就業規則の書き間違えは許されない

就業規則の書き間違えは許されない

 

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1. 就業規則の書き間違えについて

人間誰しもミスはありますが、場合によってはそのミスが思わぬ結果につながることがあります。

就業規則においても同様のことが言えます。人間が就業規則を作る以上どうしてもミスが出てしまいます。

しかし、使用者が就業規則を間違えて記載し訴訟に発展した場合、そのミスは見逃されることはなく、そのまま会社の責任につながります。

今回は就業規則の書き間違えにより休職規定の適用が否定された事例をご紹介致します。

 

2. 丙川商店事件(京都地裁令和3年8月6日判決)

(事案)
原告は、職場の人間関係のトラブルなどにより適応障害で休職していましたが、その後復職の申し出をしても会社がこれを拒否したため、雇用契約上の地位の確認及び復職申出後の賃金の支払を求めて提訴しました。

そうしたところ、会社は、「業務上の傷病」(就業規則上「業務上の傷病」を休職事由としていた。「業務外の傷病」の誤記と思われる)による休職期間を6か月とする就業規則の規定を根拠に、原告らは休職期間満了により既に自然退職していると主張しました。また、会社に無断で再就職したことなどを理由に原告らを予備的に解雇しました。

争点は色々あるのですが、就業規則上「業務上の傷病」と記載があるにもかかわらず、業務外の傷病に休職規定を適用されるかが争われました。

(判決)
「(1)本件就業規則17条1号は,休職事由の一つとして,文言上,「業務上の傷病により欠勤し3カ月を経過しても治癒しないとき(療養休職)」と規定している。一方で,本件訴訟において,原告らは,原告らの各休職事由につき,「業務上の傷病」であるとは主張しておらず,「業務外の傷病」として取り扱われることについて当事者間に争いはない。」

「そこで,本件就業規則17条1号の文言にかかわらず,原告らに同号の適用があるかについて検討する。

(2)被告は,労働基準法上,業務上の傷病により休職中の従業員を退職させることはできないから(同法19条),本件就業規則17条1号に「業務上の」とあるのは明白な誤記であり,正しくは「業務外の」であるとして,原告らに同号が適用されると主張する。

確かに,業務上の傷病の場合に休職中の従業員を解雇することは労働基準法19条に反し,強行法規違反として無効の規定となるから,本件就業規則17条1号に「業務上の」と記載されているのは,同規則作成時において,何らかの誤解等があった可能性は否定しきれない。

また,一般に,業務外の傷病に対する休職制度は,解雇猶予の目的を持つものであるから,本件就業規則17条1号を無効とはせずに,「業務外の傷病」であると解釈して労働者に適用することは,通常は労働者の利益に働く解釈であると考えられる。

しかしながら,本件においては,上記規定による休職期間満了後も引き続き被告から休職扱いを受けてきた原告らが,上記休職期間満了により既に自然退職となっていたか否かが争われている。

このような場面において,労働者の身分の喪失にも関わる上記規定を,文言と正反対の意味に読み替えた上で労働者の不利に適用することは,労働者保護の見地から労働者の権利義務を明確化するために制定される就業規則の性質に照らし,採用し難い解釈であるといわざるを得ない。

(3)したがって,本件就業規則17条1号を「業務外の傷病」による休職規定であるとして,これを原告らに適用することはできないというべきである。」

つまり、裁判所は、休職事由は業務外の傷病であることに争いはないものの、「業務上の傷病」という就業規則を原告らに不利に読み替えて適用することは許されないとし、退職扱いを無効としました。

 

3. 就業規則の書き間違えは許されない

就業規則の目的の一つには使用者と労働者の労働契約関係の画一的・統一的処理を行うということがあります。

画一的・統一的処理を行うためには、書かれている内容をそのまま解釈する必要があり、個別の事情などを考慮しなければならないのであれば画一的・統一的処理を行うことができません。

そのため、就業規則の条項の書き間違い・書き漏らし・実態との相違は会社に不利益に扱われることになります。

特に就業規則の最低基準効(労契12条)から実態と相違する労働条件が適用されてしまい思わぬ不利益を被ることになります。

詳細は紹介しませんが、就業規則に1日の所定労働時間を8時間と記載すべきところ誤って7時間30分と記載しまったことから、30分間の法内残業代の支払いを命じられた事例(東京地裁平成27年2月18日判決)、60歳を超えていた嘱託社員が、 嘱託社員を適用対象外としなかったため、退職時に退職金規程に基づく退職金請求が認められた事例(大阪高裁平成9年10月30日判決)などがあります。

定期的に就業規則の内容を確認し、条項の書き間違い・書き漏らし・実態との相違が無いようにする必要があります。

 

就業規則の書き間違えは許されない
事例には専門的な知識が必要です。

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この記事の監修者:向井蘭弁護士


護士 向井蘭(むかい らん)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)

【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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