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労働基準監菅が会社に調査に来る場合には、定期監督・申告監督(労働者からの申告)・災害時監督・再監督の4種類があります。
主に労働基準法や労働安全衛生法などの労働基準関係法令を遵守しているかについて、事業所への立入調査や事情聴取等の調査が行われます。
また、是正勧告や改善指導を受けた場合には、適切な報告をしないと送検や企業名の公表にまで発展するリスクがあるため、指導等を無視したり放置したりするのではなく、適切に改善を図り、是正報告をする必要があります。
その中でも、後述するとおり、以下の点について留意する必要があります。
・資料を改ざんしない
・求められた資料を提出する
・法的に見解が対立する場合は意見書を提出する
・金銭的な余裕が無い場合は一部払いや分割払も提案する
目次
労働基準監督署は、管内の事業主が労働基準法や労働安全衛生法などの労働基準関係法令を守っているかを監督する厚生労働省の出先機関のことをいいます。
全国に321署あり、役割に応じて4つの課(方面(監督課)、安全衛生課、労災課、業務課)から構成されています。
【労働基準監督署の役割(パンフレット)厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署】
また、方面(監督課)の主な仕事内容としては、申告・相談の受付、臨検監督・指導、司法警察事務等を行っています。
以下では、主に臨検監査についてみていきます。
臨検監督(労基法101条1項)は、以下の4種類に分類されます。
①定期監督:当該年度の監督計画に基づき、調査対象となった企業に対して、法令の全般に渡って行われる調査のことをいいます。
原則として抜き打ちで調査が行われますが、書面や電話等で日程調整をしてから行われる場合もあります。
②申告監督:労働者からの法令違反等の申告があった場合(労基法104条1項)に、その申告内容について行われる調査のことをいいます。
なお、申告者名については、本人の了承なく使用者側に伝わることはありません。
また、申告監督であることが分からないように定期監督を装って調査に来る場合もあります。
③災害時監督:一定規模程度以上の労働災害が発生した際に、原因究明や再発防止の指導を行うために実施される調査のことをいいます。
④再監督:①~③の監督の結果発見された(是正勧告した)違反が是正されたかどうかを確認するために行われる調査のことをいいます。
実際に臨検監督が行われる場合の一般的な流れは、以下のとおりです。
【労働基準監督署の役割(パンフレット)厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署】
以下では、是正勧告・改善指導が行われた場合やその後の是正報告の対応等についてみていきます。
臨検監督により労働基準法や労働安全衛生法等の違反事実が明らかになった場合等には、是正勧告・改善指導等が行われます。
①是正勧告の場合、「是正勧告書」に法違反の条項、違反事実、是正期日等を記載して交付されます。
なお、是正勧告は行政処分(行政機関が国民に対し、法律の定めに従って権利を与えたり義務を負わせたりすること)ではなく、あくまで強制力のない行政指導です。
そのため、使用者はこれに従う法律上の義務を負わず、その改善は任意の協力によってなされるものです。
もっとも、当該違反状態を放置することになれば、送検(司法処分)される可能性があることから、間接的な強制力をもっています。
②改善指導の場合は、労働基準関係法令に違反はないが、改善することが望ましい事項について記載をした「指導票」が交付されます。
この場合は、すぐに送検されることはありませんが、今後も定期的に監督がなされる可能性が高く、また是正勧告の対象となる可能性もあるため、指導に従い適切に改善を図る必要があります。
是正勧告・改善指導が行われた場合、是正勧告書や指導票に記載の内容及び是正期日を確認し、期日までに是正報告書等によって改善を行ったことの報告を行います。
なお、是正期日がかなりタイトに設定してある場合もあり、当該期日までに是正報告をすることが難しい場合には、担当の労働基準監督官に理由を説明し、期日を延期してもらう場合もあります。
ニュースで「○株式会社の労働基準法違反について○労働基準監督署が検察庁に書類送検しました」との報道を耳にしたことが有る方もいらっしゃると思います。
「書類送検」と言うと何かそれ自体が刑罰であるかのように聞こえますが、「送検」自体は刑罰ではありません。
刑事事件では、刑事訴訟を起こせる(起訴)のは原則として検察官に限られます。
そのため、ある事件について関係者を処罰するためには検察庁に事件を送致する必要があります。
刑事事件の場合、一般的には警察が被疑者について事件を捜査し刑罰を求める場合、警察が事件を検察庁に送致することになります。
これらの検察庁に送致する手続きを送検と呼びます。
労働基準法違反については労働基準監督署が刑罰を求める場合、労働基準監督署が事件を検察庁に送検することになります(労基法102条)。
是正勧告された法違反の状態を放置する、あるいは改善していないのに改善したと虚偽の報告をするような場合には、悪質な事案であるとして送検(司法処分)されることがあります。
虚偽の報告であることは、その後の再監督や労働者の通報等から判明するような場合もあります。
虚偽の報告を行ったこと自体が労働基準法104条の2の違反として、30万円以下の罰則が科されるおそれもあります(労基法120条5号)。
