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医療業界や介護業界は、近年、離職率の低下傾向が続いており、人手不足が深刻化している業界です。
そのような中、医療介護求人サイトが普及し、医療介護求人サイトを利用する医療法人や社会福祉法人が増えております。
また、医療介護求人サイトの中には、無料で求人の掲載やスカウトメールの送信ができ、採用が決まった場合に利用料金(手数料)を支払う成功報酬型の求人サイトもあり、利用者側もコストを抑えて利用できる求人サイトも増えています。
しかし、医療介護求人サイトの運営会社やその代理人弁護士から、突然、「利用規約への違反が確認されましたので、違約金の支払いを求めます。誠実にご対応いただけない場合には刑事告訴等の法的措置を検討しております。」という内容の内容証明郵便や通知が届き、違約金を請求されるというトラブルが多発しています。
また、その違約金の金額も数百万円や数千万円にも及ぶ事案も珍しくなく、大変深刻な問題になっています。
今回は、医療介護求人サイトを利用する法人に対する高額な違約金請求トラブルに巻き込まれた場合にどのような対応をすることがベストか、また、そのようなトラブルに巻き込まれないためには、求人サイトの利用にあたりどのような点に注意を払えば良いのかについて解説をいたします。
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目次
具体的にどのような流れで高額な違約金請求トラブルに巻き込まれてしまうのかについて解説をします。
(1)問題なく医療介護求人サイトを利用していたところ、突然、その医療介護求人サイトにアクセスができなくなるところから始まる事例が多いです。サイト利用者の法人は、システム上の不備だと思い、医療介護求人サイトの運営会社に問い合わせをすると、「貴法人は利用規約●条に抵触している恐れがあり、現在、システムの利用を停止させていただいております。弊社代理人からの連絡があるまでしばらくお待ちください。」という内容の回答が運営会社からきます。
(2)その後、運営会社の代理人弁護士を通じて内容証明郵便にて、「貴法人は、利用規約●条に抵触する行為を行っていたことが判明しましたので、同条項に基づき、違約金の支払対象となります。2週間以内に別途送付をする『応募者回答シート』を記入の上、ご返信ください。万が一、上記期日までにシートのご回答をいただけない場合など不誠実な対応と判断した場合には、刑事告訴等の法的措置を検討しておりますのでご承知おきください。」という通知がきます。応募者回答シートには、当該医療介護求人サイトを通じて法人に応募のあった求職者が一覧になって記載されており、応募のあった求職者のうち法人が誰を採用したのかを運営会社側が把握をするために用いられます。
(3)法人側で応募者回答シートの記入を行い回答を行うと、「応募者回答シートに記載のある求職者のうち、●名について虚偽の報告がされているため(違約金条項に該当しているため)、●万円の違約金を請求します。」という通知が代理人弁護士からきます。利用規約上、違約金条項に該当している場合、1名あたり数百万円の違約金が設定されていることがあり、違約金条項に該当する人数が多い場合には、違約金の総額が数千万円になることも珍しくありません。
(4)これに対して、「1名あたり数百万円の違約金は不当だ」「公序良俗に反して無効だ」などと反論を行うと、「過去の裁判において、違約金請求の有効性が既に認められている」と再反論されてしまうケースが多いです。
医療介護求人サイトの運営会社から違約金請求トラブルに巻き込まれた場合の流れについて解説をしましたが、では具体的にどのような場合に違約金請求をされてしまうのでしょうか。利用規約の例を用いながら解説をしていきます。
なお、以下に挙げる事例は違約金請求でよくある事例の一部ですので、ご利用の医療介護求人サイトの利用規約をご確認いただくことを推奨いたします。
まず、よくある違約金が発生してしまう場合として、当該医療介護求人サイトを介して応募のあった求職者を採用したにもかかわらず、法人内の事務処理上のミスなどで「不採用」と回答をしてしまっているケースが挙げられます。
