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弁護士の平野剛です。過半数代表者の選出手続きについては、昨年6月のニュースレター「過半数代表者の選出方法のご参考に。」でも裁判例(東京地裁令和4年12月26日判決)を取り上げてご紹介しました。ちょうど1年経ち、この点について改めて参考となる(?)裁判例(松山地裁令和5年12月20日判決)に接しましたので、ご紹介します。
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目次
就業規則の意見聴取や36協定等の各種労使協定の締結当事者である労働者の過半数代表者については、労働基準法施行規則第6条の2第1項において、以下のとおり定められています。
このうち、「ⅱ」の選出方法における「等」については、「労働者の話合い、持ち回り決議等、労働者の過半数がその者の選任を支持していることが明確になる民主的手続きが該当する」との行政解釈(平11.3.31基発169号)があります。
本件の被告は学校法人Y大学で、研究活動を中心とする教育職員について専門業務型裁量労働制を適用すること等を内容とする就業規則の変更を行い、過半数代表者との間で労使協定を締結して運用を開始しました。これに対し、適用対象とされた原告らは、専門業務型裁量労働制が無効であると主張して残業代の支払いを求めて提訴し、無効であることの理由の1つとして過半数代表者の選出手続きの瑕疵を取り上げました。
Y大学には、教職員会が作成した過半数代表者選出規程(以下「本件選出規程」)という定めがあり、その中では、(ア)選出選挙を行うため、過半数代表者が指名する者1名を含む5名の委員で構成される選挙管理委員会を置くこと、(イ)信任投票において選挙権者が投票しなかった場合は有効投票による決定に委ねたものとみなすこと、などの定めがありました。なお、平成30年4月当時、Y大学には教育職員347名、事務職員179名(計526名)がおり、教職員会には教育職員93名、事務職員124名(計217名)が加入していました。
平成29年度の過半数代表者は、同年4月25日に行われた立候補者A教授の信任投票において、選挙権者数439のうち、信任124票、不信任0票で、本件選出規程の(イ)の定めにより、A教授が過半数代表者(任期平成30年3月31日まで)に選出されました。平成30年3月16日、A教授は過半数代表者としてY大学との間で専門業務型裁量労働制に関する協定書を締結しました。
平成30年度の過半数代表者の選出については、原告甲野の立候補をめぐってY大学側が干渉するなどのゴタゴタがあり、いったん選挙管理委員会が解散するといった事態がありました。
また、平成30年10月には、労働基準監督官からY大学に対し「労働者の過半数代表者を選出する際は、当該労働者の過半数が当該代表者の選出を支持していることが、より明確になるような民主的手続きによって選出されるよう改善をお願いします」との指導票が出されました。
過半数代表者が不在の状態を打開するため、Y大学からの要請を受け、教職員会は、教職員会の執行委員会が推薦した4名との間で行った協議及び平成31年2月7日開催の教職員会の代議員会での決議の結果、この推薦された4名で選挙管理委員会を構成することとしました。
この選挙管理委員会のもと、平成31年2月27日、平成30年度の過半数代表者の立候補者であるF教授の信任投票が行われ、選挙権者数445、信任242票、不信任38票で、F教授が同年度の過半数代表者(任期平成31年3月31日まで)に選出されました。同年3月27日、F教授は過半数代表者としてY大学との間で専門業務型裁量労働制に関する協定書を締結しました。
判決は、過半数代表者について「使用者に労働基準法上の規制を免れさせるなどの重大な効果を生じさせる労使協定の当事者であり、いわゆる過半数労働組合がない場合に過半数労働組合に代わってその当事者となることが定められていることを踏まえると、過半数代表者の選出手続は、労働者の過半数が当該候補者の選出を支持していることが明確になる民主的なものである必要がある」と述べました。
判決は、A教授の信任投票について「A教授の選出を明確に支持している労働者は、選挙権者全体の約25パーセントにすぎない」旨を指摘し、「A教授は、『労働者の過半数を代表する者』とは認められない」と述べ、平成30年度の労使協定は無効であると判断しました。
