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事業者とターゲットとする求人広告掲載利用
就労人口の減少に伴いどの企業も慢性的な人手不足に悩んでおります。企業はこの人手不足を解消するため求人サイトに自社の求人情報を掲載し、人材の確保のために費用をかけ、労力を割いています。
しかしながら、このような社会的状況を逆手に取り、無料で求人広告を掲載すると持ちかけ、契約をさせた後に自動更新条項を用いて有料契約に移行させ、高額の求人広告掲載料を請求するというトラブルが多数発生しています。
悪質なケースでは、巧妙に有料であることが気が付きにくい方法で勧誘を行っており、後日の高額請求の段階で騙されてしまった(詐欺の被害にあってしまった)ことがわかるということも珍しくありません。
今回は、自動更新条項を用いた無料求人広告利用者への高額請求トラブルにどのように対応をすることがトラブルとなった際にベストの対応方法であるか解説をしたいと思います。
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目次
さて、トラブルの概要はご紹介しましたが、実際はどのような事例であるか具体的に解説をします。
1 電話及びFAXにて、突然、求人広告の無料掲載キャンペーンなどと称して、求人広告をインターネットやサイトに掲載をしないか勧誘がなれます。その勧誘の際には、「インターネット上の求人情報サイトに 1ヶ月無料で求人情報を掲載します」「他の求サイトとも提携しており、期間限定で今だけ無料です」などの説明が強調されることも多いです。
2 その後、無料掲載の申込書等が届き、事務長が病院スタッフの求人内容等を記載の上、 FAXにて申し込みをします。その申込書には「所定の解約用紙による解約の意思表示をしない限り、掲載は無料掲載期間後も自動更新される」「更新後には所定の掲載料金が発生する」と小さな文字で記載されていました。
その他にも業者から自動更新になる前に書面を送付するので、そのときに解約の申し入れをすれば有料になることはないという説明を受けて申し込みをしたところ、業者から書面が送付されないというケースもあります。このパターンの場合、業者が郵便で送付をしたのは、キャンペーン広告のような書面であり、裏面の小さいところに、解約申入欄があるような体裁の書面になっているということもあります。
3 無料掲載期間が経過した直後、突然、高額な掲載料金の請求書(数十万単位)が届きます。これに対して支払いをしないと、督促の電話がなされるまたは請求を求める書面が郵送やFAXで送られてくるなどして、利用者にも対応コストが発生します。
4 この督促の連絡に対して、有料であるという認識はないと反論をすると、「契約書に明記されており、それにサイン(又は押印)をしている」と再反論されてしまうケースが多いです。
上記の状態になり、対応に困ってしまった利用者から弁護士も度々ご相談を受けております。
このような請求を受けてしまった利用者ですが、
①契約書や解約申し込みの書面の記入欄を見落としてしまった自社が悪い
②解約期間の管理をしていなかった(失念していた)自社が悪い
③事業者であるため消費者契約法などの救済を受けることはできない
と考えてしまい、支払いに応じてしまうことがあります。利用者がこのような支払いに応じてしまうのは金額が数十万円単位にとどまり、数百万単位の高額請求ではないということも要因としてあると思われます。
しかしながら、このように思わせ支払いに応じる会社から料金を回収するということがこのような業者の目的です。
このような問題について、徐々に社会問題となっており、行政や弁護士会から注意喚起がなさると共に新聞等のメディアでも問題提起がなされています。
行政においては、ハローワーク(厚生労働省)が注意喚起の告示をしています。
【ハローワーク】リーフレット「求人広告掲載時のトラブルにご注意ください」
また行政のみならず、弁護士会においても問題意識を持ち注意喚起を含めた対応がなされています。
【日弁連】 https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/lp202212.html
【沖縄県弁護士会】無料求人広告トラブルについて注意を求める会長談話
このような業者からの請求ですが、安易に応じるべきではありません。
請求に応じないために考えられる法律構成としては、以下の4つが考えられます。
そもそも、契約自体が成立していないため、料金の請求はできないと主張する構成です。
つまり、無料での本件広告掲載契約の意思はあったが、「有料」での本件広告掲載契約をする意思は全くなく、また、無料での契約を申し込むに際して,無料期間経過後は(解約手続をとらない限り,何の意思表示をしなくとも)自動で有料契約となることについて了承する意思もなかったため、有料の広告掲載契約はそもそも成立していないという構成です。
民法には詐欺により契約をしてしまった場合に、それを事後的に取り消すことができる詐欺取消が認められています。これは騙されて締結された契約であるため、契約を取り消すという方法です。
無料であることを強調され、一定期間経過後に有料になることはないと騙され契約をしてしまったという構成になります。
【参照】民法96条1項
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
詐欺取消と似た法律構成として錯誤取消を行うという構成も考えられます。
錯誤取消は勘違いをして締結してしまった契約を事後的に取り消すというものです。詐欺の場合と同様に有料か無料かという契約の重要な要素について勘違い(誤信)をしてしまい締結をした契約であるため、その契約を取消ものです。
【参照】民法95条1項
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
民法では公序(一般常識)から大きく乖離した契約を無効とする条文があります。