応募のあった求職者の採用面接等を行ない採用をしたものの、当該採用をした求職者が入社後数日で辞めてしまったことから、法人側の判断で「不採用」と報告をしてしまった事例がよく見受けられます。医療介護求人サイトを介しての採用活動は、多数の応募がある反面、すぐに求職者が辞めてしまう場合が多いです。
しかし、利用規約をよく確認せず、法人側の自己判断で「不採用」と判断してしまうのは違約金条項に該当する可能性があるため危険です。どのような場合に「採用」又は「不採用」となるのかについては、しっかりと利用規約を確認しておきましょう。また、故意に虚偽の報告をしたわけでなくても、違約金条項に該当する可能性がありますので注意が必要です。
(1)の事例では以下のような利用規約の記載になっています。
第●条 違約金
1 利用者が本サービス経由で応募を受けた求職者について、以下の各号に該当する行為を行なった場合、当社は利用者に対して違約金を請求できるものとする。
(1)求職者を採用したにもかかわらず、当社に対して採用しなかった旨を回答した場合
(2)・・・
次に、よくある事例として、過去に当該医療介護求人サイトを介して応募があった際に不採用などの理由で採用に至らなかったが、後にその求職者から別媒体を介して再度応募があり、採用をした場合又は採用をしたのにその旨の報告を当該医療介護求人サイトの運営会社にしなかった場合があります。
一度、不採用や(求職者と連絡が取れず)選考終了とた場合でも、一定期間の間に当該応募者を採用した場合には、たとえその採用経緯が別の求人サイト経由であっても利用料金や違約金が生じるという利用規約になっている可能性があります。
応募者の人数が多いと過去に当該医療介護求人サイトから応募があった求職者か否かを逐一確認することは、大変手間のかかる作業ですが、求職者の情報管理を徹底し、その都度確認を行うのが望ましいです。
(2)の事例では、以下のような利用規約の記載になっています。
第●条 違約金
1 利用者が本サービス経由で応募を受けた求職者について、以下の各号に該当する行為を行なった場合、当社は利用者に対して違約金を請求できるものとする。
(1)利用者が求職者を採用せず選考終了とした旨を当社に連絡した場合でも、その連絡から●年以内に利用者がその求職者を採用した場合、本サービスの利用によって採用に至ったものとみなし、本サービスの利用料金を支払う義務を負うものとする。また、この場合、当社は利用者に対して違約金を請求できるものとする
(2)・・・
次に、違約金が発生してしまう場合として、医療介護求人サイトを介して求職者から応募があったものの、採用に至らなかった求職者の情報(名前や電話番号など)を別の第三者(知り合いの医療法人や社会福祉法人)に伝えて、別の第三者が当該求職者を採用する場合です。
当該求職者の能力や人柄は問題ないものの、本人希望の勤務場所や職種と法人のニーズが合わず不採用となる場合は考えられると思います。
このような場合で例えば、法人の採用担当者や理事長が知り合いの第三者(医療法人、社会福祉法人)に当該求職者の情報を伝えて、当該第三者が採用をするというケースが本件の例です。
以下のような利用規約を設けている医療介護求人サイトがあるため、上記のような行為は違約金が発生してしまう可能性があります。
第●条 違約金
1 利用者が本サービス経由で応募を受けた求職者について、以下の各号に該当する行為を行なった場合、当社は利用者に対して違約金を請求できるものとする。
(1)本サービスを通して知り得た求職者に関する情報等を利用者が第三者に開示することにより、当該第三者が当該求職者を採用した場合、当社は、利用者に対し、違約金を請求できるものとします。
(2)・・・
成功報酬型の医療介護求人サイトも増えており、気軽に求人サイトの利用を始められることから、利用をする事業者も多いですが、法外な違約金請求や手数料の請求がされる事例が増えており、徐々に社会問題となっております。
そのため、厚生労働省は以下のような注意喚起をしています。
それでは次に、実際に求人サイトの違約金請求の適法性が争われた最新裁判例の動向について解説をしていきます。
結論から申し上げると、法外な違約金請求であっても適法と判断され、違約金の支払いを命じられている裁判例が多いのが実情です。