では送検されるのはどのような場合でしょうか。
私見では以下の4つの場合に分けられると思います。
①是正勧告累計違反型
数年前、度重なる労働基準監督署の是正勧告に従わずに違法な長時間労働を従業員に繰り返し行わせていたとして大手企業が送検されたことがありました。
この大手企業については、本社のみならず全国に存在する支店でも過去に合計数十回に渡る是正勧告を受けていたことが報道されました。
労働基準監督署が全ての法違反について送検をするわけではないのですが(物理的にも不可能です)、やはり長期間にわたり繰り返し是正勧告に従わず、もしくはその場限りの改善をして何度も法違反を繰り返しているような場合は労働基準監督署も刑事罰を求めるのもやむを得ないと考え送検することになります。
②証拠隠滅型
タイムカード等の労働時間に関する記録を改ざんしたり、証拠を隠滅する行為についても送検することがあります。
「証拠隠滅」「改ざん」というと「うちの会社には関係が無い」と思われるかもしれませんが、そうとは限りません。
現在、全国展開している会社では本社の号令の下、徹底した労働時間削減に取り組んでいる事例が多いです。
しかし、現場の営業所や事業所では「どうせ本社が言っているだけだ。
現場の営業ノルマが下がるわけではなく、労働時間削減は達成できるはずがない。
本社がうるさいので打刻されたデジタル記録を改ざんしてしまおう」として、営業所長が労働時間の記録の改ざんに安易に手を染めてしまう事例が出てきています。
また、ある上司は「お前はどうしてこんなに労働時間が長いのだ。打刻した労働時間で給与計算が自動的になされるからとんでもない残業代になる。大した仕事もしていないくせにありえない」と述べて、打刻されたデジタル出勤記録を改ざんしてしまう事例もありました。
いずれの事例も送検されました。
単なる法違反だけではなく証拠隠滅行為まで行っている場合は、刑事罰もやむを得ないとして送検することもあり得ます。
③外国人不法就労連動型
意外に思われるかもしれませんが、外国人の不法就労問題と労基法違反が重なっている場合は送検されることが多いです。
ある飲食チェーン店は、外国人留学生を法律で定められている留学生の制限労働時間を超えて働かせていました。
留学生も「お金を稼ぎたいので働かせてください」と希望していたため、経営者には罪の意識はありませんでした。
ところが留学生が友人の留学生を紹介し、またその留学生が友人の留学生を紹介することで、瞬く間に店の従業員が留学生だらけになりました。
36協定も結んでおりませんでした。
ほどなくして入国管理局の調査が入り、かつ入国管理局は労基署に通報し、労基署の監督指導も入ることになりました。
労基署としては入国管理局からの通報という事実を重く見て、違法な長時間労働をさせていたということで送検をすることにし、マスコミに社名を公表しました。
この飲食チェーン店は法違反企業として全国報道をされてしまいました。
以上は実例です。人手不足の時代、様々な職場でも起き得る事例かと思います。
④死亡災害型
うつ病自殺、過労自殺、過労死、様々な事案がありますが、人の命が結果として失われた場合は送検されることが多いです。
労働基準法、労働安全衛生法は究極的には働く人の命を守るための法律です。
その究極の目的を実現できなかった場合は刑事罰もやむを得ないと判断しているのではないかと思われます。
今後法改正がなされますと「今月は○時間以内に残業時間を抑えないといけない」などと目先の数字が気になるかと思いますが、重要なのは従業員の健康と命ですので、本末転倒にならないようにあくまでも従業員の健康と命を守るために何をするべきか考える必要があります。
実際の対応については以下の点に気をつける必要があります。
上記の送検類型の通り、資料を改ざんしたことが主な理由と思われる送検事例は毎年後を絶ちません。
特にタイムカードは最近デジタル型のものが多く、数字を簡単に変えることができ、改ざんの誘惑に駆られるようです。
もっとも、現在は労働基準監督署もデジタル記録を復元することができ、改ざんを見破ることができます。
くれぐれも資料を改ざんしないようにしましょう。
特定の企業は労働基準監督署が求めた資料を提出しないことがありますが、やましい事があるのではないかと疑われ、得策とは言えません。
資料を提出した上で、法的に主張するべき所は主張するべきです。
労働基準監督署に法的意見を述べることを遠慮してしまう風潮がありますが、書面にて法的意見書を提出することが適切な場合もあります。
このような意見書の提出により、会社の主張を事実上労働基準監督署が認めたこともあります。
労働基準監督署は債権回収をその業務としているわけでないため、会社に残業代を全て支払うことを求めないことが多いです。
そのため、会社の財務状態などを説明し、従業員に分割払いや一部払いを行うことを内容とした是正報告を事実上認める場合もあります。
いずれにせよ、労働基準監督署は「敵」ではありませんので、上記の留意点に気をつけながら担当する労働基準監督官と話をしながら進めれば大きな問題には発展しませんので過度に恐れる必要はありません。
使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:向井蘭弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
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