日本全国に対応しております!
受付時間:平日9:00~17:00
日本全国に対応しております!
弁護士の平野剛です。今回は、職務において著しく協調性を欠いて解雇が有効と認められた社員に対して会社が行った対応がパワハラの一類型である「職場の人間関係からの切離し」として不法行為に該当するか否かが判断された裁判例(東京地裁令和5年10月25日判決)をご紹介します。
お電話・メールで
ご相談お待ちしております。
受付時間:平日9:00~17:00
受付時間:平日9:00~17:00
日本全国に対応しております!
目次
⑴ 本件の被告は、美術品・骨董品・酒類の競り売りの企画及び開催等を目的とする会社で、世界的な企業の日本法人です。原告は西洋美術部門のクライアントサービス・コーディネーター(以下「CSC」)の職位で被告に入社した社員です。
⑵ 原告は、仕事の選り好みがあったり、協調性を欠いてチームワークをもって業務遂行できなかったりするなどの問題があり、被告は原告を解雇しました。
本件ではメインの争点として解雇の有効性が争われましたが、判決では、「雇用された当初から、
〔1〕西洋美術部門の事務(原告が関心のない業務を含む)の遂行に積極的に関与していない、
〔2〕チームの一員として働くことができず、他の従業員とのコミュニケーションを通じてチームワークを促進することができていない…との問題点があり、本件注意書等及びこれに伴う面談の際に被告代表者から具体的に指摘されたにもかかわらず改善しなかった」と述べられ、解雇有効と判断されています。
⑶ 被告は原告の解雇に至るまでの間に、繰返しの注意指導を行ったものの改善が見られず、また退職勧奨を行ったものの原告が拒否したため、配置転換をして職位をCSCからオフィスアシスタントに変更していました。
配置転換後、会社は原告に対して各種措置を講じました。各種措置・対応について原告は訴訟において不法行為であると主張しており、そのうちの幾つかについての判断内容を次項でご紹介します。
⑴ ① 会社ではローテーションで出社と在宅勤務を交代でさせていたが、原告には全て出社するように求め、在宅勤務用に貸与していたPCを返却させたこと
「命じられた業務の内容・・・からすると、原告は事務所に出勤して行う業務が多かったと認められるから、原告のみにこのような勤務を命じ、在宅勤務用のパソコンを返却させたとしても、原告を差別的に取り扱ったとまではいえず、不法行為を構成するとはいえない。」
⑵ ② 社員の電話番号リストから原告の電話番号を削除するとともに、原告を西洋美術部門のグループLINEから退出させたこと
「電話番号リストに自身の電話番号を掲載されることに法的に保護に値する利益があるとはいえず、また原告の要望を受けて電話番号は再掲載されていること・・・からすると、電話番号を削除したことが不法行為を構成するとはいえない。また、西洋美術部門のグループLINEから退出させたのは、原告が西洋美術部門の業務を担当しなくなったからであり・・・、この点でも不法行為を構成するとはいえない。」
⑶ ③ 正社員が全員出席する毎週月曜日の朝の定例会に原告のみ出席させなかったこと
④ 正社員のうち原告だけ社内業務管理システムや共有サーバーへのアクセスを遮断したこと
⑤ 原告が参加を希望した勉強会に、顧客対応向けのレクチャーであることを理由に参加を断ったこと
と
「それぞれ単体の事実のみを検討した場合には、個々の行為が不法行為を構成するかについて疑義はある。しかしながら、
〔1〕朝の定例会では、顧客に関する情報以外の情報も話題に上っており・・・、被告の他の従業員(正社員)は全員出席している中で、情報共有の場として原告に出席を禁止するまでの必要性があったとまではいえないこと、
〔2〕SAPシステムに関しては原告の職務内容に明確に含まれている・・・とともに、クライアントシステム及び共有サーバーへのアクセスについても、被告代表者は秘密漏洩の可能性を感じたものの、何か具体的な兆候があったわけではない旨供述している・・・のに対し、現に原告は・・・命じられた翻訳業務に関して、共有サーバーで自ら参考となる資料を探そうとしても、これができない旨を表明しており・・・、従業員(正社員)の中で原告のみをアクセスできなくする必要性が乏しいこと、
〔3〕勉強会についても、社内のカレンダーに記載され、原告を除く被告の従業員(正社員)すべてに案内されているものであり・・・、従業員(正社員)の中で原告のみ参加を禁止する必要性に乏しいことからすると、これらの一連の行為は、原告のみを被告の社内で孤立させ人間関係から切り離す目的で行われたと認められる。そうすると、原告に解雇事由に該当する事実があったことを考慮しても、これらの行為は原告の職務環境を意図的に悪化させるものであり、良好な環境で就労する原告の法的な利益を侵害するものであって、不法行為を構成するというべきである。」
上記の①はともかくとして、②~⑤については第三者の目で全体として見ると、原告に対する嫌がらせ目的であると評価されてもやむを得ないもののように見えてしまいます。
このように会社側の労働者に対する嫌悪意思が透けて見える場合には、ハラスメントだけではなく、解雇その他の会社の対応についても裁判所が厳しく判断することが少なくないのですが、本件では解雇は有効と判断されています。
それほど問題のある原告に対する対応ですら、原告だけを外すことについて業務上の必要性を欠くものや、原告が業務を行う上で支障が生じるようなものについては、これらを全体としてみて、不法行為にあたると判断されています。(②のうち電話番号のリストから削除することについても、不法行為と判断されても不思議ではないように思います)。
業務上の必要性を欠いた対応で就労環境を悪化させるものはハラスメントと判断されるおそれがあることは当然のことではありますが、いわゆるパワハラの一類型である「職場の人間関係の切離し」の典型例として参考になると思われ、ご紹介しました。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
まずはお気軽にお電話やメールでご相談ください。
この記事の監修者:平野 剛弁護士
その他の関連記事
キーワードから記事を探す
当事務所は会社側の労務問題について、執筆活動、Podcast、YouTubeやニュースレターなど積極的に情報発信しております。
執筆のご依頼や執筆一覧は執筆についてをご覧ください。