しかし、どのような事案の場合に違約金請求が適法とされるのかを理解することは、万が一、違約金請求トラブルに巻き込まれた場合に、どのように対応を行うべきかの参考になりますので最新の裁判例の事案と要旨を取り上げたいと思います。
裁判例(求人サイト及びその運営会社名を記載) | 利用料金(成功報酬)額 | 違約金額 | 倍率※ | 結果 | 事案・要旨 |
---|---|---|---|---|---|
①東京地判平成27年3月26日 (株式会社メドレーが運営する「ジョブメドレー」という医療介護求人サイトの裁判例) |
2名 (18万円、9万円) |
1名あたり300万円 (2名分600万円請求) |
最大33倍 | 請求認容 (有効) |
(事案) 医療介護求人サイト(ジョブメドレー)を介して2名の求職者を採用したものの、利用者である介護事業会社が当該2名について不採用であるとの報告をし、医療介護求人サイトの運営会社(株式会社メドレー)から違約金請求をされた事例。 (要旨) ① 医療機関等に求職者の採用に関して真実の報告を担保する観点からは、違約金の金額が低額であると実効性に乏しく(虚偽の報告をする可能性がある)、それなりに高額の違約金を設定する必要があると考えられること。 ② 介護事業会社は、違約金に関する条項を含む利用規約に同意して求人サイト(ジョブメドレー)の利用申込みをしたと認められること。 ③ 介護事業会社は、求職者2名につき、真実は求人サイト(ジョブメドレー)を通じて採用したにもかかわらず、故意に不採用である旨通知し、利用料金の支払を免れるという悪質な行為に及んでいること。 ④ 利用規約が、このような採用の事実自体について虚偽の報告をした場合とそれ以外の場合(雇用形態、保有資格、職種等を偽った場合)に分け、悪質性の違いに応じて違約金の金額に差異を設けていること。 ⑤ 医療法人から応募者に電話をかけ、採用されたことをジョブメドレー側に黙っておいてくれれば採用する旨述べていた(裁判所の判断では考慮されていない)。 |
②東京地判平成31年4月22日 (株式会社アトラエが運営する「Green採用支援サービス」という求人サイトの裁判例) |
2名分 (1名あたり97万2000円) |
1名あたり200万円 (2名分400万円請求) |
約2倍 | 請求認容 (有効) |
(事案) 求人サイト(Green採用支援サービス)を介して2名の求職者を採用したものの、利用者である会社が当該求職者2名について不採用であるとの報告をし、求人サイトの運営会社(株式会社アトラエ)から違約金請求をされた事例。 (要旨) ① 違約金の額について成功報酬の額の2~3倍程度の水準として設定されたというのであり、本件に係る成功報酬の額との関係では、その水準の範囲内に位置付けられる。 ② 200万円という違約金額は、1件当たりの金額であるとすれば若干高額であることは否めないが、求人サイト運営会社においては違約金による制裁を実効的なものとする必要性及び合理性が認められること、求人サイト利用者は事業者であるところ、200万円という金額は本件規約で明記されており、本件サービスの申込書にも本件規約の抜粋として記載されていること、求人サイト利用者において(成功報酬の)支払逃れを行おうとしていた可能性も否定し得ないこと等を踏まえると、本件規約に基づく違約金の支払を求めることが権利の濫用に当たり、又は信義則に反し許されないということはできない。 |
③東京地判令和3年3月17日 (株式会社トライトエンジニアリングという有料職業紹介業を営む会社の裁判例) |
不明 | 当該求職者が1年間継続勤務した場合の賃金総額 (247万5200円) |
不明 | 請求認容 (有効) |
(事案) 有料職業紹介サービスを利用していた利用者(会社)が、求職者と直接交渉を禁止する契約に違反して直接交渉をし、違約金として、当該求職者が1年間継続勤務した場合の賃金総額分を請求された事例。 (要旨) 仮に、「直接交渉」の意義の外延に解釈の余地があり得るとしても本件ではその点が全く問題とならないこと、違約金の額が約定の紹介料に比べて高額に設定されていることも契約違反を防止するためのものとして、相応の合理性があり、しかも、本件契約がサービス利用者の窮状等に乗じて締結されたなどといった事情も認められないことからすれば、本件違約金条項は暴利行為であるとはいえない。 |
④東京地判令和3年11月30日 (株式会社アトラエが運営する「Green採用支援サービス」という求人サイトの裁判例) |
