ただし例外も存在します。

まず、例外の1つめは、社員が復職後、相当期間軽易な業務をすることで従前の業務に復帰できる場合です。

身体疾患によって社員が休職した場合、休職期間満了時に従前の業務に従事できない状態であっても、短期間軽易な他の業務に従事することで、従前の業務に復帰できるのであれば、そのような軽易業務を担当させる措置を取らずに当該社員を普通解雇することは使用者の信義則上の義務に反しているとして、解雇は無効とするのが裁判例の傾向です。(「エール・フランス事件」東京地判昭和59年1月27日等)。

つまり、社員を相当期間軽易な業務に就かせれば従前の業務に復帰できる状態であれば、使用者は休職期間満了後、直ちに社員を解雇するのではなく、まずは軽易な業務を担当させるなどの配慮が使用者側に求められているのです。

身体疾患の場合と比べると、メンタルヘルス不調等の精神疾患が原因で休職した場合、従前の業務に復帰できる期間の見通しを立てることは困難なことが多いでしょう。

しかし、精神疾患の社員の休職からの復帰についても、身体疾患の場合と同様の配慮を使用者に求める裁判例が存在します(「独立行政法人N事件」東京地判平成16年3月26日)。

したがって、精神疾患による休職から復帰しようとする社員の「治癒」の判断には、相当な期間による従前の業務への復帰可能性について、医師の意見等の医学的根拠による慎重な判断が求められます。

また、例外の2つめは、休職した社員の職務内容や職種に限定がない場合です。

裁判例は、労働契約上、職務内容や職種に限定がない社員については、休職期間満了時に従前の職務を行うことができなかったとしても、現実的に配置可能な他の業務があり、労働者がその職務に就労の意思を示している場合には、そのような業務へ就かせることを検討するよう求めており(「東海旅客鉄道事件」大阪地判平成11年10月4日)、そのような検討なく行われた解雇は無効となる可能性が高いです。

これは、職務に関する限定がない社員については、従前の職務を行える程度に回復していなかったとしても、現実的に配置可能な他の業務への就労を社員が希望する限り、使用者はその業務に就かせる配慮が求められているのです。

ただし、メンタルヘルス不調による休職をしていた社員であれば、休職前に従事していた職務に復帰することはできなくとも他の業務であれば復帰できる、という可能性は身体疾患の場合と比べると低い傾向にあり、結果として、従前の業務への復帰可能性の有無によって復職の可否を判断することはあり得ます。

(3)休職を繰り返す場合は普通解雇事由に該当する

では、休職と復職を繰り返す社員は、休職期間の満了時に自動退職又は普通解雇とする方法以外では、解雇できないのでしょうか。

そもそも休職後の「治癒」による復職とは、復職後に安定した労務提供ができることが前提となっているはずです。

したがって、休職と復職を繰り返す社員は、就業規則上よく見かける「精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき」として、心身故障による普通解雇事由に該当すると考えられます。

ただし、会社の就業規則上、私傷病による休職制度に利用の上限回数が存在せず、繰り返し休職制度を利用することが可能な規定となっている場合、このような繰り返しの休職制度利用を認めない解雇には訴訟リスクが伴うことは否めません。

 

3.休職・復職を繰り返す社員を解雇する際の注意点

休職・復職を繰り返す社員には、コストの増加、他の社員への負担、経営計画への影響などがあるため、企業にとっては解雇を検討したいと考える場合もあるかもしれません。しかし、このような社員を解雇する際にはいくつかの注意点があります。

(1)業務上の疾病による療養のための休業であった場合

社員の休職の原因が業務外の傷病(私傷病)ではなく、業務上引き起こされた傷病であった場合、法令上の特別の保護が働き、療養期間中及びその後30日間の解雇が不可能となります(労働基準法19条1項)。

これは、業務上の傷病による療養期間に解雇されると労働者の再就職が難しくなるため、その生活を脅かすことがないように、労働者を保護するものです。

休職期間が満了した時点で、社員が治癒していなかったとしても、その傷病が業務上引き起こされたものであり、その療養期間中及びその後30日間であれば、一定の例外を除き解雇することはできないのです。

裁判例では、当事者間で当初私傷病だと認識され、就業規則上の傷病休職として取り扱われていたとしても、その疾病が客観的にみて業務に起因して発生したと認められる場合は、休職期間満了後も、労基法19条1項が適用されるとしたものがあります(「旧ライフ事件」大阪高判平成24年12月13日)。

このような業務上の疾病と認定されたメンタルヘルスの場合、使用者は解雇の制限を受けるだけでなく、労災責任や民事上の責任を負うケースもあるため、注意が必要です。

(2)主治医の診断書

休職を繰り返す社員の解雇については、医師による診断内容も重要です。

社員が休職期間を終えて復職する際には、主治医からの復職可能の意見が述べられた診断書を提出されていることがほとんどと思われます。

しかし、社員の主治医が復職可能という診断をしている場合でも、必ずしもその意見に従わなければならないということはありません。

主治医の復職可能との判断に疑義がある場合、産業医や指定医にも当該社員を受診させ、その診断の方が信用性が高いとなれば、産業医や指定医の意見に基づいて使用者が復職不可と判断することは可能です。

