治癒後の復職判定期間中の労務不提供は使用者の責任か?

治癒後の復職判定期間中の労務不提供は使用者の責任か?

休職期間満了による退職扱いが無効とされたものの、復職判定に一定の時間がかかると想定されたことから、その期間中の労務不提供は使用者の責めに帰すべき事由によるものではないとして賃金支払請求の一部を認めなかった裁判例(大阪地裁R6.5.21判決)をご紹介致します。

 

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1.事案の概要

本件は、被告と労働契約を締結し、その後休職を命じられた原告が、休職事由が消滅し、復職の申出をしたにもかかわらず、被告がこれを拒否し、令和3年2月6日の休職期間満了により退職扱いとしたことが違法無効であるとして、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、及び復職を申し出た日以降の未払賃金の支払等を求めた事案です。

被告の就業規則や復職審査実施要領では、試し出勤や復職判定委員会による審査について定められていました。また、令和3年1月時点の休職期間中の給与は約18万円でした。

【時系列】
H31.2.7 休職命令(2年間)
R1.10.24 復職申出
R2.3.30~ B社のリワークプログラム(4週間)を受けたが原告3回欠席を理由に4.24に中止
R2.5.25 原告・上司・Bの担当者が面談。上司から原告に対し、Bの再リワークを受けるためにはBとは別に自主的リワークを受けることが必要と説明。
R2.6.9 原告、C実施の別件リワークを受けることを決定、被告に通知。費用は原告が負担。
R2.6.16~ 別件リワークプログラム実施
R2.10.26 復職判定委員会開催
・11月から再リワーク受講が必要なため本日その可否を判断する必要あり。
・産業医の意見=別件リワークで自身に対する振り返りなく受講による変化なし。
・B担当者の意見=原告の変化確認できず、再リワーク受ける状態にない。
・委員長の発言=再リワーク受講のための努力、改善等確認できず、再リワーク受講不可
・10月30日に原告に再リワーク受講不可と伝達することを決定
R2.10.30 原告に再リワーク受講不可と伝達
R3.1.18 原告代理人の内容証明郵便=復職可能の診断書があり、直ちに復職させること
R3.2.6 休職期間満了により退職

 

2. 裁判所の判断

(1)原告が遅くとも休職期間満了時において就労可能な程度に傷病が治癒していたかについて

ア 身体症状について 
まず、欠席等でリワーク中止になったことから、令和元年10月24日の復職申出時点で治癒していたと認めるのは困難としました。その上で、複数の医師による診断、別件リワークは体調不良により欠席していない等の理由から、遅くとも令和3年2月6日までに身体症状は治癒していたと認めるのが相当としました。

イ 精神症状について 
また、復職可能である旨の令和2年11月25日付診断書があること、別件リワークでの平均点が基準をクリアしていること、平日ほぼ毎日出席しており、カルテ等にも精神状態が就労に耐えられないとの記載は見当たらないこと等から、遅くとも令和2年11月25日の時点で精神症状は治癒していたとしました。

ウ 被告主張について 
被告は、精神的ストレスについて振り返りがないとのBの意見書を根拠に精神症状は治癒していないと主張していましたが、意見書が根拠として不十分であること、振り返りがない状態は休職前の言動であり適応障害に該当するものではないこと等から、精神症状が治癒していないとは言えないとしました。 
被告は、別件リワークでは業務に耐えられるという確認が行われていないと主張しましたが、被告がもともと設定していた趣旨は異なり(規則正しい生活の確認、再リワークに耐えうる体力の確保、認知行動分析を通じた自省)、業務に耐えられるかは再リワークで判定する予定であったと認められると判示しました。また、原告が別件リワークの費用を負担していたため、別件リワーク選択の適否は早い段階で指摘すべきであったが、被告は何ら意見を述べなかったとし、別件リワークの位置づけを後から変更することは相当でないとしました。

エ 退職扱いの有効性について 
裁判所はこのように判示し、休職期間満了による退職扱いを無効としました。

(2)民法536条2項に基づく賃金請求権の額について

【民法 536条2項】
債務者(=使用者)の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は反対給付(=賃金支払債務)の履行を拒むことができない。

裁判所は、客観的には原告の症状は令和3年2月6日までに就労可能な程度に治癒していたものと認められるが、同月7日以降の原告の不就労が被告の責めに帰すべき事情に基づくものといえるかについては別途検討が必要であるとしました。

そして、被告が、原告を復職させるためには、復職判定委員会での議論・判断、試し出勤、再度委員会での議論・判断、被告の社長による決定のプロセスを踏む必要があると主張しており、かかるプロセスそれ自体は不合理とはいえず、復職の判断までに一定の期間を要するものと認められるとしました。

具体的には、再リワーク受講には事前準備も含め1か月半程度要すること、その後委員会を経て、復職に向けた試し出勤を試行すべきであり、試し出勤後遅くとも令和3年5月末には産業医の意見書や委員会の判断を経て原告を復職させるべきであったとしました。

結論として、令和3年5月末までの労務不提供については被告の責めに帰すべき事由によるものに当たらないとし、休職中に受けていた賃金額の支払のみを認め、令和3年6月以降について賃金全額の支払を認めました。

 

3. まとめ

休職期間満了による退職扱いの判断については、複数医師の就労可能の診断があり、Cでのリワーク(別件リワーク)も欠勤なく実施できていたこと等からすると、無効との判断はやむを得ないように思います。

実際のご相談でも、メンタル面についての振り返りがきちんとされていないといった主張が会社側からなされることがありますが、それだけですと退職扱いとするのはなかなか難しいように思います。

未払賃金支払請求についての判断については、確かに復職判定まで一定の期間が必要であり、原告の復職申請が遅かったのであれば、被告の責めに帰すべき事由には当たらないとして、民法536条に基づく賃金支払請求は認められないということになるかと思います。

この点は、後付けで復職判定手続を盛られたなどと言われないよう、就業規則等で復職判定手続について定めたり、休職発令時に説明しておいた方が良いと思います。

一方で、客観的に休職事由の傷病が治癒した以上は、休職期間満了までに復職判定が間に合わないことを理由に復職不可として退職扱いすることは認められず、休職期間を延長して判断すべきということになるのではないかと思われます。

本件判決でも、原告代理人から内容証明郵便が届いた後、「原告代理人から診断書を取り寄せるなどして復職の可否について再度検討する必要があると判断すべきであって、その検討に必要な期間は、原告の休職期間の延長をすべきであった」としています。

 

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この記事の監修者:岡 正俊弁護士


岡 正俊(おか まさとし)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岡 正俊(おか まさとし)

【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業。平成13年弁護士登録。企業法務。特に、使用者側の労働事件を数多く取り扱っています。最近では、労働組合対応を取り扱う弁護士が減っておりますが、労働事件でお困りの企業様には、特にお役に立てると思います。

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