2名分 (75万6000円、32万4000円) |
1名あたり200万円 | 最大約6倍 | 請求認容 (有効) |
(事案) 求人サイト利用者(会社)が求人サイト(Green採用支援サービス)を介して応募のあった求職者を一度不採用としたものの、1年以内に当該求職者を採用したため、求人サイト運営会社(株式会社アトラエ)から違約金を請求された事例。 (要旨) ① 求人サイト利用者は、本件規約7条1項は暴利行為として公序良俗に反し無効である旨を主張するが、原告が応募者を採用した申込者から確実に成功報酬の支払を受けることを目的として申込者に採用等の報告を義務付け、これを怠った申込者に違約金を課すことが直ちに不合理であるとはいえない。 ② また、証拠によれば、求人サイト利用者は同条項の存在及びその内容を認識、理解し、その利害得失を勘案した上で、その自由な意思に基づいて本件利用契約を締結したものであると認められ、200万円という違約金の額についても、本件サービス(Green採用支援サービス)における全求人件数及び全採用件数の約9割を占める東京都及び大都市圏の成功報酬(90万円)の2倍ないし3倍に相当するとはいえ、著しく高額であるとまでは認められないことに照らせば、同条項は申込者の著しい不利益において原告が過大な利益を得ることになるような著しく合理性を欠くものとはいえず、暴利行為として公序良俗に反するものとは認められない。 |
⑤東京地判令和4年8月17日 (MRT株式会社という医師や看護師の有料職業紹介業を営む会社の裁判例) |
不明 | 402万円 | 不明 | 請求認容 (有効) |
(事案) 診療所(職業紹介サービス利用者)が有料職業紹介事業を行う会社から求職者の紹介された後に、一定期間内に雇用契約を締結する場合は、紹介事業会社を通さなければならないのに、通さずに雇用契約を締結したため、違約金を請求された事例。 (要旨) ① 有料の職業紹介契約という契約の内容に照らすと、原告から医師等の紹介を受けた医療機関が、紹介後に当該医師等と何らの制約なく雇用契約を締結できるとすると、原告の職業紹介に関する事業の継続が困難となるため、医療機関に対し、紹介後の一定期間に限定して、原告を通ずることなく雇用契約を締結することを禁ずることには必要性が認められる。 ② そして、そのような契約の性質に照らして、医療機関に対し、契約上の上記の不作為義務の履行を確保する手段として、違約金を定めたものと解するのが相当であり、合理性が認められる。 ③ (錯誤により無効であるとの診療所の主張に対して)当事者が特にその約款によらない旨の意思表示をすることなく契約したときは、たとえ約款の内容を知らなかったとしても、反証のない限り、その約款による意思をもって契約したものと推定される。 |
⑥東京地判令和5年1月25日 (株式会社メドレーが運営する「ジョブメドレー」という医療介護求人サイトの裁判例) |
2名 (合計8万8000円) |
1名あたり300万円 (2名分600万円請求) |
約68倍 | 請求認容 (有効) |
(事案) 医療介護求人サイト(ジョブメドレー)を介して2名の求職者を採用したものの、利用者である介護事業会社が当該2名について不採用であるとの報告をし、医療介護求人サイトの運営会社(株式会社メドレー)から違約金請求をされた事例。 (要旨) ① 医療機関等に求職者の採用に関して真実の報告を担保する観点からは、違約金の金額が低額であると実効性に乏しく(虚偽の報告をする可能性がある)、それなりに高額の違約金を設定する必要があると考えられること。 ② 介護事業会社は、違約金に関する条項を含む利用規約に同意して求人サイト(ジョブメドレー)の利用申込みをしたと認められること。 ③ 介護事業会社は、求職者2名につき、真実は求人サイト(ジョブメドレー)を通じて採用したにもかかわらず、故意に不採用である旨通知し、利用料金の支払を免れるという悪質な行為に及んでいること。 ④ 利用規約が、このような採用の事実自体について虚偽の報告をした場合とそれ以外の場合(雇用形態、保有資格、職種等を偽った場合)に分け、悪質性の違いに応じて違約金の金額に差異を設けていること。 |