主治医は継続的に社員本人の診療を行っているものの、具体的な業務内容や労働環境を把握していなかったり、主治医の意見に社員本人や家族の希望が反映されている場合があります。

他方、産業医は社員の具体的な業務内容や労働環境について具体的に知りえる立場です。

当該社員と複数回面談や診断を繰り返すなどして、社員本人の状態について十分に認識できているのであれば、産業医は、社員の病状が業務内容等との関係で復職可能な状態にあるのかどうか判断することが可能といえます。

このように主治医と産業医では立場が異なるため、両者の意見が対立する場合にはその信用性が問題となります。

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4.休職・復職の繰り返しを防ぐための対策

企業にとって休職・復職を繰り返す社員はさまざまなリスクがあるため、そもそもこれを繰り返させないように適切な対策を講じることも重要です。ここでは、休職・復職の繰り返しを防ぐための効果的な対策について2つの観点から解説します。

(1)就業規則に休職期間の通算規定を設ける

メンタルヘルス不調の場合、復職後の再発・増悪により再度の長期欠勤、休職となるケースも少なくありません。

繰り返しの休職を防ぐためには、無制限の休職制度の利用が可能となっていないか、就業規則をチェックすることが重要です。

復職後に傷病が再発したときを想定し、一定期間内の再度の休職については前後の休職期間を通算することを定めておくことが望ましいといえます。

また、メンタルヘルスによる休職の場合、医師による診断病名が類似の病名に変化する場合があります。

そのため、同一の傷病についてのみならず、類似の傷病も含めて休職期間を通算する旨定めておくことが繰り返しの休職を防ぐことに繋がるでしょう。

もっとも、休職期間の通算をするということは、休職制度の利用範囲が狭くなり労働者にとって不利益になりますから、就業規則の不利益変更の可否の問題が生じます。

労働契約法上、原則として労働者の同意を得ない就業規則の不利益変更はできませんが(労働契約法9条)、例外的に、その変更が合理的であれば労働者の同意を得ることなく就業規則を変更することができます(労働契約法10条)。

このような就業規則の不利益変更の合理性判断をした判例に、野村総合研究所事件判決(東京地判平成20年12月19日)があります。

同判決は、メンタルヘルス等による欠勤者の急増や、メンタルヘルスの病状は再発する可能性が高くこのような事態に対応する規定を設ける必要性があること、使用者は過半数組合の意見も聴取し異議がないという意見を得ていたことを考慮して、提訴前は「欠勤後出勤して3カ月以内に再び欠勤するとき(略)は、前後通算する」となっていたのを「欠勤後一旦出勤して6カ月以内または、同一ないし類似の事由により再び欠勤するとき(略)は、欠勤期間を中断せずに、その期間を前後通算する」とした就業規則の不利益変更を合理性があるとして有効と判示しました。

野村総合研究所事件は、厳密には休職期間の通算ではなく、休職制度利用の前提となる欠勤期間を通算することとする就業規則変更ですが、類似の事案として参考にすることができるでしょう。

もっとも、就業規則の休職期間通算についての変更に合理性があるとしても、現在休職している労働者に当該変更が適用されると、失職のリスクが高まり、当該労働者は著しい不利益を受けます。

そのため、このような就業規則の変更は、現在休職期間にある者には適用しない等、経過措置として変更後の適用を一定期間猶予する措置を設けるべきです。

 

(2)休職期間中の病状報告を求める

休職を繰り返す社員は、そもそも休職期間満了に伴う復職を申し出た時点で「治癒」していないまま業務に復帰していることが考えられます。

休職期間満了時に社員が治癒しているかどうかを判断するためには、多くの企業は主治医の復職可能との意見を基にすることが多いと思われます。

しかし、社員が休職期間に入った後、その休職期間満了時に主治医の診断書が提出されるまで待っているだけでは、企業側は本当に社員が復職可能な状態になったのかを、当該主治医の意見のみを基に判断するしかなくなり、判定が困難になるでしょう。

このような事態を避けるためには、可能な限り、社員が休職に入るタイミング、そして休職期間中も一定期間毎に社員に病状報告を求めるべきです。

先にも述べた通り、主治医の意見は、患者本人の意向を強く含んだものであることが多々あります。

主治医の復職可能とする意見が社員の病状に照らして合理的な判断なのか、それとも患者の意向に従った不合理なものなのか判断する資料として、定期的な病状報告は重要な資料となります。

病状報告については、社員との間で取り決めを明確にするためにも、就業規則中に「休職期間中は毎月1回、医師の診断書を添え、会社に病状を報告しなければならない」等と定めておくのが望ましいといえます。社会保険労務士の方向け顧問案内

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この記事の監修者:細井萌 弁護士


細井萌(ほそい めぐみ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 細井萌(ほそい めぐみ)

【プロフィール】
早稲田大学法科大学院卒業。令和5年弁護士登録。

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