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昔から「退職直前に有給休暇を突然使用して引き継ぎをしてくれない。時季変更権を使用して良いか?」という質問を受けることがあります。
時季変更権とは、従業員が日を指定して年次有給休暇の申請を行ったのに対して、会社側から日の変更を求めることができる権利をいいます。
一般的には「退職直前の有給休暇使用の場合は、時季指定変更権を行使しても退職日が近いことから他に有給休暇を使用させることができず、有給休暇の時季指定変更権を行使できない」とされています。
ただ、私は「本当にそうなのだろうか。ケースによっては時季指定変更権を認めるべき事案はあるのではないか?」と長年疑問に思っておりました。
ある社会保険労務士の先生から以下の裁判例を教えていただき「このような裁判例もあるのか」と驚きましたのでご紹介致します。
R社の従業員Y1は自分の個人会社Y2を設立し、取引先Cを欺いてY2は取引先Aから仕事を受注しました。
また、Y1は自分の知人(R社は原告の愛人であると主張しています)を取引先Bと共謀してR社に派遣した形に偽装して、派遣の実態がないのに派遣料金をR社から詐取しました。
これらについてR社はY1とY2に対し損害賠償請求訴訟を起こしました。
また、Y1は、R社の退職直前の約lカ月について年次有給休暇の申請をしてR社はこれに対抗し、時季変更権を行使し、その効力も争われました(Y1が反訴を起こした)。
本判決は、退職に当たって業務引継等が不可欠であり、本件年休申請は業務の正常な運営を妨げるとして時季変更権の行使を有効と判断しました。
「これに対し、原告は、被告Y1による有給休暇の取得は事業の正常な運営を妨げるので、平成一八年一一月一三日、有給休暇を取得したい旨の被告Y1の申入れに対し、時季変更権を行使した旨主張するところ、原告代表者は、同月一三日、被告Y1に対し、現時点で被告Y1が有給休暇を取得することを認めることはできず、同月末日までは原告のオフィスで待機することを命じる旨の電子メール(甲六五)を送信し、時季変更権を行使したことが認められる。
そこで、原告による時季変更権の行使が適法であるか否かについて検討するに、(証拠省略)によれば、被告Y1は、平成一四年四月からABプロジェクトにおける最高責任者であるプロジェクトリーダーの地位にあり、プロジェクトチームを管理監督し、顧客に対する営業や顧客との折衝を行い、プロジェクトの進渉、予算及び品質について責任を負っていたこと、原告は、ABプロジェクトの遅延や被告Y1の前記競業避止義務違反を平成一八年一〇月に認識したことから同年一一月一日に被告Y1をプロジェクトリーダーから外し、プロジェクトの体制を切り替えたこと、被告Y1は、プロジェクトリーダーから外れた後、原告に退職を申入れるに当たってプロジェクト引継ぎのためのレポートを作成したものの、A社との間でABプロジェクトに関する方針を決定していく経緯、方針の内容等について同レポートの内容とA社の認識との間に齟齬があったこと、被告Y1が指定した有給休暇の期間は、同月一三日から三四日間という長期にわたるものであったことが認められ、これらの事実を総合すれば、ABプロジェクトの運営に関してA社に対する対応、交渉を行うため、プロジェクトリーダーであった被告Y1による業務引継ぎや説明が不可欠であったといえ、被告Y1による有給休暇の取得は事業の正常な運営を妨げるものと認められるから、少なくとも同月末日までは有給休暇の取得を認めないとした原告の時季変更権の行使は適法というべきである。」
実務上、退職予定者が突然未消化年次有給休暇を使用し引き継ぎを行わない事は大変頭の痛い問題です。
本判決は、この問題について使用者側の時季変更権行使を肯定する唯一の裁判例であると思われます。
しかし、この裁判例を根拠に退職直前の有給休暇使用に対し時季変更権を行使できるかは疑問があります。
本件は、①大企業との重要プロジェクトの最高責任者であったこと②不正行為が発覚し突然最高責任者から外れることになり、引き継ぎのレポートを作成したが、その内容では不十分であったこと③有給休暇使用予定期間が34日間という長期にわたるものであったことから時季変更権が認められたものであり、ここまでの事例は滅多に無く、この裁判例を根拠にどのような事例でも退職直前の有給休暇使用に対し時季変更権を行使できるかは疑問があります。
もっとも、この裁判例があることにより、時季変更権を行使できる場合もあるかもしれませんので知っておいて損はありません。
よく退職代行会社が年次有給休暇の退職時までの一括取得を行ってきますが、私の知る限り多くの退職代行会社は書面やメールでのやりとりでの引き継ぎには応じています。
そして、実際には不十分ではありながら何とかその後の業務を引き継ぐことはできています。残念ながら退職代行会社を使うまでに至っている従業員の方に出社による引き継ぎを期待することはできませんので現実的な対応をせざるをえないと思われます。
また、退職予定者とやりとりができる関係であれば、年次有給休暇を金銭で買い取ることを条件に引き継ぎに応じてもらうという方法も昔からあり効果的です。
残念ながら退職すると決意した段階で、これまでの使用者パワーは通じなくなりますので、現実的にはお願いベースにより金銭で交渉するしかできません。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:向井蘭弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
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