⑥東京地判令和5年1月25日の裁判例でも指摘をされていますが、求人サイトの運営そのものが利用者から真実の報告がないと報酬を得ることができないという仕組みであるため、利用規約違反があった場合に違約金を設けること自体は合理的であり、
また、その違約金の金額を高額にする必要性があるという考えが裁判所の基本的なスタンスであるという点です。
また、求人サイトの利用者が違約金に関する条項を含む利用規約に同意しているのであり、契約自由の原則(違約金を含めてどのような契約の内容とするかは基本的に当事者の自由)から、無効にはならないという考え方に立っていると思われます。
しかし、裁判例の中には、「故意に不採用である旨通知し、利用料金の支払を免れるという悪質な行為」という評価をしている裁判例(⑥東京地判令和5年1月25日)もあり、例えば、法人内での事務処理上のミスによる誤報告や法人側の利用規約の確認不足で「採用」と報告すべきところを「不採用」と報告をしてしまった事例の場合には、悪質性の程度が低い事案ですので、そのような悪質性が低い事案に対して、法外な違約金請求を行うのは違法であり許されないと裁判例を使いながら反論する余地はあります。
上記のように、裁判になった場合には、違約金請求も適法と判断されている事例が多いのが実情ですが、裁判になる前の交渉の段階では、考えられ得る反論をできる限り行い、違約金の金額を少しでも減額することが最善の策でしょう。
まず、違約金請求に対する反論として考えられるのは、違約金条項及び違約金の金額が公序良俗に反し(民法90条に違反し)無効であるという主張です。
民法には、公序(一般常識)から大きく乖離した契約を無効とする条文があります。
例えば、求職者1名あたりの利用料金が数万円にとどまるのに対して、1件あたりの違約金が数百万円に設定されている場合には、違約金が利用料金と比較して著しく高額であるといえます。この場合、違約金による制裁によって利用規約遵守の実効性を上げるという観点からみても、金額として著しく過大であり合理性を欠いているといえますので、公序良俗に反し無効であると主張する余地はあります。
裁判例の中にも「(利用料金の)2倍ないし3倍に相当するとはいえ、著しく高額であるとまでは認められない」ことを理由として公序良俗に反しないと判断しているものがありますので(④東京地判令和3年11月30日)、利用料金と比較して違約金の金額が数十倍などになっている事案などの場合は、公序良俗に反するという主張も十分説得的な主張であると考えられます。
次に考えられる反論としては、そもそも違約金条項に該当する場合ではないため、違約金が発生しないという主張です。
例えば、「求職者を採用したにもかかわらず、当社に対して採用しなかった旨を回答した場合」という違約金条項においては、①そもそも求職者を「採用」していない、②採用をしたが、その通り採用した旨を回答しているという反論が考えられます。
まず、①の反論ですが、このような求人サイトを利用する場合、求職者に対して内定を出したが、初出勤日に来なかったという事例も往々にしてあると思います。その場合、担当者としては、内定を出している以上、「採用」に該当すると早合点してしまう方もおられると思います。
しかし、当該利用規約上の「採用」がいかなる定義なのかしっかりと確認をすることを推奨します。例えば、「採用」の定義が「雇用形態を問わず、求職者が初出社、初勤務すること」とされている場合には、内定を出したのみで、初出勤日に来なかった場合には、「採用」には当たらないことになります。
このような場合には、仮に「不採用」や「選考終了」などと回答をした場合であっても、違約金条項に該当しないことになりますので、その点を反論することが可能です。
次に、②の反論ですが、求人サイトの運営会社から請求をされる中には、実際に利用者が「採用」と報告をしているにもかかわらず、「不採用」との報告を受けたなどという理由で違約金請求をしてくる場合が考えられます。運営会社の事務処理上のミスの可能性もありますが、この場合には、「採用」と報告をした日時や手段を特定して、「採用」と報告したと反論をすることが大切です。
次に考えられる反論としては、採用した事実を隠蔽するために故意に不採用と報告をしたのではなく、過失による誤報告や本規約の確認不足による誤報告にとどまり、利用料金の支払いを逃れるためなどの隠蔽の意図がないことという主張が考えられます。