求人契約が求人業務を行うことを目的としてない(当初から有料期間に移行後の請求をすることを目的としている)場合やわかりにくい解約方法を採用している、解約の方法を制限するなど、常識から乖離した契約であるため無効とする構成です。
【参照】民法90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
上記の法律構成から料金の請求に対抗する手段が検討されていましたが、裁判例の蓄積は十分になされていませんでした。
ところが、最近になり業者からの請求を認めない判断をした裁判例が出るようになりました。
那覇簡易裁判所 令和3年10月21日(令和2年(ハ)第1487号広告費等請求 事件)
この裁判例では、
①勧誘担当者が,利用企業に対し,電話口で求人広告掲載の利用料は無料で あることのみを強調し,無料掲載期間終了後は解約手続きを事前に取らない限り,自動的に有料契約に移行するとの解約ルールについてはなんら説明をしなかったこと。
②無料である旨誤信した利用企業に対し,電話勧誘後,即座にファクシミリで原告に対し申込みの送信をさせ,本件求人広告掲載契約を締結させたこと
③勧誘担当者が利用企業の担当者に無料求人広告掲載の勧誘電話をかけてきたのは令和元年11月20日(本件広告掲載契約の日)であり、前記のとおり,各県の弁護士会や公的機関が原告らのような勧誘手法が,無料求人広告トラブルとして社会問題になっているとして広く国民に,注意喚起を行っていた期間であること。
④利用企業は本件広告掲載契約日までに原告勧誘担当者から3度も勧誘電話を受け, その都度広告掲載料金は「無料」と強調され、本件広告掲載契約の条項を読むまでもないと意識づけられたこと。
という点から、無料の契約であると誤信して、契約を締結したとして、詐欺取消を認めています。
また、同裁判例では、
⑤本件と同様なインターネット求人広告の掲載料を巡るトラブル(無料求人広告トラブル)に関し,平成31年4月から令和元年11月25日にかけて厚生労働省や全国求人情報協会,毎日新聞等のマスコミ及び沖縄県弁護士会を含む各県の弁護士会が原告らの勧誘手法が事業者の錯誤に付け込んだ商法である旨の注意喚起を大々的に行っていることから広告事業者に詐欺の故意があったと認定しています。
また、同趣旨の裁判例として津簡易裁判所令和5年11月7日も出ています。
当該裁判例では、公序良俗違反を理由に契約を無効とし、事業者の請求を認めませんでした。
その理由としては、
①本件サービスの利用を勧誘するに際し,3週間の無料掲載期間については説明したものの,3週間以内に解約しなければ自動的に有料掲載期間に移行し,1年分の広告料が発生することの説明まではしていないこと
②本件サービスは,3週間の無料掲載期間を1日でも経過すれば,直ちに1年分の広告料の支払義務が発生する仕組みになっているにもかかわらず,原告から被告に対して,事前に有料掲載期間に移行するか否かの意思確認を行う仕組みにはなっていないこと。
③原告は,挨拶状によって注意喚起を行っていると主張するが,挨拶状が被告に到達したのは,無料掲載期間の最終日の午後であるから,真に注意喚起の趣旨で挨拶状を送付しているとは認められず,単に注意喚起をした体裁を整えようとしているにすぎないこと。
④原告は,無料掲載期間が経過するや否や,直ちに請求書を被告に送付して1年分の広告料の支払を請求していること。
⑤被告が抗議をしても本件規約を盾に解約に応じず,訴訟提起に至っているところ,原告が,東京地方裁判所に,求人情報サービスの利用代金の支払を求める訴訟を多数提起しており、本件と同様の紛争が多数発生していることが窺われること
⑥原告が業務内容や,本件サービスによる求人の実績について明らかにしておらず、件サービスには求人広告としての実体はないものと評価せざるを得ないことを上げています。
これらの理由から裁判所は事業者が「専ら無料掲載期間内に解約しなかった顧客(この中には,本件規約を読んで,無料掲載期間内に解約手続が必要であることを認識したが手続を失念した者のほか,被告のように,そもそも本件規約を読んでおらず,解約手続が必要であることを認識していないかった者も含まれる。)に,1年分の広告料を支払わせることのみを目的として,本件契約を締結しているものといわざるを得ない」として、「本件契約は,公序良俗に反し無効である。」と判断しています。
このように不当な求人広告掲載料を請求する事案については、裁判所の判断においても請求が認められない事例があることが明らかになっています。
そのため、無料だと思っていた求人広告掲載業者から求人広告掲載料の請求があった場合でも安易に支払いに応じるべきではありません。
裁判例の事案でも契約書に自動更新後は有料契約に移行するという旨の記載はありましたが、請求が認められておらず、「契約書に記載がある=必ず支払わなければならない」というものではないことがわかります。
そのため、まずは落ち着いてその請求が不当な請求であるか否か冷静に判断をするべきです。
不当な請求であるか否かを判断するにあたっては、以下のようなポイントを確認して判断をすることになります。
上記の要素から不当請求にあたると判断した場合には、契約の取消(詐欺または錯誤)や無効(公序良俗違反)の主張をする旨を記載した内容証明郵便を送付することになります。
なお、契約書において、解除方法を限定する記載があったとしてもその他の方法による契約解消の通知は有効になし得ます。
このようなトラブルが発生した際には請求をする事業者に対応する手間が発生します。
併せて、どのような対応が正解であるかわからない、契約を取消(無効とする)書面に何を記載していいかわからない、そもそも不当な請求であるか判断がつかないなど、様々なお悩みが発生するかと思います。
その際には専門的な知識を有する弁護士に早期に相談をすることにより、トラブルも早期に自社に有利に解決できる可能性があります。
お悩みの際には弁護士へのご相談もご検討ください。
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この記事の監修者:井山貴裕弁護士 弁護士
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