役割給、役職手当及び資格手当が固定残業代として有効と認められた例

役割給、役職手当及び資格手当が固定残業代として有効と認められた例

役割給、役職手当及び資格手当が固定残業代として有効と認められた裁判例(東京地裁R5.10.6判決)をご紹介致します。

役割給、役職手当及び資格手当が固定残業代として有効と認められた例

 

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1. 事案の概要

本件の被告は、接骨院・整骨院・鍼灸院の運営等を業とする株式会社です。

原告は、平成30年8月1日、被告との間で、仕事内容を施術及び接客業務として、期間の定めのない労働契約を締結した者であり、被告の運営する整骨院で勤務していました。

原告の給与は、基礎給17万3000円、役割給2万円、資格手当5万円、役職手当6万円、調整給6万7000円、家賃手当2万円でした。

原告が入社した当時の給与規程には、以下のように定められていました。

「役割給は、人事考課の結果を踏まえて、本人の役割に応じて支給する。なお、役割給の金額は本人の役割に応じて、業務量が多くなることを見込んで、割増賃金見合分として、別紙で定める金額を支給するものとします。」

「役職手当は人事考課の結果、役職者に対し、支給する。なお、役職手当の金額は役職者の役割に応じて、業務量が多くなることを見込んで、割増賃金見合分として、別紙で定める金額を支給するものとします。」

「資格手当は、会社が指定する資格を有するスタッフに支給する。なお、資格手当の金額は資格に応じて、業務量が多くなることを見込んで、割増賃金見合分として、別紙で定める金額を支給します。」

これらの手当が固定残業代として有効かが主要な争点となりました。

 

2.裁判所の判断

固定残業代の有効性について、裁判所は以下のように判示しました。

原告入社当時の給与規程に定められた役割給、役職手当及び資格手当は、いずれもその名称からは直ちに割増賃金の支払と解することはできないものの、給与規程の本文には、それぞれ本人の役割、役職者の役割及び資格に応じて、いずれも業務が多くなることを見込んで、割増賃金見合分として支給する旨が明記されていることからすれば、これらの手当はいずれも、その金額が割増賃金に対する対価として支払われたものと認めるのが相当である。

原告は、役割給、役職手当及び資格手当の合計は13万円と高額であり、このような固定残業代の定めは、労基法36条4項の規制である45時間を上回る時間外労働(※原告主張によると64時間分)を想定しており、時間外労働を恒常的に行わせることを前提とした規程であると主張する。しかしながら、固定残業代の額と従業員が実際に行う時間外労働の時間とは直ちに結び付くものではなく、時間外労働を恒常的に行わせることを前提とした規程であるとの原告の主張は採用することができない。

以上によれば、役割給、役職手当及び資格手当は、いずれも給与規程において固定残業代として有効に定められていると認められる。

 

3. まとめ

私のニュースレターVol.106(令和5年3月号)で管理職手当、職務手当が固定残業代の支払いとして有効と認められた裁判例(大阪地裁R4.8.4判決)をご紹介致しましたが、今回は役割給、役職手当、資格手当が固定残業代と認められた裁判例をご紹介致しました(ちなみに上記大阪地裁の事件の原告は管理柔道整復師で本件と同様の業種であるのは偶然でしょうか)。

判決でも触れられているとおり、名称のみからは固定残業代とは解されない役割給、役職手当及び資格手当について、給与規程の定めから固定残業代として有効と判断しました(上記大阪地裁の事件も賃金規程の定めが重視されています)。

規程改正の経緯についてみると、例えば役職手当は改正前は「役職手当は、スタッフの従事する役職、職務及び発揮能力を考課の上、決定します。なお、役職手当の中には、一定額の時間外労働賃金見合額、または深夜割増賃金見合額に代えて支給するものとします。」と定められていました。つまり、その一部が残業代とされていたにすぎず、改正によって全部を残業代にしたとなると不利益変更にも当たります。もっとも原告との関係では当初から改正後の給与規程が適用されていたとの認定でしたので、不利益変更の点は判断されていません。

このように名称の点や、もともと手当の一部に時間外割増分が含まれていたのを改訂して全額を固定残業代とした経緯、45時間を超える時間外労働見合分であること等から、固定残業代として有効との判断には異論もあり得るかもしれません

固定残業代制度を導入する際にこのような名称の手当とすることはお勧めしませんが、紛争になった場合、給与規程の定めを唯一の根拠として有効とした本件裁判例は使用者側にとっては有利な裁判例として引用できるかと思います。

 

役割給、役職手当及び資格手当が固定残業代として有効と認められた
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この記事の監修者:岡 正俊弁護士


岡 正俊(おか まさとし)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岡 正俊(おか まさとし)

【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業。平成13年弁護士登録。企業法務。特に、使用者側の労働事件を数多く取り扱っています。最近では、労働組合対応を取り扱う弁護士が減っておりますが、労働事件でお困りの企業様には、特にお役に立てると思います。

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