実際に、①東京地判平成27年3月26日においても「故意に不採用である旨通知し、利用料金の支払を免れるという悪質な行為に及んでいること」という利用者の支払いを免れる意図があることを判断の際に考慮をしていることから、そのような意図がないという主張は反論として有効であると考えられます。
利用料金等の請求に対して考えられる反論としては、そもそも利用料金が発生する場合に当たらないという主張です。
上記の違約金条項に該当しないという主張とも共通しますが、利用料金が発生する場合として、「本サイトの応募機能を通じて応募した求職者を採用した場合」などと規定されている場合には、そもそも求職者を「採用」していないため、利用料金等が発生する場合に当たらないと反論することも一つの方法です。
仮に、利用規約上の「採用」に該当する場合であっても、求人サイトによっては、採用した後、当該求職者が早期(例えば1ヶ月以内など)に退職をしてしまった場合には、返金率にしたがって利用料金を返金するという制度を導入していることがあります。
そのため、利用料金等を求められた場合であっても、この早期退職者の返金制度の対象になることを主張して、返金や減額を求めることも考えられます。
ここまで、違約金請求に関する最新の裁判例や実際に違約金請求を受けた場合の反論方法などを取り上げましたが、このような違約金請求トラブルにそもそも巻き込まれないことに越したことはありません。
そのため、医療介護求人サイト利用の段階から以下の点に気を付けることが大切です。
① 医療求人サイトの利用申込みをする時点で利用規約をしっかりと確認しておくこと
② 特に、違約金条項はいかなる場合に違約金が発生するのかをしっかりと確認しておくこと
③ 利用規約上の「採用」に当たる場合に、「不採用」と報告をしてトラブルになっている事例が散見されるため、いかなる場合に利用規約上の「採用」に該当するのかをしっかりと確認しておくこと(すぐ辞めてしまった求職者でも1回でも出勤をしていれば「採用」に該当する可能性があります。)
④ 求職者に対して、採用されたことを黙っておくように命じる行為や利用料金の支払いを免れる意図で虚偽の報告はしないこと(裁判になった場合により負ける可能性が高まります。)
⑤ 採用選考をして時間が経ってから、「採用」「不採用」の報告をする際には、過去の採用をした際の記録や出勤の記録をしっかりと確認してから報告をすること
⑥ 採用担当者など医療介護求人サイトへの報告担当者が変わる場合には、必ず上記の点について引き継ぎをしておくこと
上記の点に注意をして医療介護求人サイトのご利用をいただくことを推奨しますが、万が一、違約金請求トラブルに巻き込まれた場合には、初動対応に注意が必要です。
誤った対応を行うと医療介護求人サイトの運営会社との間で違約金の減額交渉ができず、すぐに訴訟を提起される可能性があります。
「1」の違約金請求に巻き込まれた場合の具体的な流れの中でも解説をしましたが、違約金請求をされる際には、医療介護求人サイトの運営会社の代理人弁護士を通じて期限内に「応募者回答シート」に回答をするように求められます。
この応募者回答シートは、医療介護求人サイトを介して応募のあった求職者がリストになっており、各求職者を実際に「採用」したのか、それとも「不採用」や途中で求職者と連絡が取れなくなるなどして「選考終了」となったのかを回答するシートになっております。
過去の応募者の人数が多い場合には、数百名に登るリストが送られてくることもあります。
また、この「応募者回答シート」が送られてくる時には、すでに医療介護求人サイトの利用が停止されていることもありますので、法人内で管理している過去の記録(採用の際の記録や出勤簿、賃金台帳など)をもとに、利用規約上の「採用」に該当するのかを判断することになります。
骨の折れる作業ですが、誠実に対応をする姿勢を見せることが重要ですので、期限内に回答することを推奨します。
過去の記録を調べても「採用」をしたのか明らかにならない場合には、正直に「記録を調べましたが分かりませんでした。」と回答をすることもやむを得ないと思います。
「応募者回答シート」への回答を誠実に行うことで、違約金の金額が減額される例もありますので、初動対応の中では最も重要です。