平成30年度のF教授の信任投票に携わった選挙管理委員会では選挙管理委員のうち「過半数代表者が指名する者1名」が欠員となっていました。判決は、この点について、「他の4名の委員(本件教職員会が推薦する教育職員2名及び事務職員2名)とは異なり、全労働者の選挙により選出された過半数代表者が指名する者であって、選挙の中立性において重要な役割を果たす者
であった」と述べ、「選挙管理委員会の業務には、選挙権者及び被選挙権者名簿の作成、投開票の管理及び報告書の作成といった公正な選挙の根幹をなすものが含まれている上、選挙の効力の異議申立てに対する審議という選挙の効力に関する自律的な判断権をも付与されている
ことを考慮すれば、選挙管理委員会の委員のうち過半数代表者が指名する者1名の欠員は、軽微な瑕疵とは認められない」と述べました。
判決は、これに加えて、①Y大学側による原告甲野の過半数代表者への立候補に対する不当な介入につき、問題の解決に向けた取組みをしなかったこと、②①のため当時の選挙管理委員全員が辞職して委員会を解散したこと、③選挙管理委員会がそのような経緯の中、本件選出規程に定められた委員の構成に従わず、Y大学の依頼を受けた本件教職員会の内部における協議によって設置されたものであること、④選挙管理委員会は、労働組合から選挙管理委員会の委員の構成が本件選出規程に定められた要件を満たしていない旨の指摘がされたにもかかわらず、その対応をしないまま平成30年度の過半数代表者選出選挙を実施したこと、⑤原告らが、選挙管理委員会に対し、票の見分や選挙結果の詳細な説明を求めるとともに、選挙の効力に異議があるとして異議申立てをしたが、原告らの異議を認めなかったこと、を事実として指摘しました。
そのうえで、「以上の事実を総合すると、平成30年度の過半数代表者選出選挙は、その公正さに疑義があるといわざるを得ず、同選挙において、選挙権者の過半数がF教授の選出を支持していることが明確になるような民主的な手続がとられたとは認められない」と述べ、「F教授は、労働者の『過半数を代表する者』とは認められない」とし、平成31年度の労使協定は無効であると判断しました。
本件選出規程の(イ)の条項のような「信任みなし」の取扱いをしようとするケースは、実務において時々目にすることがあります。しかし、冒頭でご紹介した行政解釈で示されている「労働者の過半数がその者の選任を支持していることが明確になる」という観点からは、一般的には、このような信任みなしの取扱いは有効とは認められにくいケースが多いのではないかと思われます。その意味で、本判決のうち平成29年度の過半数代表者に関する部分は参考になります。
他方、平成30年度の過半数代表者は、選出までのゴタゴタがあったとは言え、実施された選挙において選挙権者の過半数の信任を得ています。本件選出規程所定の委員が欠員だったとは言え、それは前年度の過半数代表者の選出が無効となってしまえば、その欠員を補充することは不可能です。そして、その瑕疵を是正するためには本件選出規程の改正が必要となる筈です。しかし、そもそも本件選出規程は就業規則ではなく、かつ、労働者の過半数にも満たない職員らによって構成される教職員会作成されたに過ぎないものです。その教職員会においても、欠員がある状態で選挙管理委員会を構成することが代議員会によって決議されていて、本件選出規程を作成した教職員会内部において欠員についてのコンセンサスがとられているとも評価できます。それゆえ、このように選挙管理委員に欠員があったことをもって、実際に実施された選挙で労働者の過半数の信任を得ていた者を過半数代表者とは言えないとまで判断すべき事情と評価すべきではないと私は考えます。
その他、裁判所が取り上げる事情の①~④についても、過半数が信任投票をした者を裁判所が過半数代表者と認めないほどの事情とまで評価すべきものではないと私は考えます。⑤については、確かに、票の見分に疑義があるのであれば理解できますが、判決で現れた事情からはそこまでの事情は窺えません。
判決の評論文のような形で長くなってしまいましたが、本件はY大学側が控訴をしたそうですので、控訴審がどのような判断を示すのか注目していきたいと思います(和解で終わるのかもしれませんが)。
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この記事の監修者:平野 剛弁護士
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