応募者回答シートの回答を行っている期間や回答後においても、医療介護求人サイトの利用を停止される前に応募のあった求職者と採用面接等の予定がすでに決まっていることも考えられます。
そして、採用面接等の結果、採用をすることが決まり、初出勤日などの条件が決まった場合には、先方の代理人弁護士に対して、その旨を伝えることを推奨いたします。
最も避けるべき状況は、現在請求されている違約金の金額が増えてしまうことですので、違約金条項に該当することを避けるためにも、慎重な対応が必要になります。
上記のように、誠実に対応をすることが初動対応のポイントになりますが、このような医療介護求人サイトの違約金トラブルに不慣れな弁護士の中には、「応募者回答シートの入力や求人サイトの運営会社からの問い合わせは全て無視をすべき」などとアドバイスをする場合があるかもしれません。
しかし、無視をし続けていると後々トラブルが大きくなり、以下のように、法人としての経営により大きな影響を受けるリスクがあります。
応募者回答シートの入力を拒否したり、求人サイトの運営会社やその代理人弁護士からの問い合わせを無視し続けると、まず考えられるリスクとしては、仮差押えなどの保全手続を申し立てられる点です。
通常、求人サイトの運営会社が裁判によって違約金等の回収を行う場合には、勝訴判決を得てから、対象となる法人の財産に強制執行をかけて、金銭の支払いを得るという流れになります。
しかし、このような裁判手続は通常、1年〜1年半程度かかるため、それまでにいわゆる財産隠しなどをされないようにあらかじめ財産の確保を行うのが仮差押えという手続です。
この仮差押えの対象となる財産は、法人が所有している不動産や預金口座、法人が有している債権などが対象となります。
仮差押えをされることにより、法人が事業に使用している預金口座が突然凍結される恐れや例えば介護事業者であれば国からの介護報酬を止められてしまう恐れがあります。
このように、仮差押えをされた場合には、法人の経営に直接的に大きな影響を受ける可能性があります。
無視をし続けることで考えられる次のリスクとしては、無視をし続けているという姿勢そのものが求人サイトを利用した際に生じる利用料金の支払いを免れようとする不誠実な態度であると裁判所に認定されてしまう恐れがある点です。
上記でご紹介をした裁判例の中にも、法人側が利用料金の支払いを免れる悪質な行為に及んでいることを考慮して、法人側が敗訴している裁判例もあります(⑥東京地判令和5年1月25日)。
虚偽の回答をしていた場合の他に、そもそも回答をしないなどの情報提供を拒んでいる場合にも、客観的には利用料金の支払いを免れようとしているのではないかと裁判所から見られてしまい、その点で不利な事情として扱われる可能性があります。
なお、そもそも求人サイト運営会社もしくは代理人弁護士からの問い合わせに対して無視をし続ければ、訴訟提起まではされないのではないかとも考えられます。
しかし、過去の裁判例でも求人サイトの運営会社側が訴訟を提起した上で、高額な違約金の請求の支払いを法人側が命じられている事案が複数ございます。
これらの点から求人サイトの運営会社及びその代理人弁護士の姿勢として、途中で違約金等の請求を諦める可能性は少なく、金銭の回収ができるまで訴訟や仮差押えなどの手段を採る可能性が高いです。
回答シートによる情報提供を拒んだ場合や無視し続けたとしても、裁判になった場合には、結局回答シート上の応募者の情報を開示しなければならない可能性があります。
裁判になった場合には、応募者の採用にあたり法人側が当時虚偽の報告をしていたこと(例えば、実際は当該応募者を採用していたものの当時不採用と報告したこと)を証明するのは求人サイトの運営会社側です。
その場合、こちらが回答シートによる情報提供を拒めば、結局、求人サイトの運営会社は、法人側が虚偽報告をしていたという証明が困難になるので、その観点からも無視をすべきだと考えるのかもしれません。
しかし、民事訴訟法という法律の中で、文書の所持者に対して、その文書を提出するように裁判所が命じることができる制度があります(法律用語では文書提出命令と呼ばれるものです。)。
そのため、この制度によって、実際に応募者を採用していた場合には、それを基礎付ける資料(労働条件通知書や賃金台帳など)の提出を裁判所から命じられる可能性があります。
このような提出命令を受けた結果、当時虚偽の報告をしていたことが明らかになった場合には、法人側が情報提供を拒んでいたのは、利用料金の支払いを免れようとしたからではないか(虚偽の報告をしていたことがバレないように隠蔽しようとしていたのではないか)と判断されてしまい、結論として、法人側が敗訴してしまう(高額な違約金の支払いを命じられてしまう)ことも考えられます。
このように、求人サイトの運営会社やその代理人弁護士からの回答の求めを無視し続けた場合には、後々そのトラブルが大きくなり、取り返しのつかない事態に発展することも考えられます。
そのため、弁護士からの無視をするようにとのアドバイスをそのまま鵜呑みにすることは危険な側面もありますので、その点は慎重にご判断ください。
過去に弊所において、医療介護求人サイトの運営会社からの違約金請求を担当した事例についてどのような経過を経て、どのような解決に至ったのか簡単にご説明します(守秘義務の観点から実際の事案とは少し内容を変えております。)。
ある医療介護求人サイトを利用していた医療法人が突然、医療介護求人サイトの利用ができなくなり、医療介護求人サイトの代理人弁護士から内容証明郵便にて違約金請求を検討している旨の通知がきたとのことで、当該医療法人から弊所にご依頼がありました。
弊所が医療法人の代理人となったと同時のタイミングで、先方の代理人弁護士から「応募者回答シート」の記載を求められました。
回答をする応募者の数が約700名に上りましたが、医療法人のご担当者の協力もあり、上記の初動対応のポイントに従って、期限内に回答をすることができました。
その後、先方の代理人弁護士から、「不採用」との報告を受けたものの実際には「採用」をしていた求職者の人数として、約20名ほどいたことが判明したため、違約金としては6000万円(1名につき300万円)になるが、応募者回答シート等の対応を誠実に医療法人側が行っていたことから、2500万円を減額した3500万円の違約金請求がされました。
こちらからの反論としては、上述のような裁判例を引用しつつ、そもそも1名につき300万円の違約金は公序良俗に反し無効であること、「採用」と「応募者回答シート」にて報告をしたものの、再度の調査の結果、そのうちの3名は利用規約上の「採用」に該当しないため、違約金条項に該当しないことを主に主張をしました。
先方の代理人弁護士からは、裁判例上でも違約金の有効性が認められていることという再反論がありましたが、こちらが主張をした3名については、違約金対象にはならないという方向でまとまり、3名分(900万円)を引いた金額である2400万円の違約金で再提案がありました。
医療法人と検討を行い、裁判になった場合には、違約金条項が有効と判断され、また、現在の2400万円ではなく、6000万円満額を請求されてしまうおそれがあるため、早期解決として900万円の提案を行った結果、無事、和解にて解決に至ることができ、結果的には、最初の違約金請求(3500万円)の約4分の1の金額で解決をすることができました。
万が一、高額な違約金請求トラブルに巻き込まれた場合には、初動対応をはじめ、先方との違約金や利用料金に関する交渉などを慎重に行う必要があります。
また、初動対応や交渉対応を誤った場合には、違約金の減額ができずに場合によっては、訴訟などに発展するおそれがあります。
そのため、専門的な知識を有する弁護士に早期に相談をすることにより、トラブルも早期かつ当初の請求金額から減額された金額で解決できる可能性があります。
弊所においては、医療介護求人サイトを利用する法人に対する高額な違約金請求トラブルについて、複数対応経験がありますので、お悩みの際には弁護士へのご相談もご検討ください。
弊事務所は、労働問題一筋、使用者側の労働問題に特化し、日頃の人事労務管理の諸問題から労働組合対応のアドバイス、労働事件争訴遂行−個別労働・団体労働・労働災害等−と、広く労働法分野のお手伝いをしてまいりました。士業の先生からのご紹介案件も多数引き受けており、今後も様々な士業の先生方とご一緒にお仕事をさせていただきたいと考えております。弊事務所では、より一層士業の先生方のニーズに応えられるよう、以下のようなリーガルサービスを提供しております。
この記事の監修者:佐藤浩樹弁護士
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